もやもやの始まり 7 こんなに嫌な空気なのに、カナさんだけが鈴木さんが何を弾いてくれるのかとワクワクした顔で見てる。 しんと静まり返って皆が見つめる中、彼女は深く深呼吸をひとつすると演奏を始めた。 鈴木さんの演奏は、はっきり言うと ものすごく下手だった。 ただ、顔から全身から真剣に、できるかぎり丁寧に弾いているということは分かった。 先ほどまで弾いていた女の子の演奏を聴いた限り『音楽喫茶』は、この学園の音楽科の生徒がやっているのだろう。 そんな中でこの演奏は、かなりキビシイ。 それでも彼女は最後まで丁寧に弾き切り、最後の余韻が消えると、ため息をついた。 「…うさぎ…」 「カナさん…昨日だったけど、お誕生日おめでとう。これでも実はずいぶん前から練習してたの。カナさんの好きな曲をプレゼントしたいなって…もちろんちゃんとしたプレゼントもあるよ。」 「うさぎ〜〜!!!大しゅきぃ〜〜!」 2人の女子高生が嬉しそうに抱き合う。 まぁ、話の断片でなんとなく状況はわかったけど…二人にとっては感動的なんだろうけど… なぜ、こんな微妙な空気の中でやるかな… 「鈴木さん…」 入口付近からの声に音楽室内全員が振り向く。 そこに立っていたのは、ゆるふわウェーブの私服の女の子。 彼女の登場に周りがざわつく。 誰? 「鈴木さん…もう一度会えて良かった。私、鈴木さんにきちんと謝らないといけなかったのに…」 おずおずを近づく彼女の前にカナさんが立ちふさがる。 「悪いけど、あんたがうさぎと話すのをこの私が許すと思う?」 「会長…」 「カナさん、いいの。…あの、久しぶり…あの…順調ですか?」 カナさんを制して転校生が前にでるが、変わった挨拶をする。 しかし、それを聞いた私服の子は涙を一気に溢れさせ、泣きながら謝りだした。 「ごめんなさい…本当に…ごめんなさい…私…」 身体を折り曲げ今にも崩れてしまいそうになりながらも、彼女は謝り続けた。 その背中に鈴木さんの白い華奢な手が乗せられる。 ぽんぽんと優しく叩く手に、彼女は更に泣いた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |