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帝白物語 第1章
incident5


俺には分からない。

あいつが何を抱えているかなんて。


テニスをやらない事。


それが気になる。


過呼吸になる程の事なのか。



何が太陽を縛っているのか…分からない。



アイツが何を考えて青学のルーキーと試合をやったのかは知らない。




だが太陽がただ者で無い事だけは確かだ。




―ガチャリ―


試合が終わり、部員は皆解散して最後に顧問の榊先生に電話してから家の者に迎えに来てもらい家に着き、今に至る。


部屋のドアを閉めていつもの特等席のソファーへと座る。


「太陽の野郎、まだ帰らねぇのか。」


一応メールは入れた。


太陽の性格上メールを見たらすぐに連絡がくるハズ。


それを分かってるから俺は大人しく待っていられるんだ。


―ブーッブーッ―

鞄の中から妙な音が鳴り始める。

その正体は予想がつくものだった。

試合だったからマナーにしてたんだった。

メロディーが流れる事がないという事はそういうこと。




ったく今座ったばかりなのに面倒だ。


「…電話か」

面倒だと思いながらも腰を上げて、鳴っている携帯を取りに行くのは何処かで太陽の電話では無いか、という期待があるから。


「…もしもし」

『景吾!』


『さっさと今すぐに帰ってこい。』

何か太陽がいないと物足りなくなり、帰宅するようにと促した。

『私まだ何も…』

「帰ってきたら練習、手伝え。」


言いたい事は分かってる。

俺が送る前に届いていたメール。

青学の打ち上げの事。


本当だったら許してやりたい…でもそれができない。


たかが俺の一つの我が儘の為にトレーニングを口実にして太陽に言う。


「…いや。」

少しの沈黙と小さい声の大きな否定。


アイツはすぐに分かったんだろう。

テニスが練習だということを。

そしてまたテニスをやらされる、という事も。


否定された事に苛立った俺は太陽を傷付ける言葉しか…出てこなかった。


「逃げてんじゃねぇよ」

この言葉が太陽にとってどれだけ辛く重い言葉になるかを理解していても。


「ちが…ぅ。逃げ…てな」

震えるような声で言う太陽が痛々しい…。なのに俺の口は止まる事は知らずに太陽を責め立てるのだ。


「お前は逃げてんだよ!」


―プーップーッ―


会話は途切れた。


良かったのかもしれない。

…太陽が聞きたくなかった言葉をいっぱいにして吐いてしまうかもしれなかったから。





苦しめたかった訳じゃないんだ。


ただ俺は…









傍に居てほしい。

それだけなのに。














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