帝白物語 第1章
oath
「さ、下りて。久しぶりの我が家よ!」
…確かに久しぶりなんですけどいつ私の我が家になったのでしょうか。
それに、いつ見ても大きなホテルのような家。これが家だなんて私には信じがたい。
「「おかえりなさいませ」」
これも久しぶりに聞いた気がする。
でも今は「おかえりなさい」って言われてる事に安心してる自分がいる。
私の気持ちは正直に嬉しく受け止めていた。
「ただいま…です。またお世話かけます」
「そんなに畏まらないでって!太陽ちゃんは私の娘同様なんだから」
「ありがとうございます」
私に…母親が二人いる気分だ。
お母さんとこうして二人で家に帰ったり出来るのって本当、小さい頃を抜くと何回かって数える位しかできなかったからなぁ…。
「今日は大人しく私と遊びましょう?」
「…え?」
かすみさんの『遊び』という単語の部分に反応する。
「今日は午後までお休みをもらったの。久しぶりには太陽ちゃんと話したいじゃない?」
「い、いえ!私なんかに時間を使わないで下さい。たまにはゆっくり休んだ方が…」
私からしてみればそれはとても嬉しい事だけれど…かすみさんは疲れてるだろうから。そう思って言った言葉だったのだがかすみさんには違う意味に捉えられてしまった。
「なぁに?私とは話したくないって…?」
「そんな事は無いんですけど…」
「ならいいじゃない。さぁ庭にでも行きましょう」
結局かすみさんと私のティータイムは始まってしまったのだ。
今の時期は夏に近く庭の空気も蒸し暑くはなく丁度いい。まさにティータイム日和とでも言おうか。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
かすみさん直々に煎れてくれてお茶を一口頂く。
味はもう庶民の私なんかが飲んでしまっていいのかと思う位の高級感のある味だった。
「おいしい…」
「良かったぁー。私の好きな紅茶なの」
ふふ、と笑って次はクッキーを口にしていた。
これもまたいい香が漂って食欲を誘うものだ。
「かすみさん。」
「なに?」
「私聞きたい事があるんです。」
そう、私はかすみさんにたくさん聞きたい事がある。
「お母さんと知り合いだったんですか?」
「…話さなくちゃね。」
静かにカップを置いてすっと真剣な眼差しで私を見つめる。
「私学生の時から友達だったのよ。しばらく連絡も取り合っていて。」
友達…かな、とは思っていた。お母さんが頼んだっていう位だから。
でもそれだったら何で今まで1度も私とかすみさんは会う事が無かったんだろう。
普通なら、友達っていうなら家に遊びにきてもいいと思うんだけど。
「でも私結婚してから忙しくてね。それまでは会ってたりしたんだけど…そうもいかなくてね。」
跡部さんの仕事、となれば確かに休んだり遊んでばっかりではいられないだろう。
「私はあの人との道を選んだの。普通はあそこまで一緒に仕事しなくていいんだけどね」
自ら、仕事をしてまで旦那さんといたかったって事…?
「だから私あなたのお母さんに言ったのよ。」
「…なにを?」
『本当に私の力が必要になった時は言って。私に出来る事なら何でもする』
「…それが貴女の事だったのよ。」
…お母さんは何を考えていたの?
私には分からない。
『太陽は連れていけないの』
あの言葉は…。
やっぱり既に『死』に向かっていたのかな。
私が『死』をどれだけ恐れているか、玲也の事で知っていたじゃないの。
「あの子と久しぶりに連絡とった時、貴女の事を自慢の娘って言ってたわよ。」
「!!」
「…お願い、お母さんとお父さんを恨まないでね」
…お母さん、お父さん……大好きだよ。
「かすみさん話してくれてありがとう…ございます」
「こういうのは話さなくちゃね」
にこっと笑ってくれたけどかすみさんもお母さんが死んだ事を哀しんでるんだよね。
「そういえば景吾は…どう?」
「へ!?」
話の変わりように私は付いていけなかった。
だって…景吾だよ?
かすみさんまたクッキーを食べはじめてるし…。
「太陽ちゃんに悪い事してない?」
悪い事っていうか…
景吾って意地悪ばっかで強引。
…なんだけどいきなり優しくなって支えてくれたりする。
だから…私の調子が狂う。
『俺は消えない』
あの言葉でどれだけ私が安心したか。
「景吾は何だかんだで…いつも気張ってさ。親の私にも頼ったりしてくんないのよ」
「…それは何か予想つきます」
景吾は何だかんだで弱音を吐いたりしないしアレはもう完璧としかいいようが無い。
景吾こそ人に一線引いてる気がする。
私だけじゃ…ない。
「景吾には私助けられてるんです」
「…?」
「だから何かあったら私が彼を支えられるように……頑張ります」
かすみさんの力になれるなら…頑張ります。
ただ…玲也にだけは謝るね。
ごめんね。
「そう…。景吾も太陽ちゃんみたいに可愛い子がいて幸せね。私…安心しちゃった」
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