宝物
葵ちゃんから。
時計台の上で。 −止まった時計−
僕は時計台の上に立った。
古びた時計が半壊して、其れはもう「時計」とも言えない代物。針が中途半端
に止まり、そしてそれは、永遠に動く事は無い。
「どうしてこうなってしまったんだろうね……」
僕の呟きは、宙に消えた。
+
「俺はお前を離さない。死ぬまで離さない」
「俺がお前を守ってやる」
そういった言葉を口にする度、僕はくすっと笑った。
「それ、何度目の台詞?」
君は真剣な表情を崩して、苦笑する。
「前にも言ったっけか?」
そして、僕を抱きしめてくれる。
「でも、絶対本当だからな」
僕は君の広い背中を抱き返して。
「うん、ありがとう」
それがまさか。
その言葉がまさか、僕を今まで縛る事になるとは思ってもみなかったけど。
+
「ねえ……」
呟く。
「僕がもっと強かったら……」
つ、と頬を涙が伝う。
「君を、守ってあげられたかな……?」
嗚咽。
僕は懐中時計を取り出す。ぽつ、と涙が落ちる。
懐中時計に刻まれた文字。君の名前。
懐中時計は止まっている。半壊したこの時計台と同じように。
僕が、壊した。
君が居なくなった以上、もう時なんて数えたくないから……
君が居なくなった今、勝手に進んで行く時が憎いから……
そう、あの時。
「逃げろ!早く!!
大丈夫、俺は…生きて帰るからっ!!」
「嘘吐き……」
崩れた時計に背を預けて、僕は泣いた。
止まった懐中時計が、力の抜けた僕の手から落ちた。
―― いっそ、僕の時も止めてしまおうか? ――
お友達に「死ネタでの10題」の「止まった時計」を書いてもらいました(*´▽`*)
ありがとう葵ちゃん☆
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