だって朝は雲ってたんだもん/沖+神
暑い。
何だこの陽気は。
面に出しこそしないものの、沖田は急な天気の変化に辟易していた。
お天気お姉さんのバカヤロー。今日は1日肌寒いんじゃなかったのか。
確かに午前中は厚い雲がかかっていたし空気もヒンヤリしていたけれど。
仕事をサボりに出たは良いが、こうも暑いと何もしたくなくなる。何処かで横になろうかとも思っていたが、眠れないだろう。
そんな訳で目的もなくブラブラ歩いていると、前方の公園から「覚えてろよー!」と喚きながら子供が2人飛び出してきた。
何だ?と思いながら公園を覗くが誰もいない。
不審に思い検めると、遊具が作る濃い影の中に少女が蹲っていた。
「……何やってんでぃ、チャイナ」
神楽は億劫そうに抱えた膝から顔を上げた。相手が沖田と知ると舌打ちして顔を背けてしまう。
「……どっか行けヨ。お前には関係ないアル」
どうしたことか。声が随分弱々しい。
具合でも悪いのかと訊くが無言だ。
「そういやお前、傘はどうしたんでぃ」
いつもの番傘が見当たらない。
すると神楽はうぅ〜と唸って忘れた、と呟いた。
「今日はずっと曇りだって結野アナが言ってたネ……」
その言葉と朝の天気に確信を得て傘を持たずに飛び出せばこの様だ。
日差しが出てきてからも大丈夫だと自分に言い聞かせて遊んでいたのだが、ついに動けなくなってしまったのだ。
「お前夜兎だったけか」
白い肩、足、項。
透けるような肌を持つ彼らは総じて日差しが苦手だと聞く。
上着を脱いだ沖田は、顔を上げない神楽に乱暴にそれをかけた。
「っ何するアルか!」
「傘代わりに被ってろぃ」
やはり上着がないだけで大分涼しい。
やっぱ真選組も夏服必要だよな。今度松平のとっつぁんに言ってみよう。
「おい!サド!」
「俺ぁ忙しいんでぃ。お前もさっさと帰れよ」
公園を出て沖田は首を巡らせた。確か近くに自販機があった筈だ。
「お、あったあった」
渇きを潤していると道の向こうからパトカーが近付いて来る。
目の前で停止した車には土方と原田が乗っていた。顔を覗かせた土方は当然何をやっていると怒鳴りつける。
「見て分かりやせんか?ジュース飲んでんでさぁ」
「要はサボってんじゃねぇか!仕事しろ仕事ぉぉお!てかお前、隊服どうしたんだ!」
「いやぁ、暑くてねぇ」
どっこいしょ、と後部座席に乗り込む。
「何でぃ土方さん。自分達ばっかりこんな冷房の効いたところにいるなんざズルイお人だぁ。なぁ原田」
とばっちりである。原田は困ったように笑った。
☆☆☆☆☆☆
「神楽ちゃん!良かった、今探しに行こう……と……」
帰って来るなり台所に駆け込んで水をがぶ飲みする神楽に新八は首を傾げる。
「神楽ちゃん、それ……」
生き返ったアル〜、と声を上げた神楽は頭から被っていたそれを暑い!と言って床に叩きつけた。
「ふぅ〜、死ぬかと思ったヨ」
軽やかにソファに座った神楽を挟んで新八と銀時は顔を見合わせた。
新八は台所に投げ捨てられた黒い布を広げて、やっぱりと呟いた。
「神楽ちゃん、これ真選組の隊服じゃないか。どうしたの?」
酢昆布をくわえた神楽は興味なさそうにしながらも経緯を説明した。
「へぇぇぇえ、総一郎君がねぇ」
「銀ちゃん、天気予報当たらなかったネ」
「うるせぇぞ神楽。お前それさっさと返してこい」
「えー」
文句を言うと、神楽は傘と隊服と一緒に放り出された。
☆☆☆☆☆☆
仕事を終え自室に戻ると畳の上にきちんと畳まれた隊服が置いてあった。
「……酢昆布……」
沖田は隊服の上に沿えてあったそれを1枚口にくわえる。
「……酢っぺぇ」
礼のつもりか、コレ。
突撃!
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