若者言葉を理解出来なくなった瞬間、人はオジサンになる/高+
万斉、武市との打ち合わせを終えた高杉は、一人部屋に残ってソファに横になった。この所ろくに眠れていなかったのだ。
横になると直ぐにうつらうつらし始めた。意識がすぅ…と落ちていく。
……♪♪〜
微かな音に、高杉は寝返りをうった。覚えのあるメロディーだ。
起き上がって止める気など更々ない。浮かび上がった意識を再び沈める。
〜〜♪♪〜〜♪〜〜♪♪〜〜〜♪〜
「………………」
いつまで経っても音は止む気配がない。メロディーはどんどん意識を絡め取って、頭の中で鳴り続ける。
「………ちっ」
堪り兼ねて高杉はようやく体を起こした。その表情は、正に鬼の如くである。
髪を掻き回しながら音の出処を探ると、向かいのソファの陰に携帯が落ちていた。見たことあるな、と思う間もなく、高杉は着信ボタンを押す。安眠の妨害者に一言文句を言わねば収まらない。
「…いい加減にしろ、てめぇ。どんだけ鳴らしてんだ。さっさと諦めやがれ、殺されてぇのか」
どすを利かせて言えば、電話の向こうで息を呑む気配がある。続いて女の声が返ってきた。
『……あのぉ、これつんぽさんの携帯ですよね…?』
言われて手の中を見れば、成程万斉が外で使っている物だ。
再び端末を耳にあて、そうだな、と短く言った。
「野郎、こいつを落として行ったみてぇだな。ここには居ねえよ」
『……そうですか…。困ったな……こういうのはインスピレーションだから、直ぐにつんぽさんに聴いて欲しいんだけど…』
女がブツブツ言うのを聞きながら高杉は大きく欠伸をする。残念だったなと返して通話を切ろうとすると、あの!と女の高い声が上がった。
『つんぽさんのお友達の方ですよね?貴方でも良いのでちょっと聴いてもらえますか?』
「…あ?」
眠気の纏わりつく頭では反応が遅れた。それを肯定と取ったのか、女は高杉の困惑も無視して突然アカペラで歌い出したのだ。
☆☆☆☆☆
おや?という声にそちらを見れば、男が自分の体中を間探っていた。
「何をしているんです?万斉さん」
武市の問いにも万斉は手を止めずポケットをひっくり返している。
「…いや……携帯が……」
「手に持っているじゃありませんか」
武市の言う通り、万斉は左手に畳んだ携帯を握っていた。しかしこれではないと首を振る。
つんぽの名で使っている方が見当たらないのだ。落としたのだろうか。
高杉の所ではと言われ、万斉は大いに頷く。きっとそうに違いない。
万斉は踵を返して廊下を戻った。
部屋まで戻りそっとドアを開ける。ボスは寝ている筈だ。起こしてはまずい。
「晋す…け……」
高杉はこちらに背を向けて立っていた。良く見れば電話をしているらしく短く応答している。
「あ…」
更に良く良く見れば、高杉の持っている携帯はまさしく万斉が探していた品だった。
どうやら携帯が鳴って起こしてしまったらしい。
その時だ。高杉が振り返った。戸口に立ったままの万斉を見つけ、高杉は電話の相手の話を遮り携帯を万斉に押し付けると、そのまま部屋を出て行ってしまう。
無言のまま見送った万斉の耳に端末から知った声が届いた。
「…もしもし、お通殿でござるか?」
『!つんぽさん!』
通は高杉にいろいろ話を聞いてもらっていたのだと説明すると、謝っておいて欲しいとトーンを落とした。
『突然、ご迷惑だったと思うんです』
しかし万斉には他に気になる事があった。
「今の男、高杉と名乗ったでござるか?」
是という答えに黙りこんでしまう。不安そうに声を掛けてくる通に取り繕った。
「ところで何を話していたのでござるか?拙者、あ奴のあんな顔初めてでござる」
高杉はそれは蒼い顔をしていたのだ。
退却だ!突撃!
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