名前 8 寮での彼はいつも忙しそうで、あまり会わない。 学校でも休み時間になると、メールやら電話やらで呼び出されたからちょっといってくると、教室にいないから どんな人なのか、さっぱり? 寮生曰く、『チャラいけど、優しい』『チャラいけど、周りに気を使える』『チャラいけど、繊細』…とにかく『チャラい』人らしい… でも、今人垣の中心で歌う彼は、しっかり顔を上げて前を見て、たまにメンバーや観ている人に笑いかけたり、堂々としていて『チャラい』という印象はなかった。 歌うのが楽しくて、歌を聞いてもらえるのが嬉しくてしょうがないって顔をしていた。 聞いてる人たちも、演奏している人たちも、皆笑顔だった。 凄いと思ったし、羨ましいとも思った。 ピアノの練習を始めて1か月程度の私には、あんな風になりたいなんておこがましい話なんだけど 出来れば友達が笑ってくれたらいいなと思う。 その為に、もっと頑張ろうと思った。 曲が終わり観客たちの拍手の中、にっこりと笑う彼の笑顔に背中を押されたような気分になって、私は予約を入れていた練習室へ足を向けた。 寮に帰ってきて、玄関に並ぶネームプレートの中から路上ライブ中に聞こえてきた名前を探す。 …アキラ…アキラ…これ? 『榊晃』 …サカキアキラ… 榊君・榊君・榊君… 何度か口の中で名前を繰り返してみて、小さく口に出して呼んでみる。 「榊君」 [*前へ][次へ#] [戻る] |