名も無き二人の物語。
光射し込む楽園。
ついこの間まで、暑い暑いとサマースーツを着こなしてた背中。
いつもこの時間なら見送るその背中が、今日は寒い寒いと丸まり縮こまってた。
「衣替え、しとく?」
「あ゛〜……」
「こないだクリーニングから帰ってきたあれ、着ていけばいいじゃん」
「あ゛〜…………」
「……そこ、鼻だから」
「あ゛ぢぢぢっ!?」
漆塗りの椀を鼻にあてがい、味噌汁飲むジャージ男はぼーっとしながら顔にかかった味噌汁を拭っていた。
「今日は二時間遅れで行くっつってもさ、もちっとシャキっとさ、」
「るっせぇ……テメェはさっさと寝ろ」
俺の心配遮って憎まれ口叩かれたもんだから、ぶーっと頬膨らませて目を細めた。
「オッサンがんな顔しても可愛くないぞ〜」
「オッサンじゃないでーす。まだ枕お父さんの臭いしないもん。つかテメェも歳かわんねぇだろコノヤロー」
ムカッときて思わず耳ひっつかんで引っ張る。
「いでででっ……」
「……」
「んだよ放せって……なんだいきなり」
俺は違和感覚えて咄嗟に耳摘んでた手、額にあてがった。
「んだよ、熱あんじゃねぇか……」
「あ゛〜……」
「あ゛〜じゃねぇよっ!何でそんな熱で会社に!休めって!」
「ばぁか……今追い込みの時期なんだよ。休めるかって……」
そう言ってノロノロと椅子から立ち上がると、さっきまで口にしてた朝食ちらりと見て、直ぐに俺の顔に見直る。
「わりぃ、残しちまって」
そして、俺の頬軽くなでて、真っ赤な顔で申し訳なさそうに笑った。
殆ど食べてないそれらを見下ろして、俺は顔をしかめる。
「体調管理も……仕事のうちだろ」
「まぁな、今回は確かに俺の落ち度だな」
「俺……、気づかなかった」
「気づかせないようにしたからな」
「っ!?」
俺は横すり抜ける肩咄嗟につかんで振り向かせるも、
「早く寝ろ」
「だからっ、」
「お前が言ったんだろ、体調管理も仕事うちって」
「それはっ!」
「店出るまで、今寝ないと間にあわねぇだろ」
いい加減放せ。
と、払いのけられ、行き場を失った手をぐっと握り締め、
「ちょっ、何してっ!」
「煩い」
文句を口にしようとした唇を無理やり唇デ塞いだ。
強引に口の中こじ開けて、乱暴に舌で咥内かき回す俺の背中を、拳で何度も殴る。
それに構わず俺は腰を抱いて、そのまま引きずるようにしてまだ引きっぱなしの布団に押し倒した。
それと同時に唇が解放された途端、発せられた言葉。
「伝染(ウツ)ったらどうするんだっ!」
「……」
「んだよだまって」
「やべ、やっぱ好き」
「お前こんな時に何言ってちょっ、待てっ、あっ……」
「汗かこうぜ。治すの手伝うから」
「その前にっ、テメェの脳みそ殺菌しろっ!」
熱のせいなのか、本気じゃないのか、抵抗する腕に力はなく。
俺は布団の脇に転がっていたコイツの携帯電話に手を伸ばした。
「ほら、これ」
「やっ、なにっ……」
「電話かけて、会社に休みますって」
「なに、バカっ……いって、はっ」
「ほらもうコールしてるから」
ちゃんと言わないとヒドいことしちゃうぞ。
って、耳元でささやいたら、あがった息必死に整えながら、繋がった先に向かって声を発した。
「あ……俺、うん。そう……課長に……そう、いって……」
抑えてる声が妙に艶っぽくてゾクゾクする。
なんとか言い終えたようで、深いため息と同時に、通話が切れた音が聞こえてきた。
俺は耳にあてがっていた携帯電話放り投げると、
「よくできました」
「んあっ!」
耳の中舌で舐め上げたらビクンと体を弓なりにそらして腰を浮かせる。
俺の手の中で既に膨れ上がってる欲を軽く握りしめて、上下に擦りながら半開きの塗れた唇を貪った。
すると少し眩しく感じて瞼をぎゅっと閉じる。
少し唇放して舌先で口の端舐めながら視線軽く上げたら、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
その柔らかな光に目を細めて下向いたら、
「やっ、あっ……出るっ」
懇願する潤んだ瞳が見つめていた。
俺は微笑み目尻に口付けて、
「いっぱい吐き出せよ。したら疲れるから、一緒寝よ」
「んっ……」
しがみついてくる腕に応えるようにぎゅっと抱き締めた。
いつもこの時間なら見送っている背中。
その後訪れる、孤独な眠り。
射し込む光すら、寒さを感じる冷たさをはらんでいたけど、
「なっ、なぁ……」
「ん?」
「あ、後で……」
鼻フック覚悟しとけや。
「……」
「あっ、もぅ出るぅっ!」
いつもと違う今日の朝は、幸せ、だよな?
よし、明日行けばれシルバーだっ!(マテ)
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