名前
1
買い物デートの予定を変更して、うさぎちゃんが通っていた市民音楽会館に来ていた。
ここの公園なら俺も路上ライブをしに来たことがある。
空いているピアノ練習室を借りて中に入ると、ものすごく狭かった。
壁に向かったアップライトの前に1人が座り、傍にもうひとり立つともういっぱいになる。
もっと大きな練習室もあるけど、ひとりで練習するにはこれで十分だからと彼女は言った。
ということは、こんな狭い空間であのチャラい男とふたりっきりでピアノを弾いていたのか
この距離感を目の当たりにすると、こめかみの辺りが熱くなる。
「何か弾いてみる?」
「えぇ〜〜もう弾けないよ〜」
椅子に座ってうさぎちゃんを誘えば、彼女は苦笑いしながらも隣に座る。
「じゃあ『ねこふんじゃった』とかは?」
「それなら弾けます!」
ふたり並んで弾いてみる。
始めはたどたどしかったうさぎちゃんの指使いも何度か繰り返すとスムーズになり、楽しそうに鍵盤を叩く。
たまに入れる俺のアレンジに感嘆の声をあげて彼女は笑う。
楽しいデートだ。
ヤツもこんなことをしたのだろうか?
こめかみが熱い。
ピアノの音に煽られて熱が広がる。
息ピッタリで弾き終えると、うさぎちゃんは嬉しそうに笑って俺を見た。
その笑顔に後頭部がチリチリして、彼女の手を取った。
「?」
可愛く傾げる顔を見ないようにして
彼女の両手を後ろでまとめ、俺の斜め掛けバッグのベルトを絡ませる。
そして彼女の手から伸びるベルトの上に俺が乗れば
彼女の両手は完全に拘束される。
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