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記憶の彼方3







その後、予想外の展開が待っていた。


記憶をなくした春華を、教団にとって都合の良いように育てなおすために、大元帥の指示の元に記憶と人格の修正が施されていた事実を知った。


コムイさんが、何とかして事態の収拾をつけようとしていた時に起きた春華の変化だった。


神田も、ソカロ元帥たちも、春華の中央省が施した処置に激怒していたが、鴉たちの幾重にも掛けられた術を解き始めた春華に、記憶を取り戻すのではないかという希望を見出した。


真っ白な隔離された病室で、眠り続ける春華。コムイさんは、そっと髪を撫でながら、僕に言った。



「アレンくん、春華ちゃんは本当に、心からアレンくんを愛していたんだと思うよ。鴉たちの術を、記憶が全くない上に人格修正まで加えられた状態で、アレン君の声に反応して解き始めたんだから。」


「僕も、そう信じたいです。僕の声に反応してくれた、塗りつぶされた方の記憶が目覚めてくれることを…。本当に、辛いんですよ。かけがえのない、最愛の春華に拒絶されるのは…」



春華が倒れてから3日。


いっこうに春華は目覚めない。


まるで、人形のように横たわる春華がまた「貴方は誰ですか?」と、そう言うんじゃないかという恐ろしさもある。



「……ん…ぅ…」


「春華ちゃん?!」


「春華、目覚めたんですか?!」



身じろいだ春華は、うっすらと瞳を開いた。焦点の合わない視線が彷徨う。



「春華…おはようございます。」


「…あ…れん…?なんで…泣いているの?…怪我したのですか…?」


「春華?!記憶、戻ったんですね?!僕のことわかります?」


「アレン。私の最愛の人…。」



それを聞いた瞬間、僕は膝から崩れ落ちた。
コムイさんは、隣で静かに涙ぐんでいた。



「アレン君、僕は神田君たちに連絡してくるから…」



そう言って病室を出て行った。



「アレン…黒白の世界で、ずっと閉じ込められてる夢を見たのです。アレンやユウの声が遠くて、みんな悲しい表情をするのに、もう一人の私は、傷つけるような事しかみんなに言えないの。おかしな夢よね…アレンが泣いてるなんて…。」


「…僕は、確かに泣きましたよ。春華が笑ってくれないから。僕を…忘れちゃうから…。」


「ごめんなさい、アレン。でも、アレンの声が一番ハッキリ聞こえたの。もう一人の私に、アレンを返してって叫んじゃうくらいに。」


笑いながら言う春華。

あぁ…あの時か。気絶する前に呟いていた言葉。

返せと叫ぶ声が聞こえると…。



「愛しています、アレン。」


「僕も愛していますよ、春華。おかえりなさい…春華。」


「ただいま…アレン。(私の最愛の人…)」



その後、教団内は大騒ぎとなった。

中央省は、幾重にも春華に掛けた術が、自力で解かれるとは想定しなかったらしく、かなり驚いていたらしい。

あの神田が涙ぐむ姿なんて、僕が見るのはコレが最初で最後じゃないかと思う。







END




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あきゅろす。
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