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【BL】『喫茶店。』シリーズ
3 拉致。

「なんで俺拉致られてだっつーの!!!」

俺は精一杯叫んでみたけど、

「……」
「……」

車の間をすり抜けるハーレーの上じゃ、俺の主張は通り抜ける風にかき消されるだけなわけで……。

どうなってんだよ……。

俺、なにも言ってないのに。

『喫茶店。』のみんなには、黙ってたのに。

なんで……。

さっきのナルちゃんが気になってた。

公衆電話のボックスの中から、いかにも「仲間ですよぉ」といわんばかりのあの笑顔……。

まさか、まさか、新幹線のあの爆弾騒動って……。

「……いや、そんなまさかぁ」

ナルちゃんが……、そんなまさか。

あの可憐なナルちゃんがそんな大それた悪事の片棒を担ぐとは思えない俺は、必死にその他の可能性を脳内でめぐらせてみた。

けど、

「……」

さっきまで俺と話していたマスターが頭に過ぎった。

プラットホームから去っていく寸前、マスターが口にした言葉。

『スタート』

微かに聞こえたその声は、はじめは俺に向けられたものだと思っていたけど、

「信じらんねぇ……」

俺は泣きたい気持ちでいっぱいになった。

なんだか悔しくて、腰に回していた腕に力を込める。

結構広い背中だな……。
っておぼろげに思いながら、その温もりに顔を押し付けた。

走っているから体は冷え切っているはずなのに、なんだか、あったかく感じるのはなんでだろう。

あぁ、そっか。

俺、恋しいんだ。

この背中が、あの人のじゃないって解っているけど。

暫くすると、走っている速度は失速するのに気づいた。

ふと見上げると、交差点に差し掛かっていた。

すると、俺を乗せたハーレーは横断歩道手前で静かに停止した。

するとライダーが振り返ると同時に、

「そんな顔しないの」

ヘルメットの正面が上に持ち上げられて、その表情が俺の眼前にさらされた。

見えたのは、ホントに瞳の部分ぐらいだけど。

今まで何度も見ていたし、声で直ぐ解っていた。

「仕事はどうしたのさ……ケイちゃん」
「ん?あぁ俺フレックス制だから」

心配してくれるの?
と、笑う声は嫌な感じじゃなく、
優しいもので。

「余計なこと、するなよ……」

それがシャクで、ポツリと出た言葉。

いけないとは思っていても、考える暇さえ与えられなかった俺には、そういうだけが精一杯で。

なのにその感情とは裏腹に、

「……あ、こらこら」
「……」

腰に回した腕をぎゅっと締め付けた。

まだ発進はされない。

さっき止まる寸前に、交通整理をしているお巡りさんが立っていた。

あの人偉いから……、大変じゃないかなって、こんな時まで浮かぶ顔。

どんだけ、俺の感情はしつこいんだろ。

胸が、痛くて苦しい。

俺は、いつまでこの想いに縛られるんだろう。

突然の出会いからよりも、知らぬ以前の方が遥かに時間は長いのに。

この先の、それ以上長い未来に、俺は心で涙し続けるんだろうか。

もう流す涙も、さっきので終わりだと思ったのに……、

「バカやろ……っ」

額をケイちゃんの背中に押し付けて、搾り出すような声を漏らしたら。

「べつ、アキラくんのためじゃないから」
「……え」

俺の知る限りのケイちゃんから、

「俺、誰にでもこうってワケじゃないし」

先日公園でお兄さんに言われたのと似たようなことを口にされた。

それじゃ、

「俺、ジイシキカジョウ?」
「いや、うーん。みんな自分が知ることしか判断材料がないから」
「イミワカリマセン」
「そっか。まぁ簡単に言うなら。アキラくんよかあの人と付き合い長いから、俺」

そう言われて、ケイちゃんのお父さんがイタガキのオジサンの元上司だって話を思い出した。

だったら、警察、関係者?

「ケイちゃん……お兄さんと仲いいの?」
「お兄さん……?あぁ、そう呼んでたんだっけ」

気のせいかな。

「俺は、アキラくんがどう思ってるとか、正直関係なかったりするんだよね」

さっきまでとケイちゃんの雰囲気が違う。

俺の知らない、一面なのかな。

「それまた、ストレートな」
「時にはね。大人って本音と建前って言うけど、どう考えても建前だけだよね。日本人は」
「はぁ……」
「だからね、あの人典型的な日本人だと思うわけよ」
「え?」

話のつながりが見えない。

言わんとすることが掴めなくて、俺は性分なのか、一生懸命考えたら。

「あの人、アキラくんが知る以上に、キツイ生き方してるの」
「……それは、この間」
「言葉で聞くのは、単に知識と変わらないよ」
「……」

そう言われて、少しだけ、身に沁みた。

確かに、その苦しみは、味わった者にしか、解らない。

「俺から見ても、あの人の変化は目を見張るものだった。俺の知る限りでは」
「……ケイちゃんは、よく知ってそうだね」
「そうだね。でも、知ってるだけ」
「……?」
「あの人は、自分が本音で生きてもいい人間だって思ってないの」
「なに、それ……」
「あの人、自分のことは過小評価だから。俺から見ても、素敵な人なのにね」

そう呟かれると、ハーレーのエンジン音が大きくなった。

「あの人の本音。聞いてあげて」
「ケイちゃん……俺、」
「口、ちゃんと閉じてるんだよ」
「え?」

そう言われた瞬間。

「っ!?」

ハーレーが急発進。

チラっと横を見たときには、

「……」

憤慨するお巡りさんが見えた。

俺は心の中で『ごめんなさい』って呟いて、

「……ありがと」

遠まわしな優しさに触れて、俺はまたギュッと抱きついた。



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あきゅろす。
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