駄文(短編)
雨
昔から、雨の日はあまり好きではない。
雨が降らなければ水不足になるし作物も育たないとは解ってはいるが、部屋の中でおとなしくしている事が苦手な己を自覚してるが故に、やはり満足に鍛練も出来ぬ雨の日はあまり好きにはなれぬ。
幼い頃は風邪を引くし、滑って転んだりしたら危ないから外に出てはダメだと、よく佐助に言われていたがそれくらいで素直に言う事を聞くような子供ではなかったから、こっそり抜け出しては泥まみれになって、帰る度に叱られていた。
そんな思い出ばかりだからやっぱり雨は好きにはなれませぬ。と言ったら
「だからアンタはガキなんだよ」
と、さも可笑しそうに笑いながら貴方は言う。
忙しい中、時間を作って奥州から某に逢いに上田まで来てくださった事を思えばこそ、予想外の悪天候に恨み言の一つも出ようというもの。
だが貴方はそんな某の想いも理解した上で、敢えてそんな言葉を選んで言う。
「政宗殿にとって某はまだガキでごさるか」
以前から己の未熟さをよく解っているので、今更この人に子供扱いされた所でたいして腹も立たぬのだが、わざと拗ねたように言ってみる。
「Oh、Sorry。少し笑い過ぎたかもな。」
すると、まだ笑ってはいたが、そう言いながら某の頭を撫でてくれる。
これが子供扱い以外の何物でも無いとは解ってはいるが、この人に頭を撫でられる事を大層好いているので気付かないフリをする。
「俺は雨の日も好きだぜ?部屋の中で雨の音を聞いてると落ち着く。庭は晴れの日には見せない表情を見せてくれる。」
座り込んでる某の真向いに座り、頭を撫でながら話してくれる政宗殿の顔を正面から見ればとても優しい瞳をして微笑んでくれた。
「それに、こんなふうに雨でも降らなきゃアンタすぐ鍛練だ何だでどっか行っちまうだろ」
視線を逸らしながら小さな声で早口に言われた言葉だが、某の心の臓を鷲掴みにするほどの衝撃だった。
思わず、衝動のままに細い身体を抱き締めていた。
「…なんだよ急に。痛ェだろーが」
耳まで赤く染まってるくせに不機嫌そうにそんな事を言う。それがこの人の照れ隠しだと知っているからこそ、更に愛しさが募る。
「斯様に可愛いらしい事をおっしゃる政宗殿が悪いのでござる」
言いながら、花が綻んだような愛らしい唇を己のそれで塞ぐ。僅かに緊張で強張った身体もすぐに力が抜けていく。
「…Ha、とんだクソガキだな。破廉恥極まりねェ」
そのまま床に押し倒し、首筋を喰めば、乱れかけた息のままにそんな事を言われた。
「そうさせているのは政宗殿だと、そろそろ自覚していただきたい」
着物を乱す手を止めずに言えば、某の首にするりと腕をまわしながら「お互い様だろ」と、笑い混じりに言われてしまった。
なるほど、確かにそうかもしれぬ。
「なれば、これからは雨の日も好きになれそうでござる」
思ったままに呟けば、貴方は一瞬驚いたような表情をして、
「アンタやっぱり相当のタラシだな」
と、聞き捨てならない事を呟いたが聞こえぬフリでその唇をまた塞ぐ。
雨の音の合間に響く貴方の声の心地好さを知ってしまったのだ。自分でも単純過ぎるとは思うが、こればかりは致し方ない。
昔から、雨の日はあまり好きではなかった。
だがこれからは、むしろ雨が降る事を歓迎するのでござろう。
愛しい貴方がこんなにも近くに感じられるのだから。
終。
台風の勢いのままに書いたモノです。幸村は雨の日とか苦手そうだなと思って書き始めたモノですが、最後はもう自分でもよく分からなくなってます。汗
この後はもちろん破廉恥な展開に続きますがソレやると更に収拾つかなくなりそうなので。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
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