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メイド様の恋愛事情【白ひげ海賊団/前半】


「小夜子ちゃんは、どんなタイプの男が好きなわけ?この中なら誰?」

……なんとも、答えにくい質問でしょうか。
そして、この食いつきはなんなんですか。





『メイド様の恋愛事情』




はしたなく白ひげの前で大泣きした挙句、赤子のようにあやされたあの日から小夜子は悩み明け暮れていた。

第二の人生をこの世界で生きると決めた。
それは良いのだが…海賊になるとは決めがたい。

『世間体を気にするわけではありませんが…どうすればいいのでしょうか。ここの皆様は好きですが、それだけで安易に決めてよいものなのか』


普段の雑務は完璧にこなしている。
洗濯、船内の掃除、三食+αの調理とコックの補助、服の繕いなどなどは非の打ち所がない。が、その目には迷いが見えた。

雑務の合間にナイフと格闘技を混ぜた独特の小夜子の戦いのスタイルの能力向上の為の手合わせや稽古にも身が入っていないように見えた。

「この海賊団が悪逆非道最低最悪の人でなしならすぐ…出ていったのに」

どうしてこうも、気の良い男達しかいないのだろうか。
静かに独り言をそう呟いた時だった、誰かに肩を叩かれた。

「あぁ、サッチ様。如何しましたか?」
「お茶!しないか?ケーキ焼いたんだよ、良かったら一緒に食おうぜ」

頬を伝う汗の雫を手の甲で拭い、小夜子は微笑んだ。

この海賊団の船員達は気のいい男達ばかりだ。海賊や海兵には容赦ないが、一般人に手を上げることはない。陽気で、下品でがさつで口は悪かったりもするが…特段嫌いという人間はいない。これも悩みの種である。

船内に入り食堂に足を運ぶ。
脱いでいたエプロンとカチューシャをつけ直し、アームバンドをぱちんと外して折っていた袖を元に戻してからカフスボタンを袖口につけ直した小夜子。

紅茶の香りがする綺麗な穴の空いた円状のケーキを盆に乗せてサッチがキッチンから持ってくる。それを包丁で切り分けて、フォークを乗せた白い皿に乗せてからたっぷりの生クリームを添えて小夜子の前に差し出す。

それと、レモンスライスを添えたアイスティーが注がれたグラスをストローと共に差し出したサッチ

「まぁ、サッチ様。とても美味しそうです。流石です。」
「ご賞味あれ、お嬢様。」
ぱちりとウインクを決めたサッチは小夜子の前に座ると自分は珈琲を煎れたカップを置いた。

「美味しいです。」
「あぁ、良かった!小夜子ちゃん料理上手だからまじ緊張してたんだ。どんどん食べて、おかわりあるから」

久しぶりに甘いものを食べた。
小夜子の笑みを含んだ優しい表情をサッチは頬杖をつきながら眺めている。

「して…私に話したいことでもおありですか?」
「…察しがいいなぁ、流石」
サッチの言葉を合図かなにかのようにバンッと扉が開き、ぞろぞろとマルコを筆頭に隊長たちが入ってくる。他の船員たちも入り切れていないが扉の外からこちらを眺めている。
そして冒頭に戻る、といったところである。

「…あの、この質問はこんな皆様のご期待に添う答えは私には出せないと思いますが何故このような質問を?」
「いやぁ、単なる興味だ。こんなに野郎集団に囲まれて生活してたら好きな奴の一人や二人はいるんじゃないかな、と。」

………。
周囲の沈黙が続く中、小夜子は黙々とシフォンケーキに生クリームをつけて咀嚼すると一言。

「…マルコ様まで、そんな真剣にこちらを見ているのですか。皆様を止めて下さい。」
「俺も前々から気になってたよぃ。」

マルコの部屋で居候している小夜子。
大抵の女はそんなことしていたらどちらとも言わずベッドで乳繰り合うと言うというのに。
惚れた腫れたの兆しも、好きのすの字もないというのは自惚れとかではなく経験上おかしいと踏んだマルコだった。

「普通は誰か一人位惚れるだろ。こんだけいたら」
「自惚れ、と言う言葉ご存知でしょうか?毎日毎日宴で酒にどんちゃん騒ぎをする中、笑い方や振る舞いや素行の品のなさに私顎が外れそうでございましたよ。今迄皆様が会った女性はさぞ夢見がちな方々だったのでしょう、なんとなく想像できますよ。自惚れは大概にして下さいませ。」

ぺらぺらと噛むことなく話しきった小夜子は微笑むとストローを咥える。
そんな小夜子を本当に顎が外れそうな心地になった白ひげ海賊団一味

「小夜子、お前…もしや」
「なんでしょう。」

「女が…好きなのかよい?!」

寧ろ、男なのでそちらが普通なのだが小夜子は一瞬躊躇った。

『ここは、皆様の夢を壊していけないのでしょうか。でも、皆様…私が男だって気づいてませんよね。』

自分で言うのもあれだが確かに全くと言っていい程、男には見えない。
物心ついた時には睾丸は両方なかったし、大きくなるにつれて身体の線も声も女性に近づいていった。
胸は膨らまないが、筋肉もつきにくい。声は高いし、骨格と残った男性器位しか男性の身体的特徴はない。

「なに!?女同士!?そうなのかよぃ!?」
「あの……いや」

だが、身体改造手術のせいで筋力を含めた身体能力は一般人を遥かに凌駕し、化け物じみていたので大して不便に思ったことはないのだが…この見た目のおかげでよく男から声をかけられる。今もそうだが…。
小夜子は自分に正直に口に出した。


「どちらかと言えば…女性が好きです。男性よりかは女性がいいですかね。入れる者なら女ヶ島は一度見てみたいですよね。とても楽しそうです。」
「お前…そっちの気があったのかよぃ」

「そっちの気というか……」
『異性愛者』で普通だと思うが、なんだかあまりにもマルコが真剣に言うので小夜子は口を噤んでしまった。

「これは誰が得するのでしょうか?誰も私の色恋沙汰など興味「ある!」

苦笑いしかできない、こんなににじり寄られてはサッチ特製紅茶のシフォンケーキとアイスレモンティーで身売りされた気分だ。

随分安いが…それと同じである。小夜子は息が詰まりそうになった。
こんな心地になったのは英国にいた頃、狂った少佐率いる吸血鬼軍団と戦闘になった時に使っていた銃がジャムった時以来である。
あの時は銃を捨てて、違う銃で瞬時に対応したが…此処には変わりの銃はない。

「強いて…言うなら……」
「言うなら?」

ゴクリと生唾を飲む音が一斉に聞こえ、小夜子はポンと手を叩く。

「強いて言うのなら、エドワード様は素敵なお方だと思います。…あの度量の大きさは、落ち着きますね。容姿や体型は年齢と共に劣化は避けられませんのでそこは別に重要視しておりません。」

あ、でも性病持ちは論外ですね。
不特定多数と肉体関係を持つ方はグレーゾーンです。もし万が一、肉体関係を持つのなら床上手に越したことはありませんが性病検査はしておいて欲しいものです。

「独り善がりの自己満足なセックスをするような人間は論外ですよね。なにぶん私、男性経験が豊富とは言えませんので。」

別に嘘は言っていない。
生涯童貞で処女だったのだから。
小夜子はふと脳裏を一人の女性が過った。

『お嬢様…』

「ですので、皆様方…次の島では皆様好みのお嬢様方を存分にお探しくださいませ。私は一介のメイドでございますので」

ですが、くれぐれも性病は持ち込まないように。とにこりと微笑んでそう言う小夜子はやはり凄味がある。優しい微笑みなのだが、こう黒いなにかを感じる。

「他に何かご質問は?」
「…はい!」

「はい、サッチ様。なんでしょうか?」
「じゃあ、小夜子先生!マルコは先生のお眼鏡にかかるでしょうか!」
「なんで俺なんだよい!サッチ!つか先生ってなんだよい!」

「いや、毎日同じ部屋で寝てるのになんにも起きないとかおかしくない?」
「おかしくないよい!」
「マルコ様…ですか。」

皆の視線が小夜子に集まった。
小夜子は小首を傾げて、レモンティーを飲み干すと口を静かに開いた。

「人並みの理性はお持ちのようで安心していますよ。えぇ。」
「…そんだけ?」

「大事なことかと思いましたので。ほらよく言うでしょう?『男は狼』だって…ねぇ?」
にやりと微笑む小夜子に一同身じろぐ。

「まぁ、ここの皆様が無闇に女子供に暴力を振るう輩でなくて安心しましたよ。そんな屑は夜中に寝首を掻かれても文句は言えませんよね。」

その一言はさらに凄味があった。
それは夜這いをかけようものなら殺されても文句は言えない、そう言っているのだ。遠まわしにそう言っている。

「愛と性欲なら性欲が勝ってしまううちはまだまだですよ。男として、ね。…ということを考えるとやはり落ち着いた方が好みですね。今はエドワード様一位ですダントツで。」

………。

「小夜子、お前はオヤジと恋愛するのかよい」
「それは無理じゃありません?エドワード様はお父様のような存在ですからね。それに、相手にされませんよ私など。」

ふぁ、ファザコン!?
オヤジには勝てないと悟った船員達。

「皆様のオヤジ様は素晴らしいです。」
「そりゃそうだ!世界の白ひげだぜ!」
「オヤジ程の大海賊は海賊王位だ!」

結論は『皆、オヤジ大好き』である。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

そして、夜。
ワンピースを脱いだ腹掛けとボクサーパンツ姿の小夜子はマルコの部屋でベッドの上胡座をかいてナイフを磨いていた。
マルコはソファーで足を組み、本を読んでいた。

「マルコ様は恋、したことありますか?」
「……薮から棒になにを」

「いえ、なんとなくです。」
「海賊が一々恋やなんやしてられないよい」

「そうですよね。」
「そういうお前はどうなんだよい」

お互いに顔を見合わせる。
きょとんとした小夜子の顔を見合わせたマルコに少し小首を傾げてまたナイフに視線を戻す。

「…あんな思い、ごめんですよ。」

胸がかき乱される。自分が自分でなくなるあの心地。苦しくて、狂おしい。傍にいるのに遠くに感じる。でもそんな関係すら壊したくなくてなにも言えなかった。

それでも一人になってその人の存在の大きさを感じた。虚無感、生きている心地がしなかった。なにをしても喜びはなかった。

ただ、毎日生きることが苦しかった。
だから自分の全ての務めを果たした後、あの人が眠る墓前で自ら命を絶った。
またひと目でも会いたくて、また何気ない会話がしたくて。

「恋は叶わないくらいが良いですよ。叶ってしまったら面白みもなにもないのですから。遊んでいる時がきっと一番楽しいのでしょうよ。」
「…言葉の重みがすごいよい。」

「色々経験しましたから。」

それでも、自分が人間らしかった一瞬がそこにはあった。だからあの感情は無駄ではなかった。そう、そう思いたい。

「でもまぁ、色恋沙汰も悪くないのでしょうね。私もこちらにいる時は遊んでもいいのかもしれません。」
「…。」

「マルコ様、私次の島で遊びます。」
「え…えっ!?」

「一度きりの人生ですからね。次の島で可愛い女性を探しましょう。えぇ、そうしましょう。」
「いや…まぁ…」

お前のそのツラで、女が釣れたら面白い話だよい。

『後半へ続く』
.

あとがき
後半へ続きます。
久しぶりの更新です。
なにかありましたら拍手ください。
コメントばちこーいです。
そしてメイド様の年齢訂正しました。
見た目年齢18歳です。
よろしくお願い致します。

椿

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