SS freezing(小政) ◆freezing◆ 鈍色の空から降り注ぐ真白き結晶。 掌に堕ちた瞬間消えて失くなるそれを穏やかな眼差しで眺める男の傍らで、政宗は世界が薄く雪化粧していく様を見ていた。 「この分なら、明朝には大分積もっているでしょうな」 「Ah…そうだな」 「……政宗様、」 抱き寄せられ、薄い衣越しに愛しい男の体温が伝わる。 自分がもしも雪だったら、このまま綺麗に消えてしまったのではないか。 そう思う程、その腕の中は温かかった。 小十郎、と小さく呼べば、男は微笑んで幼子をあやすように褐色の髪を抄く。 「政宗様…?」 懐かしい夢を見ていた。 かつて戦国の世であった頃の、記憶の断片。 時が変わっても、心配そうに様子を窺ってくる目の前の男は変わらない。 当然ながら、前世の記憶が残っていない事を除いては。 「悪い夢でも、ご覧になられましたか」 「No…悪夢なんかじゃ、なかったさ」 窓硝子に映る二人の姿は変わらぬままで、しかし、あの時とは違う。 温もりを忘れた掌では、雪に触れたら凍えてしまいそうで。 (雪は一晩で全てを白に還すのに、何故、俺達は戻れないのだろう) End [前へ][次へ] |