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無意味な抱擁
月光差す廊下を彼女は歩いていた
一刻も早く部屋に戻りたい
とでも言うかのように

ふと、足を止め月を見上げる
やけに廊下が明るいと思えば
今日は満月だったのか

物思いに耽っていると後ろから
聞き慣れた声がする

「独りであの部屋に行ったんだ」

「っ…レオリア……」
「気付かなかった?
さっきから居たよ」
「!?」
「ねぇ…
何をそんなに動揺してるの?
俺の気配を感じ取れないぐらい」
「…っ……!!」

唇を噛み締め俯くアルティナを一瞥し、その手を掴む

「ここじゃなんだから
俺の部屋に行くよ」
「なっ…!?」
「あー。拒否権は却下」

幼馴染みのこの笑みには
逆らわない方がいい事を
彼女は嫌という程知っていた
そっとため息を吐き、素直に従う

(開き直る…しかないな…)


手を引かれて彼の執務室に入る
今まで作業をしていたであろう
机の上には大量の書類

「(起きていたのか…
道理で気付くわけだ)」
「半分当たってて、半分間違ってる
君を見つけたのはシーリーンだ」

こちらに背を向けて言う
レオリアに毒づく

「…人の心を勝手に読むな…」
「何年、一緒にいると思う?
見てれば考えてる事ぐらい解る」
「ハッ…。腐れ縁だからな」

背を向けていたレオリアが
振り返り、アルに歩み寄る

先程の出来事と眠気で彼女の機嫌は最悪と言っていい
纏うオーラもピリピリしている

だがレオリアは気にするでもなく
明後日の方向を向き
自分の方を見ようとしない
彼女の顔の両脇に手を置く

ゆっくりと不機嫌そうな目が
睨むようにこちらを向く


「何のつもりだ?」
「コッチの台詞。約束破っといてそれはないだろ?」
「約束を破ったことは謝る
だが現に何もされていない。お前に責められる事は無いはずだ」

「…あのさ。
そう言う事じゃないんだよ」
「理解に苦しむ」
「はぁ…」


手はそのままでレオリアは
目を伏せ、黙り込む

呆れて物が言えないのか…否、彼は自分でも驚くほどの憤りを感じてた


皇帝に対しての憤りか
彼女に対しての憤りか
自分に対しての憤りか

分からない、解らない、ワカラナイ
疑問はやり場のない怒りとなる


右手を握り締め、壁を殴り付ける
疑問を、怒りを払拭するように

流石に驚いたアルティナの目と
レオリアの目が合う


「……で…………」

「…レオ…?」




その目は悲しみや怒りより
戸惑いに満ちていた
(殴りたいのは自分自身)
(知らせを聞いたとき、頭が真っ白になった)
(また置いて行かれるのか)
(追うだけはもう嫌だ)





2008.12.28 黒凪
加筆 2009.4.4
お題Aコース





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