帝白物語 第1章
incident6
気分も景吾のせいでどん底に陥った。
こんな気持ちで打ち上げなんて、私がいるだけで迷惑だ。
今日は大人しく帰る事にした。
今帰れば最近若者でいう『KY』(空気が読めない)になるのかもしれないが自分が空気を汚すよりは随分マシだと思う。
―ガラ―
「太陽先輩…?」
お店に入って目の前にいたのは海堂くんだった。
海堂くんの手にはおいしそうなお寿司があって乾から奪おうとでもしたのだろう。
私以外の皆は既に盛り上がっていていかにも打ち上げ!という雰囲気だった。
「どうしたんスか?」
「家の人に帰ってこい、って言われたから帰るね!」
「気をつけて…」
海堂くんにしては随分進歩だと思う。
私は彼から認められてはいなくて気遣ってもらえて、嬉しかった。
だけど今の私はその感激を素直に受け止められないほどだった。
リョーマくんと景吾との言葉が頭にずっとリピートされているのだ。
それだけで頭がガンガンと誰かに殴られている様な感覚が先程から繰り返されているのだ。
「太陽…」
「て…づか」
「大丈夫か?」
鞄を取りに手塚の近くの椅子に置いてあった場所へと行く。その為どうしても手塚と顔を合わせる形になった。
手塚は部長として常に皆に気を配っていなければならない存在。
それは例えマネージャーであっても扱いは一緒なのである。
「大丈夫!今日は帰るね。」
今は言葉を発する事が辛くて手塚には本当に申し訳は無いがとにかく早く帰りたかった。
「気をつけろ。」
手塚はそれだけ言って私を帰らせてくれた。
あえて理由を聞かないのは手塚の気配りだと思うから。
みんなはあまりに盛り上がっていて出て行く私に気づく事は無かった。
不二くんとリョーマ君以外は。
■■■□■
私だけがこんなに幸せでいいのかな?と思う事がある。
私はあの事故で慶からの幸せを全て奪った。
大好きなテニス、友達、もしかしたら未来まで…。
生きているか分からない玲也に対して私は幸せになってはいけない。
なのに私は…青学のテニス部のマネージャーになってテニスに触れて友達と笑いあって支えられている。それは青学だけではなく、景吾やかすみさん、運転さん、メイドさん。他にもたくさんいる。そして何よも生きている。
「玲也…ごめんなさい。」
私には謝る事しかできないんだ。
玲也を救う事もできずに…。
―プルルル―
「もしも…」
「太陽ちゃん…。」
「かすみさん…?」
また跡部か、と思っていた太陽は驚いた。
かすみは仕事で忙しいが為何かがないと食事を一緒に取ることは無く連絡さえしてこない。
そんなかすみが電話をしてきたとなれば…何かがあったということ。
「どうしたんですか?」
「ご両親が…亡くなったわ。」
私は進めていた足を止めて携帯を落とした。
その場所に座りこんで足は全く動かなくなった。
何も考えたくなかった。
―プーーッ!―
「!?」
一台の車が私を目掛けて走っている。
冷静に考えれば「目掛けて」というのは不適切かもしれない。
ここ、私が座っている場所は…道路のど真ん中なのだから。
あ…玲也…。
あの時みたいだよ…
今度は…玲也を傷付ける事は無いからね。
―キィィィ!―
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