帝白物語 第1章
incident4
携帯をちらりと覗くとメールが1件。
もちろん誰から来たのかは見なくても分かる。先程メールを送った跡部からのメールの返信。
パカりと携帯を開いてメールの内容を見る。
「早く帰って来い。」
これだけだった。
なんとも少ない文字。
だが太陽には上手く伝わる事はなくこの言葉の意味が分からない。
この言葉は許可するけれど早く帰ってこい、ということなのか、それとも今すぐに帰ってこい、という許可ができないことの意味をいうのか。
誤解が生まれる。だからメールは面倒。
この後でごちゃごちゃと言われるのだけは避けたい。
こういう時には電話が1番。
太陽は少しお店の外に出て携帯のメモリーから「景吾」の名前を選んで通話ボタンを押す。
「景吾!」
「さっさと今すぐに帰ってこい。」
怒鳴っているような飽きれているような、何とも言えない声が聞こえた。
「私まだ何も…」
「帰ってきたら練習手伝え。」
「…いや。」
跡部の言う練習とはテニスの事。手伝えという事は太陽がテニスをするということの表れ。
それしか頭に無かった。
「…いつまでも逃げてんじゃねぇよ。」
まただ…。
苦しい。
もうやらない。
…やりたくない。
私は許されない。
「ちが…ぅ。逃げ…てな」
「お前は逃げてんだよ!」
―プーップー―
無意識に電話を切った。
『逃げる』
この言葉が怖いのだ。
あの時を思い出すから。
私にはテニスを…
慶から奪ったテニスを
やる資格なんて無い。
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