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帝白物語 第1章
incident3


試合は終わり、メンバーがクールダウンをしている時だった。手塚が話しかけてきた。


「太陽、今日の試合の打ち上げがこの後にあるんだが…」


「打ち上げ…?行きたいんだけど…」



景吾がなぁ…。
許してくれないよね。


「無理ならいい。」

「…大丈夫。家の人には伝えておくから。」


景吾にはメールで伝えておくことにしよう。



久しぶりに騒ぎたくなった、という理由もある。青学の圧倒的な強さを見せ付けられて体が疼いているのだ。


だけれど、その疼きを取り除くなど許されない。


私の決心に反するから。


テニスはやらない、これがあの時決めたこと。



「よし、太陽は制服だから大丈夫だな。」


「はい?」


「お前は越前を連れて来い。アイツの事だから逃げ出す可能性がある。後で竜崎先生が車に乗せてくれるハズだ。必ず連れて来るように。」


リョーマが入ってからまだそんなに時間はたっていないのによく彼の事を分かっている。さすが部長だ。部員をよく見ている。


太陽は手塚の尤もな事に納得するしか無かった。





■■■□■



「ほら、太陽も早く乗る!」

竜崎先生に言われるがままリョーマと太陽の二人は車に乗せられる。


するとそこには昼の試合の時に太陽と会った桜乃もいた。


「あ、桜乃ちゃん!」

「太陽先輩!と…リョーマ君!」

「なんか俺ついでみたいに言われてるし。」


リョーマが多少桜乃の言葉を気にしているらしいが太陽はお構いなくスルー。


「桜乃ちゃん、今日は試合中いきなり消えてごめんね?」

「い、いえ!とんでもないです。」



太陽が海堂にドリンクを渡しに行く時に桜乃は外に置いてかれたのだ。杏と共に。


別にそんな事はあまり気にしていなかった。

その後は杏も桜乃も試合に夢中になっていたのだから。


「太陽先輩、竜崎の事なんで知ってるんスか?」


「今日ドリンク作ってる時に会ったんだよ。」


だが、ここで桜乃に疑問が思い出さされた。

桜乃は自分の事を太陽に話していない。

何故ならば最初から名前を知られていたから。


そこで桜乃には当然「何故知っているのか?」と思う。


「太陽先輩…何で私の名前を…?」

「え?だっていつも頑張ってるし…ホラ目立つじゃん?その長い三つ編み。」


太陽は桜乃の髪の毛を人差し指でさしながらニコニコと笑っている。


「ふーん。」


聞いた本人のリョーマはどうでもいい、というように聞き流す。

元々リョーマが質問した意味はどちらかというと桜乃の質問の方だったらしいけれど。



「ほれっ!二人とも下りな!行ってらっしゃい。」


その言葉を最後にリョーマと太陽は車から外に投げ出される。

そしてまともに挨拶もさせてもらえなく、車はだんだんと小さく消えていった。

「リョーマ君…」

「寿司屋だね。」


投げ出された場所は二人とも1度も見たことの無い寿司屋さん。


人がいるであろうお店の中から微妙に聞き覚えのあるような声がちらほらと聞こえる。

ここで太陽ピンと来た。手塚の言っていた打ち上げの話だろうと。

一方のリョーマは何も聞いていないのか何かを悟る様子も無い。


「とりあえず入ろうよ。先輩。」

「そうだね、入っちゃおう」

太陽はウキウキしながら目の前のドアを開ける。


―ガラッ―


「「「「遅いっ!」」」」


中にいたのはもちろん青学レギュラー陣たちである。


「ごめんっ!ほらリョーマ君も」

「帰っても…」

「ダメ!早く!」

リョーマの「帰ってもいい?」という質問は見事に太陽に遮られた。

仕方なく、という感じではあったがリョーマは無事に席に座る。

太陽もリョーマの隣に座って大人しくした。


「じゃあ全員そろったって事で…カンパァイ!」


ビールを乾杯!…ではなくジュースだが乾杯。

我々青学は一つの壁を越えたのだ。今日くらいは騒いだって罰は当たらない。

どうやらこの寿司屋はタカさんのお店らしい。

お父さんがお祝いに、という事でお店を貸し切りにまでしてくれた、という事。

もちろん無料。



「太陽ーっ!乾杯!」

「ハイ、乾杯!」

菊丸はわざわざ一人一人まわってみんなと乾杯。そしてお得意の一気飲み。

太陽にはスポーツドリンクではないから安心して飲み干すことができるのだった。


「太陽先輩」

「なに?リョーマ君。」


なにか企みがあるかのような微笑を浮かべている。

「…先輩何で今テニスやんないの?」

「へ…?」

「前に公園でゲームした時、ツイストサーブまで打って経験は無い、なんて事は無いでしょ?」

リョーマは鋭く全てを当てていた。

あの1ゲームでそこまで分かるものなのか。


だが、あと一つある。


マネージャーとしての動き。

部員がどんな時になにを欲しているか、どのような事を要望しているのかをよく理解している。

普通はそんな事が分かるハズが無いのだ。これはテニスを経験してるから分かっていて、尚且つ行動も起こせる。



「何かあるんでしょ?あれだけの実力があってやらない理由はないし。」


ぺらぺらと喋りながらもお寿司を食べるリョーマの手が止まる事は無い。


太陽も耳は働かしながらもきちんと食べている。



「私は人のテニスを奪ったんだから…やる資格はない。」

「…それはどういう事?」

いかにも無理して笑う太陽が痛い。リョーマが気になる中太陽は笑うしか術を知らない。

弱みを見せてはいけない。他の人には迷惑をかけてはいけない。



「太陽先輩はテニス好き?」

「……」

リョーマの質問に答える事はなかった。

否、答えられなかった。

ここで口にすれば今までの思いが全て崩れ落ちてしまうから。


「ほら!もっと食べなきゃ。」


この話題から離れたかった。




私は許されない。

生きているかも分からない玲也に対する償い。






「太陽先輩は逃げてるだけじゃん」






その言葉は私の心に何か大きな矢を突き刺すような鉛みたいに重い言葉だった。

















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あきゅろす。
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