SS 遭(幸→政) ◆遭◆ 戦術を駆くその姿は、喰らい尽くす阿修羅の如く。 しかし壮麗なその太刀筋は、華やかな舞姫を思わせる。 噂名高い竜とは、是程迄に浮世離れした存在なのかと。 身が震えたのは、果たして恐怖からか、高揚からか。 大地に根張った両足は、思う様には動かなかった。 「何ボーッとしちゃってんのさ」 「…佐助」 全精神を活動させて出来たのは、馴染みの家臣の名を呼ぶ事だけ。 今日も橙色が目に鮮やかな忍は、苦笑を浮かべ視線を合戦場へと戻す。 こちらへと一直線に向かって来る蒼竜の後方には、その爪痕がまざまざと残されていた。 時折陽光を反射し、兜の三日月と六つの爪が白く光る。 それが確認出来る程彼が近くに居る、という事実に、幸村の躯は一気に熱を帯びる。 もっと、限りなく近い場所で、彼を感じたかった。 「ちょ、旦那っ!!?」 漸く大地から解き離れた両足は、最早、羽の様に軽い。 高鳴る鼓動と同じ律動で砂を跳ね上げながら駆けるその速度を、緩める術等、知らなかった。 「伊達政宗ぇえっ!!」 「ッ!!」 高く鳴いた互いの得物は、燧石の如く灼熱を放つ。 (最早、臨界点は突破) End [前へ][次へ] |