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前編U
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―チャポン…

天井から落ちる水滴が湯船に落ちる。

「はぁ〜、気持ち良い…」

翔は浴槽に入りながら繋いだ両手をグッと上に持ち上げ背伸びをする。

両脚も最大限に伸ばして、正にリラックスタイムを堪能している翔。

「風呂ならさすがに那月の邪魔も入らないからな…、ふぅ、ひと時の安息だ」

安堵の表情を浮かべながら、翔はゆっくりと風呂を堪能した。





―ザバァ…

「ちょっと入り過ぎたかな…、逆上せそう」

結構な時間浸かっていた為、顔が上気してしまった翔は素早く浴槽から出ると、ぬる目のシャワーを浴びて浴室を後にした。

ゴシゴシと音を出しながらバスタオルで身体中の水滴を拭き取っていく翔は、ある事に気付く。

「…あ、着替え忘れた…」

さっきまで着ていた服も洗濯機の中でシワだらけに、下着も折角身体洗ったのだから新しいのが良い。

頭を拭きながらそんな事を考えてた翔は、今この部屋に那月がいない事を思い出した。

「…那月いないし、このまま行くか…」

そう一言呟いた翔は、腰にタオルだけ巻いて頭をバスタオルで拭きながらリビングに戻る。





「どれにすっかなぁ〜」

タンスを開けて、下着を選ぶ翔。

普段からオシャレに気を使う翔は他人には見えない下着にもちゃんとこだわりを持ち、気を使っている。

「ん〜、これじゃ無いなぁ、コレ…、も気分じゃないし…」

傍から見たら、下着ごときに悩みすぎだろうと思ってしまう光景も、翔にとっては重要なこと。

どの位時間がたったのだろうか、今から色々な意味を含め勝負でもするかの様に真剣な表情で下着を選ぶ翔。

すると、ガチャリと廊下と部屋を繋ぐ扉が開く。

どうやら那月が帰って来たようだった。

「たっだいまで〜す、翔ちゃー……っ!!」

笑顔で大きく手を振りながら挨拶する那月は、翔を見て直ぐ様言葉を失う。

「ああ那月か、おかえ…り……、……っ!!」

那月の帰還に今だ下着を選びながら適当に挨拶を返す翔だったが、現在の自分の格好を咄嗟的に思い出した翔も途中で言葉を失う。

しかし翔の言葉が途切れるよりも早く後ろからドタドタと走ってくる音と共にパシャパシャと電子音が何度も聞こえてくる。

「翔ちゃんっ、なんて格好してるんですかっ!! 可愛すぎますよっ!!」

「ぁあああーーっ、那月ぃい撮るなーーーっ!!」

タオルを巻いているとはいえ裸を撮られた翔は黙っていられる訳は無い、翔は慌てふためきながら那月のケータイを奪い取ろうと腕を振り回し那月を追い回す。

「あははっ、慌てている翔ちゃんも可愛いです〜」

那月は翔の猛進をヒョイヒョイとかわしながら、次々と写真を撮り続けて行く。

「このっ撮るなあっ、那月っそのケータイを寄越せぇえーーーっ!!」

何度も部屋中を駆け回っている内に、翔が腰に巻いているタオルの結び目は緩くなっていくが、今はそんな事に気付ける余裕なんか無い、翔は那月のケータイを奪おうと必死になっている。

「翔ちゃん、そんなに動いたら」

「なんだってんだよっ、んな事より早くケータイをっ!」

「いえ、その…タオルが」

「タオル?」

―ハラリ

「ハラリ?」

案の定、翔の腰に巻かれていたタオルは無情にも床に落ちてしまった。

「…ぁ、……ぁあ……」

言葉に出来ないこの出来事に、翔の顔は見る見る内に青ざめていく。

「翔ちゃん…、かっ……可愛いですぅうーーっ!!」

しかし、翔の顔とは対照的に喜びに満ちた顔の那月はケータイ片手に全裸の翔をパシャパシャと撮り始めている。

「なっ…なっ、何撮ってんだぁああーーっ、マジで撮るなぁああーーっ!?」

さっきまで青ざめていた顔が今度は真赤に染まり、翔は股間を両手で隠しながら那月を怒鳴り散らす。

股間を押さえている為、思うように走ることも出来ない翔はその場で那月を怒鳴ることしか出来ない。

「ウフフ、股間を隠しながら怒っている翔ちゃん…とっても可愛くて愛らしいですよ!」

「やっやめっ、写メ撮るなあっ!」

普通に考えれば翔がさっさと風呂場に逃げ込むなり下着を穿くなりすれば良いものなのだが、行き成りこういったアクシデントが発生すると正常な判断がとれなかったりする。

「フフ、さすがに下半身は撮っていませんよ…」

那月はパタンとケータイを閉じてズボンのポケットにそれをしまうと床に落ちているバスタオルを拾う。

「な、那月?」

ゆっくりと翔に近付き、拾ったバスタオルを彼の肩にかけてやる那月。

「そんな格好でずっといたら、風邪引いてしまいますね」

そう言いながら、那月は翔の前髪を人差し指で撫ぜると、ツゥ…と冷たい雫が髪から垂れ那月の指を伝った。

「あ、ありが」

「今ですっ!!」

「へっ?」

頑なに股間をガードしていた翔だったが、那月の優しい言葉とバスタオルをかけてくれた事に少し猜疑感を解いた翔は、一瞬両腕から力を抜いてしまった。

那月はその瞬間を見逃さず、翔の腕を掴むと思い切り上に振り上げた。

何が起こったのか、直ぐに理解できない翔は全裸で万歳の格好をしたまま目が点になっている。

「アハッ、見つけました翔ちゃんの可愛いバナナさんっ!」

「なっ…、なっ、ぬぁあつきぃいーーーっ!!」

悲鳴に似た翔の絶叫が部屋中にビリビリと響き渡る。

「翔ちゃん、いくら防音されてる部屋だからってそんな騒いだら誰か来るかも知れませんよ?」

「うっ、むうぅ…!」

さすがにこんな格好の状態で人が来られるのは阻止したい翔は途端に口を塞いだ。

「フフ、写メには撮りませんでしたけど、先程チラっと見た翔ちゃんのバナナさん…、やっぱり可愛いですね!」

翔の顔が温度計の様にグングンと真っ赤になって行く。

「は、離せ那月っ!」

「そんなコトをしたら翔ちゃん直ぐに隠してしまうじゃないですか」

「あっ、当たり前だっての、そんなトコ普通人前に曝さないっ!」

翔は自分の腕を掴んでいる那月の手を振り払おうと暴れるが、那月の握力はかなり強く振り解けない。

「なっ、那月…マジで見んなっ! くっ…」

腕の自由はあきらめたのか、翔は虚しい足掻きと分かりつつも、太股で何とか股間を隠そうとしている。

「あぁ…、翔ちゃんの行動一つ一つが可愛い過ぎです、ずっとこうしていたい…」

「バッ、バカじゃねぇの? 早く退けろバカ那月っ!!」

「それにしても、翔ちゃんのバナナさん…」

「って、無視かよっ!」

「翔ちゃんのバナナさんも本人に似てオシャレさんですね! 小さくて…綺麗な肌色で…、タートルネックを頭までスッポリと被ってます!」

「それはオシャレじゃねぇえーっ! ただ剥けてないだけっ…て、ンなコト言わせんなぁあーっ!!」

思わずツッコミ返してしまったが、同時に墓穴も掘ってしまう翔は羞恥心と屈辱感を高めてしまう。

「もっと監察したいです、翔ちゃんのバナナさん…」

「あっ、っておいっ、那っ…!」





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あきゅろす。
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