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帝白物語 第1章
bygone2


「玲也ーっ!今日も練習するでしょ?」

「当たり前。ほら、行くぞ!」



私たちはいつもの当たり前過ぎる会話をもっと大切にすべきだったんだ。

これが最後の『いつも』になるなんて知らずに。





「うっ!そのスライスボールは!」

「全国制覇すんだろ?そんなんじゃ甘い」

見事に私はロブを上げる形になり玲也はスマッシュを決めようとする。

だけど私も負けたくない、という気持ちだけが体を動かす。


「っ!とった!」


「よくやったな。」


私は何気なく冷静でしっかりとコースを狙ってボール返していた。


玲也は汗だくになりながらもその姿はいっちょ前にカッコよくて…むかついた。


「なら…もう一本。」

玲也がいきなりサーブを打ってきて油断していた私はポンッとボールを弾いてしまった。


「あ…。」

ボールはコロコロと転がり公園の外にでていった。


ボールはテニスが好きな私たちにすれば大事な物。そして少ないお小遣で買った大切なボールなのだ。

それを「次のボール出そう」なんて無駄にする事は言えない。


「ボールとってくる!」

「ちょっと待っ…」

私は玲也の呼びかけも気にもせず公園の外へと駆け出す。







「あったぁ…!」


ボールは転がる事はもう忘れていて大人しく止まっていた。


私は周りなど気にせずにただボールを取りに行った。


後ろを振り向くと玲也が少し離れた所にいた。

「玲也〜!ボールあったよ!」

「ありがと」

そう笑ってくれて私はただ嬉しかった。

次に玲也を見た時にはさっきと打って変わり表情が豹変していた。


「太陽っ!」

「え…?」


次の瞬間、玲也は私に向かって走り出した。


―プーッ―

音がする方向を見ると大きなトラックが近づいてきている事に気が付く。


「!!」
―ドンッ―

私の目の前は真っ暗になっていた。何故か身動きできる状態では無くて誰かにギュウっと締め付けられる感覚だ。








『事故よ!事故』

『誰かぁ!救急車!』


周りのやじ馬が聞こえる程私の意識はしっかりとしてきていて冷静にも私はトラックにひかれたんだな、と思っていた。


だけど不思議なのは…体はどこも痛くないこと。



何で…?

だってトラックは確かに私に…


「う…」聞き覚えのある声がして私にようやく光が差し込む。





それと同時に体が動かせるようになり起き上がる。





私が見たものとは…真っ赤になった私と玲也時。





それと少し先で倒れている先程見たトラックだった。






「やっ…いやぁ!」








「太陽……っ!良か…っ…た。」



玲也は辛そうに呟きながら私の体を包みこむように抱きしめてくれた。

玲也の方がいたいのに。



あの真っ赤な血に私の血一滴も含まれていない。




全部玲也の血。





私が何処も痛くないのは…













玲也が私を庇ってくれたから。






目の前が真っ暗になって体の身動きが効かなかったのは…



















玲也が私を庇って抱きしめてくれたから。











全て何もかも私なんかを庇ってくれたから。








「玲也#っ!嫌!死なないで!いやだ!……なんで!…なんで!私なん…か…」

焦りと恐怖のあまりに声が震えて早口になる。



「お前は俺の…」



玲也はそこで意識を手放した。


その言葉はこれから先、最後まで聞く事ができなかった。







「いやあああぁぁー!」





















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あきゅろす。
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