短編
笑顔(山本)
ついつい足がグランドに動いてしまう。
私は女。野球は出来ない。甲子園にも行けないのを知っていながら未だ練習をしてしまう私は諦め悪い奴なんだろう。
グランドでは男子が野球の練習を励んでる。羨ましい。私は目指せない場所へとその内翔び立つ奴らが羨ましい。
何度私が男であればと願った事だろう。それでもこの世界の私というものが男になる筈もなく、ただ虚しい思いを胸に抱きながら男子達を眺める。
新しく入部した一年、山本武によりグランドの一番近くには女子生徒がおり私は後ろの方で野球を遠目に眺める。普通野球を見るなら女子生徒の声やら場所が、なんて文句を言うが私としてはその場所を陣取ってくれているのはもの凄く有難い。
ではないと私はグランドに入ってしまうだろうから。野球を何より大好きだったから。
「良いなぁ」
「何がだ?」
「野球」
「そんなに好きなのな?」
「うん…………」
あれ?私誰と話して…
「…山本、君」
今まで頭の中に女子生徒の声なんて一切入って来なかったが、いきなり聞こえて来る。
「どっ、どうして此処に?」
「ボール」
そう言ってボールを見せてくれる。
どうやらボールが飛んで来たのか。
そうか。そうか。
「山本ぉー」
遠くから山本君を呼ぶ声が聞こえる。山本君の先輩だろう。山本君はすぐじゃあなとニカッと笑うとグランドにかけて行った。
「…」
山本君がニカッと笑った。ただそれだけ。
なのに野球よりも今山本君の事しか頭にない。私もしかしたら野球より大切なもの、見付けちゃったかもしれない。
グランドで野球する君が何よりも輝いて見えた。
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