【BL】『喫茶店。』シリーズ 4 狂気。 俺はただ、震えて体が竦んでしまった。 この手のAVは何度か見たことあるし、さほど抵抗もない。 けど、これは違う……、 「お前知ってるよなぁ。アキラー」 俺の横で、座ったままのマネージャーが、ニヤニヤした顔で見上げてくる。 そして俺の腕を掴んだかと思ったら、腰に手を回してきた。 「今前と後ろで突っ込まれてるの、ナナちゃんな。こっちの動画のは、あぁ……拡張でMに目覚めちゃった……えーっと、あ!チサだ!チサちゃん」 明るい声がコンクリ打ち付けの室内に響く。 さわさわと、俺の腰や背中を、カサついた指先が這い回る。 だけど俺は目の前の光景に頭の中が整理できなくて、自分の体に、その手を払いのける指令が送られない。 「最初はねぇ、ちょっと羽振りのいいオジサマ達に紹介していただけなんだけどな。いつだっけか?その場にいた俺のダチがこっそりその様子を録画しててよー」 女の子達のあられもない声をただただ聞きながら、頭の隅でぼんやりと、カチャカチャという音を認識する。 「したらよーこれがまたいい撮れ具合で!試しにネット販売したらスゲー売れ行き!ホント、ネット最初に考えた人はエライねー」 また腕を掴まれて「もっとよく見ろよ」と、今度は両手を机の上に乗せられた。 少し前屈みな体勢に、もっと動画がよりよく見える。 「声データだけでも諭吉さん出すんだぜ!世の中飢えてるよなぁ。データさえあればいくらでも配信できるし、なによりも女達の『枷』になる。まぁアイツらには別の『枷』があるけどなー」 ジーンズの、腰周りの圧迫感が緩む。 俺は震えながら、口を開く。 「な、何で……こんなこと。みんなにも、俺……にも」 なんとなく、原因が解る気がして抵抗できない。 ただぎゅっと目を瞑って、俯くしか出来ない。 「お前は解ってる筈だぜ?それとも何だ。お前俺の口から言って欲しいの?」 「なっ……」 目を見開き、頭だけ後ろを振り返ると、 「え?なんとかいってみろよ」 目を細め笑う顔が俺を見上げる。 「おい、いいぜ」 部屋の奥の扉に声をかけたマネージャー。 俺は、わけがわからず、恐る恐るそちらを見やると……、 「もうこれじゃぁ生殺しだぜ」 「いやっ!?放して!!」 「るっせー!!黙ってろ!!!」 荒々しく男2人に引きずられてくる、 「さ、サヤ!?」 「あ、アキラくん!!」 少し着衣の乱れたサヤに、服を乱暴にされただけなんだと気づいてホッとしたけど、 「アキラくん……貴方まさか」 「……」 目を見開いて俺を見つめた。 俺は何も答えられない。 あれから1週間、サヤの知らない。 転がるように堕ちた俺の成れの果てなんて。 「さぁどうするお嬢様。悪い話じゃないと思うけどねぇ」 「お断りいたします!!」 なんの話か解らず、俺は交互に2人を見つめていると、 「お前さー、このお嬢様。ヤれよ」 「……は?」 いきなり放たれた言葉に、俺は一瞬思考が止まった。 「なに、言って……」 「そんまんまの意味。お前がお嬢様犯すんだって」 「そ、そんな事……あぅっ!!」 いきなりケツをおもいっきり強く掴まれて、その痛みが背中をせり上がる。 「お前に選択肢なんてねぇんだよ。今まで融通利いてやった分、ホストできねぇなら今度はこの体使って稼げよ」 「そん、な」 「それともなんだ?お前さ、そこにいる奴らにさ」 お嬢様、嬲り殺されてもいいわけ? 「!?」 「アキラくんだめ!!」 息を呑む俺に間髪入れず、サヤの声が部屋に響く、 「早まらないで……、」 こんな状況下、心底恐怖で話すのもやっとなはずなのに……、 「サヤ、どうして……俺は、」 真っ直ぐ見つめる瞳は力強く。 「大丈夫です。だから、」 『もう少しだけ待って』 サヤは口だけで確かにそう言った。 何が、大丈夫なんだ……。 「ほらアキラぁ。とっとと……」 「ムリ……、出来るわけ、ねぇだろ」 「あぁ?」 「好きにしろよ。嬲り殺すなり何なり。ただし、手を出していいのは、俺にだけだ」 俯き、俺は静かに言い放つ。 マネージャーはなにも言ってこない。 「アキラくん!?」 「黙れっ!!」 「んんっ!!」 横にいる小汚い男に口を塞がれている。 「全部、俺が悪いんだ。勘違いさせるようなことして、みんな、傷つけて」 「……」 「だから、もう、どうでもいい」 無機質に口にしているけど、内心恐怖でいっぱいで。 俺は自棄なんだと自分でも解る。 そう解っていても、今の俺に、サヤを助ける……。 いや、こんなことする奴が、俺が犠牲になったところでサヤが解放されるとは思えないけど。 「早くしろよ」 歯を食いしばる俺に、また気持ち悪い声が響く。 「動画見て、解っただろ?ここに映ってるコたちみーんな」 お前に告った元客たちだって。 「……」 「みんなね、お前に告って修羅場って迷惑かけたからーって、お仕事依頼受けてくれたんだよー」 あはは!と、笑う顔はもう人の顔とは思えないぐらい歪んでいて、 「中にはな、どうしてもお前ともう一度会いたいって泣きついてきてな。だったら俺を気持ちよくしなって言ったら自分から股開いて腰振ってやがんの」 ニヤニヤしながら俺のケツを両手で揉みしだく。 その刺激に、 「……っ」 俺は思わず腰が揺れた。 それに気づいたのか、 「!」 俺の股間を軽く撫で上げて、 「お前さー。俺がこんだけ追い込んでんのに、」 ナニおっ勃ててんだよ。 「っ!!」 まだはいたままのアンダーウェアごと、俺の割れ目の奥に指を突っ込んできた。 ずっと、グズグズになるまで慣らしたせいか、難なく飲み込んでいく俺の中に、マネージャーが意外そうな声をあげた。 「なに?お前ソッチなの?」 「ん、ンンっ!!」 「もうグジュグジュじゃねぇかよ。下着ごと2本も突っ込んでんのに、とんだ変態だなっ」 「ひぅっ!!」 「アキラくん!!」 奥の方を指先でグリッと擦られて、頭を擡(モタ)げる俺の欲が飲み込まれるパンツのせいで、窮屈そうに締められ張り詰める。 瞳に涙をいっぱいに浮かべるサヤに俺は顔をしかめながらも笑って見せるが、 「やぁっ!あぅ!!そこっ、ばっか!!」 「アキラくんはココが好きなんですかぁ?」 執拗に奥の脹(フク)らみを潰したり、抓ったりと刺激され、 「やぁぁぁっ!!?」 俺の膝がガクガク笑い出す。 激しい責め苦に、涙が溢れ、口からは喘ぎと共に涎をたらす有様。 サヤは俺から顔を背け、男2人は我を忘れ、俺の痴態に目を釘付けにしている。 「変態。お前もあの女と一緒じゃねぇかよ」 あの、女……? 「昔俺が無理やり囲った女にそっくりだぜお前」 何……、それ。 「ちゃんと可愛がってやったのによ。俺のガキ孕んだって解ったら自殺しやがった」 「アンタ……、何、言って」 「お前はその点男だからな。死ぬまでぐちゃぐちゃに犯し続けてやるよ」 下着を引きずりおろされ、正面を向かされると直接指が中に入ってくる。 ゴツゴツした指が、無遠慮に俺の中を掻き回す。 俺はデスクに寄りかかり、太股を掴まれて、目一杯股を広げられる。 その光景に俺は高ぶっていた気持ちが一気に引いていった。 あの時と同じ。 欲情に血走った眼が俺を見上げる。 あの時と違う。 俺の気持ちが急速に冷めていく。 そして気づいた。 俺はただ、俺という存在を壊してしまいたかったんだと。 もうあの温もりを感じられないのなら、いっそ、立ち直れないぐらいに……、 「な、なに萎えてんだお前っ」 自分の手淫でだんだん萎えていく俺の欲にマネージャーが舌打ちをする。 「あの女と……、同じ陰気な面しやがって」 ガチャガチャと、忙しない音がする。 マネージャーは自分のベルトを外してフロントをくつろげると、 「お、俺の、で……ぶち込んで、中にいっぱい流し込んでやるっ」 下品に笑いながら汚れた欲を掴み出した。 ギンギンに反り勃ったそれを見つめながらも、俺はもう何も感じない。 それが気にくわなかったのか、 「くそっ!」 「!?」 マネージャーが俺の首に片手をあてがった。 「馬鹿にしやがってっ!!犯しながら殺してやるっ!!!」 トランス状態で、もう目が変に泳いでいる。 もう片方で、俺の濡れそぼった入り口に、切っ先があてがわれ、少しだけ中に埋まる。 その瞬間、 「や、やめろっ!?」 俺はやっと我に返った。 「はっ!!今更おせーよ!!こんだけグチャグチャに弛めといてよ」 「嫌だ!俺、あの人しかっ!?」 「てめぇまでそんなこと言うのかっ!!?」 「かはっ!?」 首を絞める手に、力が込められる。 不摂生が祟って、今の俺は抵抗する力も残ってない。 「あ、アキラくっ……いやっ、あぁっ!?」 「あんな見せつけられて……俺もう我慢できねぇ」 布の引き裂かれる音に俺は目を見開く。 「結構胸でけぇ……気持ちいぜマジ」 「あっ、やめ……いやぁぁっ!!」 巨漢に覆い被されるサヤの悲鳴と、陶酔しきった情けない声が耳に響く。 「お前はこっちだっ!?」 顎を掴まれ、正面を向かされる。 「い、嫌だっ!?」 「今更だろー。今突っ込んで気持ちよくしてやるよ」 「誰がてめぇの腐ったの突っ込ませっかよっ!!」 「あははっ!!どっちみちお前はハメ殺されんだよっ!!」 もう手がつけられない。 ここが諦め時らしい……、一瞬にして……幼い頃からの記憶が蘇る。 走馬灯のように。 ホントに見るんだと笑っちまうぐらい。 楽しかった親子3人での生活。 突如、手紙だけ残して蒸発した母さん。 それ以来休みの日も、父兄参観も、運動会も、ずっと見守ってくれた父さん。 高校合格の日。 両手を上げて喜んでくれた涙もろい父さん。 喧嘩した翌日は、必ず朝ご飯を豪華にしてくれたヘタレな父さん。 大学受験当日の朝。 何故か寂しげな笑みで俺を送り出した父さん。 それを最後に……、殺されてしまった父さん。 不器用ながらも、俺を育て続けた父さんとの生活。 ずっと……忘れてた。 違う……思い出したら、生きていけなくなりそうで、俺はすべてを封印していたんだ。 今頃になってももう遅い……。 だって俺は、もう死ぬんだから。 もう意識が遠のいていく。 息苦しいの通り越して、頭がクラクラする。 下半身も、だらしくて力が入らない。 ゴメンね父さん。 ゴメンね、バンちゃんもマヤも元気づけてくれたのに。 ナルちゃんもあったかくて、マスターだって、こんな俺をいつも迎え入れてくれた。 ケイちゃんだって俺を弟のように接してくれて、オジサンとも、も少し楽しく話がしたかった。 あぁ……そうだよ。 アンタが誰のモノになったって、 俺はきっと悩みながらも想い続けるよ。 アンタに出逢って調子くるってこんな形になっちゃったけど、遅かれ早かれ、この世界に足突っ込んだ時点でただじゃ済まないことは解ってた。 だから、アンタに出逢えたこと、後悔してないよ。 でも、せめて最後に、アンタに当たり散らしたこと謝って、オメデトって言いたかった。 「くっ、かはっ……」 もう限界が近づく。 暗くなる視界に俺は幻を見た 。 きっとそれは、俺の想いが聞かせる幻だ。 だって、あの声が俺を呼ぶんだ。 「アキラっ!?」 アキラって――。 [*前へ][次へ#] [戻る] |