繰り返される寸劇(I)





「私本当は、アイスのこと嫌いなの」




僕の姉は嘘つきである。

僕との約束を忘れた時も、僕のおやつを食べた時も、絶対に本当のことを言わない。妖精さんがね、と言い、やむを得ないものにしようとするのである。


「……ハンナ、どうしたの?どうして急に」

「別に。いつも黙っていたことを今日言っただけよ」


姉のよく吐く嘘は、いわゆる可愛いウソ。人を傷付ける嘘だけは吐かれたことがない。

それが今はどうしてか、酷いことばかり言う。普段の姉からは信じられない言葉ばかり浴びせられている。


「ハンナ、冗談でしょ?ハンナが僕を嫌いな訳なんてない、だって」


"普段"?それが偽りの姿であったというのか?それとも、照れてばかりで素っ気ない僕に愛想を尽かしてしまったのか。


「昨日だって、うざいくらい僕の名前を呼んで、痛いくらいぎゅーって……」


ぷくぷくと涙が湧いてくる。視界がゆらゆら、声も頼りなく揺れてきた。

僕の知っている姉なら、いくら凝った演技でもここまで冷たくしたりしない。けれど今目の前にいる姉は、未だ厳しい目をしていた。


「嫌だ。信じないよ、僕」


これは夢なのであろうか。

もしも夢ならば、夢でくらい、素直になっても良いはずである。僕は堅い握り拳を腿に当てながら、ええい!と言葉を紡いだ。


「僕はハンナが好きだよ。だからお願い、嫌いだなんて言わないで。嘘だって笑ってよ。いつもみたいに僕のことぎゅってしてよ!」


夢なら、早く覚めてくれ。


「ハンナお姉ちゃんっ……」

「ああっ!もうダメ!!」

「え?!うぎゅっ」


願うと同時に、夢は呆気なく覚めた。

目覚めたそこはベッドの上でもソファの上でもなく、今までと変わらない景色だった。そう、僕は夢であれと願っただけで、始めから夢など見ていなかったのである。


「へっへっへ!」

「大成功ー!!ですね!」


姉の腕の中でほっとする暇も無く、僕の兄を名乗る人達が姉の向こうに現れた。揃いも揃って近場の物陰からぞろぞろ出て来て、『ドッキリ大成功!』という看板を僕に見せ付ける。


「ドッ……キリ……?」

「ごめんねアイス、嫌いなんて嘘だよ!!」


呆然とする僕にすっと近寄って来て、ノーレがにやりと笑う。


「アイス。エイプリルフールって知ってっか?」

「あ…………ああああ!!」


僕は一気に脱力し、姉に支えられる形でようやく立っていた。ショックから覚めない内に、先程の物陰から最後の一人・スヴィーが現れて、僕に寄ってきた。


「久しぶりにええもん見た。あんがとない」

「ってちょっとスヴィー!手に何持ってんの!?」

「あ?これはビデオカメラっつって……」

「それは知ってる!!!!」


僕はしばらく立ち直れないかもしれない。嫌いと言われて泣き、しかも恥ずかしいことを叫んだ場面を記録されていたなんて。今度こそ夢ではないかと心が逃げかけた。

「スーさん、うまく撮れましたか?」と花を飛ばすフィン。「俺んちでもっかい見んべ!」とダン。僕の気も知らないで、楽しそうな人達である。











繰り返される寸劇


「ハンナ!昨日あれ、消してくれた?!」
「うん、消したよー!」

僕の姉は嘘つきである。



 




あきゅろす。
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