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零のイライラ

彼女が転校してきてから1か月ぐらいは毎日俺と下校していたのだけど、最近は他の寮生にも慣れてきたせいか、俺とふたりだけの下校は少なくなってきた。


うさぎの話からすると、はるかと晃と吾妻の4人で帰るパターンが多いようだ。


俺が言うのもなんだけど、彼女にとってはいい傾向だと思う。


周りの男達に怯えながら一心にピアノの練習をしていた頃の彼女に比べたら、今の彼女はよく笑う。


今まで読んだ本や観た映画の話題ばかりだったのが、はるかや他の寮生の話題が彼女の口から出るようになった。


ただ気になるのは、晃の話題が多い気がすることだ。


今もうさぎはリンゴを剥きながら海外のバンドの話をしている。


晃の名前は出てきてはいないが、前まで洋楽の話なんてしたことがないのだから、晃の影響なのかもしれない。


晃は女の扱いに慣れているから仕方がないのかもしれないが、晃が特定の誰かと付き合ったことがあるとか聞いたことがないし、おかしなことにならなければいいのだけど…



「はい。うさぎさん♪」



うさぎの耳の形に皮が残されたリンゴが皿に置かれる。


得意げに笑ううさぎがソレについて何か言う前に、ソレを口に入れる。



「ん…次。」


「あぁ!せっかくのうさぎさんが…ぅぅ…次もうさぎさんにするもん。」



唇を尖らせながらも、リンゴにナイフを入れていく。


プレーリードッグみたいなビビり方はしなくなったが、『尖らせる』というより『伸びる』に近い形の唇は、やはりリス科の小動物みたいで面白い。


俺らしくない意地悪をうさぎにしてしまうのは、この唇を見たいからなのだろう。


にやけそうになる口元を隠すように引き締めて、うさぎを急かす。



「次。」



―――――

最近毎日、昼休みになるとうさぎが屋上に上がってくる。


寝ている俺の近くにしゃがみ、ずっと唇を尖らせている。


たまになにかを言おうと口を開くが、やはりなにも言わず、また唇を尖らせる。

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