SS conflicting(小梵) それは忠誠でも有り、背信でも有る。 ◆conflicting◆ 「梵天丸様、朝にございます」 梵天丸様に仕え始めて、五日が経った。 俺はこの五日間そうして来たように、彼の人の部屋に行き、襖越しに朝になった事を告げる。 「わかった。もう…下がって良い」 「はっ」 (また、同じ、) この方は、気付いているのだろうか。 毎朝、俺に答える声が震えている事に。 きっと声だけでなく、痛々しい程、その幼い肩は震えているに違いない。 だが、俺はそれを抱き締めてやるどころか、見る事さえも赦されないのだ。 (あの女は、梵天丸様が意識しなくとも、心を占め続けるというのに。一体、その心のどれだけに、俺は存在しているのだろうか) それは最早、ただの醜い嫉妬。 主に信頼されないから悔しいだなんて、生易しい物ではない。 あの透明な硝子細工のような心を、自分以外の物が占める事が気に入らなかった。 それはまるで、あの幼い子供に、激しい恋をしているような。 (──…それも、悪くはない) それでこの愚かな願いが叶うなら、きっと俺はいかなる事もしよう。 この手を、紅く染める事さえも。 End [前へ][次へ] |