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帝白物語 第1章
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部屋に連れてかれるなり私はベッドに投げられた。

「な…何!」


投げられても高級なベッドはふわふわとして痛みなどは感じなかった…でも何?

「何で今日…やる気になったんだ」


何を?
なんて聞かなくても分かる。

私の絶対に手に入る事の無いテニス。

一球打った位で…あそこまで苦しむなんてね。


「逃げてばかりじゃいられないって思ったから」

「それで?まともなテニスは出来たかよ」


そんな意地悪な事…聞かないでほしい。


本当は分かってる癖に。

私があの日病院で吐いたボロをもろに聞いていたのは景吾だけだった。

あれだけ聞いていれば何が起こったか多少は予想できるハズ。

まして景吾なら尚更。


「頑張ろう…って思ったのにダメだった」

「理由は?」

景吾の声は厳しいのに何故だが優しく感じて言葉が素直に出てきた。

何故だかこの日だけは。


「だって…玲也が…」

気持ち悪い。

あの声を思い出すだけで頭を何か重い物で殴られたような痛みに襲われる。


「やだ…!ご…めんなさ…玲也。」

「っ…太陽」

頬を横切る景吾の腕が見えた瞬間私は暖かい温もりを感じた。

これは景吾に抱きしめられているんだと気付くのに時間はかからなかった。

「ゃ…けぃ…ご!」

『俺だけじゃない。みんな消えちゃうんだよ』

そんな玲也が言うハズの無い言葉まで私の頭にまた駆け巡る。

「景吾も…消える…」

「っち、またか」

またか、と景吾言うのも当たり前。あのときの病院での時と同じ状況になっているからだ。


「玲也が言う…の。景吾も…消えちゃ…うって」

「…俺は消えない」

私を抱きしめる力が強くなる。

でも…言葉で言うのは簡単なんだよ…景吾。

「そんな事…言ったて、言葉で言うなんていくらでも出来る!」


あぁ…またこれだ。

どうして私はまたおんなじ事を繰り返す?


どうして…景吾の前だとこんなにも心の叫びをストレートに伝えられてしまうのだろう。


病院の時、私は似たような言葉を一人で言って眠っていった。

だからかな、答えが私の中で出せてないから?

同じ事を繰り返してしまうの?


きっと私は…答えがでなければ一生繰り返す。

玲也を深く思い出してしまう度に。


「太陽!」

「無理…信じ…られない!!」

私は同時に景吾をどんっと思い切り突き飛ばした。

「…っち!」

景吾は哀しそうな瞳を私に向けると一旦私から離れて引き出しからよく分からない物を2つ取り出した。


「分かった…太陽。お前に約束する、形に残せれば安心するんだろ」

そう言って景吾は私の左耳によく分からない物を当てた。

「動くなよ」

―パシンッ―

「っあ!」

音と同時に耳に鋭い痛みが走った。


耳を触ると…ある物が耳を破って突き通していた。

「ピア…ス?」

「そうだ、今すぐ出来るものっつたらこれしか無かった。ほらお前もやれ」

その後景吾はもう一つのそれを私の手に落とした。

「約束だ。俺はお前から絶対消えたりしない」


この言葉を…信じてもいいですか?

ここまでしてくれる彼を信じてもいい…ですか?

玲也…!

『そいつも消えちゃうよ?』

そうか…な?

でもごめ…ん、ね。

私、この約束を…信じたい。

景吾なら…。

一瞬でもそう思った。

だから……私は景吾を…信じる。




それを手にして景吾の左耳にあてる。

「馬鹿、右耳だ。」

「なんで…?」

「二人で一つの約束だからだ。」

私が左、景吾右。
二人重なれば両耳につくピアス。

その意味を知り私の心はまた熱くなる。

ありがと…景吾。

さっきまで不安が嘘のようにすぅと消えていく。

―ガシャン―

「っ!」

景吾の右耳には綺麗に輝くターコイズブルーのピアス。

そしておんなじ物が私の左耳にもう一つ。

「これは二人の約束、誓いだ。絶対に破らない。」

「う…ん。景…吾!」

私はこの時初めて自分から景吾の胸に飛び込んだ。


この日は二人でご飯も食べないでそのまんま同じ布団でぐっすりと眠った。


まるで幼い子供の様に…。










continue



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あきゅろす。
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