「あーもうヤダ……」
「今年のアイスはハンナと良い勝負だったな、なぁ兄弟?」
「……んだなあ」
「なになに、ハンナがどうかしたの?」
場所を換え、ダンの家。僕達はこれから、先程の映像を見ることになっていた。
僕はハンナに捕まっていて、逃げたくても逃げられないでいる。やがて始まる生き地獄をビクビクしながら恐れていた時であった。
「あああああ!!!」
「ハンナ、僕の鼓膜破ける」
「ごめん」
和やかな表情で思い出話を始めようとしていたダンとノーレを、ハンナが邪魔したのである。
ハンナがダンとノーレのところへ行くと、フィンが空いた隣に座ってきて、嬉しそうに耳打ちしてきた。
「ハンナちゃんもねぇ、エイプリルフールで思いっきり騙されたことがあるんだよ」
「ハンナがねえ」
向こうでダンとノーレを怒っているハンナの耳が、少し赤いのに気付いた。フィンはクスッと笑って続ける。
「今日ハンナちゃんがアイス君にしたように、スーさんがハンナちゃんに、突き放す演技をしたんだ」
フィンが懐かしそうに語る。けれど、僕にはうまく想像できなかった。
スヴィーとハンナは長年連れ添ってきた老夫婦のように穏やかで仲が良いし、ハンナがスヴィーの演技に騙されるのは思いにくいのである。
「びっくりするくらいの棒読みだったのに、ハンナちゃんはスーさんの言うことを信じちゃってね」
「それで、ハンナはどうしたの?」
「
すっっっごい泣いた!!」
「嘘だっつってバラした後も一週間は泣いてたな」
「ノルウェー!!」
「めんごかったど、泣いとるハンナ」
「お願いだから黙ってノルウェー……!!」
罪悪感が大きすぎて、演技力の無さに拍車が掛かったスヴィー。動物でも演技だと分かるそれに騙され、大号泣のハンナ。
そして、嘘だと分かったのに引きずってメソメソするハンナと、騙して泣かしてしまったことにまた罪悪感を抱いて落ち込むスヴィー。
「それは想像できる」
「いんやぁ、あれは一番すごかったなー!」
その時はまだ記録する物が無かったらしく、僕はみんなの話を聞くしか知る方法がない。
もっと時代が遅ければ、僕も思い出話に参加出来たのに。そう思うと、少し残念である。
「あー……そろそろ止めねえか、その話」
「そ、そうだよ。アイスのビデオ見るんでしょ!」
「そうでした!じゃあ見ましょうか、ターさんいいですか?」
「おう。ノル、画面から離れっぞ」
「ん、」
「うわー!止めようよ、いじめ格好悪い!」
何故、姉たちと僕とはこんなにも不公平なのか。
これからずっと残されるであろう僕の黒歴史を見せつけられながら、僕は震えていた。
一度限りの悲劇
「うっうっ……」
「ど、どうしたのハンナ?!」
「またあの頃を思い出した」
ハンナは結婚相手、間違えたと思う。
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