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その後は二人で近くのコンビニに行ってお昼を買い、康生の家に戻って昼食を済ませた後はリビングで映画でも観ようと言う話になった。

康生も俺も普段から映画なんて観るタイプではないと言うことは初めの段階で分かっていたことだったけど、間を持たせる為には良いのかも知れないと思って「折角だから…」と話に乗ったらそのままそう言う流れになった。

主に康生のお母さんが利用しているとのことで有料の動画サービスの会員になっているから何でも観られると言われたけど特に観たい映画なんてものはない。
結局は最近人気の映画の中から康生が適当に選んだアクション系の映画を観ることになったんだけど、派手なシーンが多いにも関わらず途中で睡魔に襲われて、自分でも気付かない内に眠ってしまっていたらしい。

近くで物音がしてハッとなって目を覚ますと俺の直ぐ側で康生が眠っている姿が目に入り、あれ?と思った直後に別の場所から「起こしちゃってごめんね」と声を掛けられた。
突然聞こえた康生以外の声に驚きで「わっ!」と声を上げると、それに反応した康生が目を覚ましてむくっと起き上がる。


「んだよ…何?どした?」


寝起きにしてはハッキリとしているそんな康生の声にすらビクっと肩を揺らすと、また別の場所から「ただいま。邪魔しちゃったわね」と楽しそうな声が届けられた。

その声に対して康生が「は?おい何でいるんだよ仕事は?」と鋭い質問を返したことで…と言うかもう、普通に康生のお母さんだなって言うことは俺も分かってるんだけど。


「今日はいつもより早いって言ってありましたけどー?」

「はあ?聞いてねえし。どっか行けよ」

「どうしてかしら?ここは私のおうちでもあるのよ?」

「なんなんだよその喋り方。うぜえから止めろ」

「もー。ほんっとこの子口が悪いでしょう?大丈夫?嫌なこと言われてない?」


何かあったらすぐ言ってね、と急に話を振られたけど、二人の会話の勢いに圧倒されて反応が遅れてしまった。

唖然としたまま「あ、はい…」と答えると、康生が「馴れ馴れしいんだよ」と威嚇をするみたいに言うから、そこで漸く俺にも苦笑を漏らしながら「まあ、まあ」と康生を宥める余裕が生まれる。


「あの、突然お邪魔してしまってすみません」

「ええ?いいのよいいのよ。礼儀正しい子ねえ。誰かさんとは大違いだわ」

「あ?っせえぞ」

「もう、あんたはさっきから。文句ばっか言ってないでちゃんと紹介しなさいよ」

「何でだよ。別に関係ねえだろ」


紹介なんてする気はないと言う態度の康生を見て、反抗期なんだろうな…としみじみ思った後に「丸山海斗って言います。康生くんとは最近知り合って…」と自己紹介をし始めたら康生からストップが掛かった。


「いいって」

「いや、でも、これからお邪魔するようになるから」


”家庭教師として”って意味で言ったつもりだったけど、康生はそれをどう受け取ったのか。
途端に機嫌良さそうな様子で「まあ、連れてくる度に訊かれんのもダルいっちゃダルいけど」と意見を変えるから、俺も思わずふっと笑みを零してしまった。


「何笑ってんだよ」

「いや、別に」


何でもないと誤魔化す俺に康生が「何だよ言えよ」と催促してくる。

そんな俺達のやり取りを見ていた康生のお母さんが「丸山くん…!」とやや声を張り気味に俺の名前を呼んできたから、少し吃驚しながらも視線を向けると、目をキラキラと輝かせて「これからも康生をよろしくね…!」と言われた。


「え…」

「この子がうちに友達を連れてくることなんてないから、よっぽど丸山くんのことが好きなんだと思うのよ」

「!!」

「おいババア黙れ」

「ちょっ…康生」


確かに自分の親からそんなことを言われたら恥ずかしいし嫌がる康生の気持ちは分かる。
でもババアは良くない。

軽く嗜めるように康生の名前を呼ぶと、康生のお母さんが「ああ、慣れてるから全然大丈夫よ。ありがとね」と軽い感じで返してきたから俺も拍子抜けしてしまった。


「見ての通り口も悪いし怪我ばっかりするし、本当に手の焼ける子だったんだけど、最近漸くまともになってきて私達も喜んでたところだったの。丸山くんのお陰だったのね」

「えっ…いや、それは別に…」


俺のお陰とかじゃないと否定しようとしたけど、それには康生が「まあそれは間違いねえわ」と肯定したことで何も言えなくなってしまった。

何だろう…この胸の奥がむず痒いような感じ…

居心地の悪いような変な気持ちになってそのまま黙っていたら、改めて康生のお母さんに「失礼なこともいっぱいしちゃうと思うけど、仲良くしてあげてね」と言われ、むず痒さを抱えたまま「はい」と答えると康生が突然後ろから伸し掛かってきた。


「うわっ…」

「海斗は俺の家庭教師でもあるから。こいつに勉強教えて貰って成績上がったらスマホ買い替えて」


おい、何ちゃっかりと俺をだしに使って交渉してんだよ。

まさかその為に?と思ったけどとりあえず今は黙っておいた。

それが理由でも別にいい。
お母さんも喜んでるみたいだし。


「それはそれ、ね。丸山くん、何から何まで迷惑かけちゃってごめんなさいね?」

「ああいえ、全然」

「どうしてこんな良い子が康生に勉強なんて教えてくれるのよ。まさかあんた、丸山くんを脅したりしてないでしょうねえ?」

「んなことするかよ。てかそれ親が言う台詞じゃねえから」

「あんたのことだからそのくらいのことしてたっておかしくないでしょ」

「してねえつってんだろうが。まあもういいわ」


行くぞ、と言って俺の腕を掴んだ康生がそのまま自分の部屋に行こうとするから、腕を引っ張られながらもお母さんの方を向いて「もうちょっとだけお邪魔します」と声を掛けると満面の笑みで「それはもう。ごゆっくりどうぞ」と返された。

それ以上は何と言っていいか分からなかったから小さく会釈をしただけだったけど、俺の腕を引く康生から何となく恥ずかしがっているような空気が伝わってきたから何も言わなくて正解だったんだと思う。

康生の部屋に戻ったらまさかお母さんが帰ってくると思わなかったと言って康生が文句を言い始めたから、それよりも映画の途中で寝てしまったことを謝るとその途端に康生が意地悪な表情を向けてきた。


「…何」

「寝顔が可愛かったから許してやるよ」

「!?」


その発言が衝撃的で「まあ俺も寝たけど」と続いた言葉は俺の耳には入ってこなかった。

分かりやすく照れた反応を取ってしまった俺を見て康生が「真っ赤じゃん」と揶揄うように笑う。
反射的に「うるさい…っ」と返してしまったけど、リビングに康生のお母さんがいることを思い出して反論を止めるとまた康生は楽しそうに笑っていた。




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あきゅろす。
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