帝白物語 第1章
discharge*YUKIMURA
「太陽…起きて」
「う…ん」
寝返りをする彼女が可愛くて可愛くて…。
このまま太陽を奪ってしまえたらなんて、そんな叶うハズの無い事を願ってみたり。
彼女は最初から明るくて…俺の心にじわじわと入り込んできた。
『精市』
俺の名前を呼んでくれる度に俺の心臓は喜んでいた。
名前を呼んでくれる瞬間だけは俺の事だけを考えてくれているから。
いつだっけ…看護婦さんにマッサージしている時に太陽がその場に鉢合わせをしてしまって勘違いをしたのは…。
あの時は心の中で大爆笑していた。
ここまで笑わせてくれる人がいるなんて思ってもなかった。
だから俺も彼女の前だと自然に素になれたんだと思う。
『テニスが出来なくなるかもしれない』
俺の言うことを黙って全部を聞いてくれた。
そんな太陽にわがまままで言ってしまうなんて。
そのわがままを太陽は照れ隠しをしながらも聞いてくれたんだ。
俺の嘘を見抜いてくれて全てを聞いてくれて、我が儘を聞いてくれて。
『私は精市に生きてほしいしテニスもやってほしい』
心からそう望んでくれただろう言葉を俺にくれた。
太陽だからただ単純に嬉しかった。
「…おはよう…精市」
「おはよう太陽」
まだ眠たそうな顔を浮かべながらも一応目は覚ましたようだ。
俺の顔を見てもまだパッとしないようでまたシーツの中に潜っていった。
普段見れない彼女をみた気がして何だか気持ちもほんの少し軽くなる。
でも…太陽が退院してしまったら俺はまた孤独になる。
今までは太陽がいたから何も感じなかっただろうけど、彼女がいなくなった時にまた思い知らされるのだろう。
彼女の存在の大きさに。
いつしか太陽の部屋から跡部の声がしたのを聞いたことある。
跡部の事は太陽には聞かなかった。
また太陽は…跡部の元へと戻るのかと思うと…胸が痛む。
こればかりは太陽には悪いと思うけど、まだ入院していてほしいと願ってしまった。
悪いね、太陽。
でも俺の支えは紛れも無く今目の前で眠っている君なんだよ、太陽。
だからどうかここにいる間だけは俺の傍にいて。
「…どうしたの?綺麗な顔なのに悩んでたら台なしじゃん」
太陽は正直…かなり美人だと思う。
なのに自分の事は棚にあげて俺の事を言われたって何か納得がいかない。
けれど相手は太陽。どうせ自分の容姿を良くて普通位にしか思ってないと思う。考えるだけ無駄だ。
「悩んでなんか無いよ。まさか太陽に言われるなんてね。」
「…何かむかつくー。私だってもう精市の事少し位…分かるから」
まだ少し眠いのかとろんとした目で話す。そんな君の姿にもドキリと心臓はまた一つ跳ねるのだ。
俺らしくない。
自分でもそう思っている。
「ほらぁ精市は笑ってー」
そう言いながら笑顔を向ける君。
どうしてもその眩しい太陽みたいな笑顔だけにはきっと敵わないんだろう。
「私ちゃんとお見舞い来るから、たくさん話そうね」
「ありがとう」
出来る事ならずっと傍にいてほしい。でもそれは出来ないから君が俺の所へ足を運んでくれるというならば、それで我慢をしてあげる。
「立海の部長と友達なんて…滅多に無いからね!」
冗談っぽく笑う君。
つられて俺も笑顔になる。
君がいれば俺の心はいつも暖かい。
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