帝白物語 第1章
discharge
私は只今朝からあのむかつく看護婦と睨み合い中。
何でこうなったの?
簡単、私は今日精市のベッドで朝を迎えた。それを起こしにきたのがこのむかつく看護婦っていう訳。
「何で貴女が幸村くんのベッドで寝てるの!?」
聞いてくる彼女の目は必死で本気で私の事を刺し殺しそうでほんの少し怖い。
それでも負けたくない私は彼女を睨み続けているのだ。
「太陽、下らない対抗はしない方がいいよ。」
精市は少し苦笑いした後、私の方に顔を向けて言った。
でもどうしてその言葉をむかつく看護婦じゃなくて私に言うのか、何だかそれは気に入らない。
だって看護婦が調子に乗りそうで…
「ふん、さすが幸村くんね。分かってるわ」
甘えた声で精市に隣に座り始める。
それを見た私はさすがカチンと頭に血が昇ったのだろう。
「いい加減にしてよね。おばさんが相手にされる訳ないんだからさ。」
私は看護婦の顔をもう見たくもなくなりこの部屋を去ろうとした、けれど精市にも何か言わなきゃ気が済まない。
「太陽」
精市に名前を呼ばれたって看護婦を庇ったからには反応してやるものか。
「精市も…酷いよ。馬鹿…」
―バン―
病院の廊下に扉が閉まる音が響き渡る。
『私より看護婦さんを庇うんだね』
本当はそう言いたかった。
でも私はそんな事言える立場なんかじゃない。
幸せにならないって決めたんだから…アレでいいんだ。
もう…精市とはあんまり会えなくなるんだし別に大丈夫だよね。
隣の自分の部屋に入ろうとした時誰かに名前を呼ばれた。
「鏡見さん」
その人物は私の担当の医師だ。
「良かった、君に丁度話があったんだよ」
「なんでしょうか…」
「明日で退院する事が決まったよ」
きっと丁度いいタイミングだ。
精市とは気まずくなったままで…やっぱり神様も幸せになることを反対してるんだね。
「もう…跡部さんには報告してあるから」
「ありがとう…ございます」
伝えたかったのはそれだけだったらしく、準備しておくんだよ、と言い残して私を置き去りにして行ってしまった。
私は黙って部屋に戻って早速荷物をまとめる。
とは言っても歯ブラシとかコップとかそんな物だけ。
この病院にいた時間は実際1、2週間。それでも私は退屈しなかった。
それは精市が来てくれたり、葵が来てくれたり、景吾なんていつも忙しいのに夕方辺りになると大体は顔を出してくれた。
結局私はいつも誰かに助けられ支えられているのだ。
「私って…最悪?」
幸せになっちゃいけないって頭では分かっているのに、私の心は今の幸せに慣れ始めている。
「ごめんなさい…。玲也」
「…太陽、それは誰の名前?」
「!?」
いつの間に入ってきたのか…精市は私の部屋に入って腕を組んで立っていた。
「…ノックくらいしてよね」
「質問の答えになってない。」
精市の目は今までと違う程に恐ろしく恐怖をも想像させるものだった。
…何よ。看護婦と自分の事は棚にあげて。
そう思っているハズなのに。
今の幸村精市には敵わなかった。
「…前に言ったでしょ。私が『殺した』幼なじみ。」
「……そうか」
そう、私が『殺した』。
もう…過去には戻れない。
精市の目は先程に比べたら随分柔らかいものになっていた。
一体さっきのは何だったのか。
「…看護婦さんとはもういいの?」
「元々相手にしてない」
「嘘、随分………庇ってた」
分かってる、こういう事言える立場じゃないって。
でも口から出た言葉はもう取り消しは聞かないのだ。
「庇ってない」
「…そうなんだ」
私はいつからこんなに意地を張る人間になったんだろう。
私って昔っから心狭いんだね。
「太陽は俺の言葉を信じないの?」
信じるもなにも私は目の前で精市と看護婦のやりとりを聞いたんだ。
言っている事が矛盾している。
庇ってないという割には「看護婦に対抗しない」と私に言う貴方はなんなの?
「…ヤキモチでも妬いてるの?」
「え!?」
精市の言った言葉が予想出来ないものだった為、私の目は丸く固まった。
「冗談…。でもこれだけは分かって、俺は太陽の方が好きだよ」
「〜〜っ!」
からかうのもいい加減にしてほしいものだ。
あの顔は完璧に心の中で私を笑っている。
「私明日でこの部屋からいなくなっちゃうんだから!」
「それは…太陽が荷物をまとめてる時点で分かってたよ」
さすが精市、部屋に入ったあの瞬間からどうせ分かっていたんだろう。
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