「私本当は、アイスのこと嫌いなの」
僕の姉は嘘つきである。
僕との約束を忘れた時も、僕のおやつを食べた時も、絶対に本当のことを言わない。妖精さんがね、と言い、やむを得ないものにしようとするのである。
「……ハンナ、どうしたの?どうして急に」
「別に。いつも黙っていたことを今日言っただけよ」
姉のよく吐く嘘は、いわゆる可愛いウソ。人を傷付ける嘘だけは吐かれたことがない。
それが今はどうしてか、酷いことばかり言う。普段の姉からは信じられない言葉ばかり浴びせられている。
「ハンナ、冗談でしょ?ハンナが僕を嫌いな訳なんてない、だって」
"普段"?それが偽りの姿であったというのか?それとも、照れてばかりで素っ気ない僕に愛想を尽かしてしまったのか。
「昨日だって、うざいくらい僕の名前を呼んで、痛いくらいぎゅーって……」
ぷくぷくと涙が湧いてくる。視界がゆらゆら、声も頼りなく揺れてきた。
僕の知っている姉なら、いくら凝った演技でもここまで冷たくしたりしない。けれど今目の前にいる姉は、未だ厳しい目をしていた。
「嫌だ。信じないよ、僕」
これは夢なのであろうか。
もしも夢ならば、夢でくらい、素直になっても良いはずである。僕は堅い握り拳を腿に当てながら、ええい!と言葉を紡いだ。
「僕はハンナが好きだよ。だからお願い、嫌いだなんて言わないで。嘘だって笑ってよ。いつもみたいに僕のことぎゅってしてよ!」
夢なら、早く覚めてくれ。
「ハンナお姉ちゃんっ……」
「ああっ!もうダメ!!」
「え?!うぎゅっ」
願うと同時に、夢は呆気なく覚めた。
目覚めたそこはベッドの上でもソファの上でもなく、今までと変わらない景色だった。そう、僕は夢であれと願っただけで、始めから夢など見ていなかったのである。
「へっへっへ!」
「大成功ー!!ですね!」
姉の腕の中でほっとする暇も無く、僕の兄を名乗る人達が姉の向こうに現れた。揃いも揃って近場の物陰からぞろぞろ出て来て、『ドッキリ大成功!』という看板を僕に見せ付ける。
「ドッ……キリ……?」
「ごめんねアイス、嫌いなんて嘘だよ!!」
呆然とする僕にすっと近寄って来て、ノーレがにやりと笑う。
「アイス。エイプリルフールって知ってっか?」
「あ…………ああああ!!」
僕は一気に脱力し、姉に支えられる形でようやく立っていた。ショックから覚めない内に、先程の物陰から最後の一人・スヴィーが現れて、僕に寄ってきた。
「久しぶりにええもん見た。あんがとない」
「ってちょっとスヴィー!手に何持ってんの!?」
「あ?これはビデオカメラっつって……」
「それは知ってる!!!!」
僕はしばらく立ち直れないかもしれない。嫌いと言われて泣き、しかも恥ずかしいことを叫んだ場面を記録されていたなんて。今度こそ夢ではないかと心が逃げかけた。
「スーさん、うまく撮れましたか?」と花を飛ばすフィン。「俺んちでもっかい見んべ!」とダン。僕の気も知らないで、楽しそうな人達である。
繰り返される寸劇
「ハンナ!昨日あれ、消してくれた?!」
「うん、消したよー!」
僕の姉は嘘つきである。
←→
無料HPエムペ!