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帝白物語 第1章
discharge


「太陽ちゃん、用意は出来た?」


今日は珍しくあのかすみさんが来ているのだ。

私が退院すると言う事を聞いて飛んで来てくれたらしい。


「大丈夫ですよ、ありがとうございます」

「もう…!気にしないでよね!」


本当は仕事だってかなり忙しいハズなのに…邪魔してしまっているのが本当に申し訳無い。


「じゃあ行こうか?」

「…ちょっとだけ待って頂いてもいいですか?」

「何か用事でもあるの?」

「ハイ、ほんの少し」


我が儘言ってすいません。

でも…このままさよならは少しだけ淋しいと思ったから。

「いいよ、行ってらっしゃい」


するとかすみさんは花の様な美しい笑顔で私に許しをくれた。


一礼だけして私は目的の隣の部屋へと向かう。

「精市!」

精市はいつもの様に既に愛用になっているベッドに座っていた。

「…太陽」

何故かいつもより間の抜けた返事に私のテンションは微妙に下がったのを何となく察してほしい所だ。

「何よ、私が来ても嬉しくないのー?」

「違うよ、少しびっくりしたんだよ」

「…ならいいんだけど。はい!」

私は精市の手の元へと一枚の紙を落とした。

何これ?とでもいう様に精市は私の顔を見る。

「私の携帯のメアドと電話番号。何かあったら連絡ちょうだい?」

「…ありがとう。」

「…じゃあね。」

これ以上ここにいるとずっとここに居たくなってしまう、そう予想した私はここで別れを選択した。


何か用事があれば私が来ればいい。こんな軽い気持ちだった。

「じゃあね」

精市の返事を貰った私はドアをパタンと閉める。


精市には早く帰ってきてもらわなきゃ困るんだ。

正々堂々と立海を倒してやるんだから。


だから…病気に立ち向かってね、精市。










「もう大丈夫なの?」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあ行こうか」


荷物を持って部屋を出る。

さようなら。
1、2週間お世話になりました。


入院したのがここで良かったと思う。精市と友達になれたし。救急車の運転手さんに感謝します。


1階に向かっているエレベーターは音もなく静かに動く。


「太陽ちゃんあのね…」

静かな空気にかすみさんの透き通る声が響く。

「はい…?」

―チーン―
だがかすみさんの言葉はエレベーターの到着の合図の音に消えてしまった。

「後で言うわね」

結局何を言いたかったのか…エレベーターに邪魔されたせいで最後まで紡がれるれる事はなかった。

それはかすみさんが決心をして私に言おうとしてくれた大切な大切な内容であったのに…。










continue



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あきゅろす。
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