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そのメイド色んな意味で厄介【なんだか下品内容】


「おはようございます、旦那様。お目覚めの時間ですよ。」

白ひげ海賊団の船に最近やってきた色々と謎多きメイド、小夜子は船の主であるエドワード・ニューゲートこと『白ひげ』の寝室にやって来ると部屋のカーテンを開けた。

「なんだぁ…おめぇ、もう起きてたのか」
「はい、おはようございます。アーリーモーニングティーはいかがですか?」

今まで、朝っぱらから彼の部屋にやって来ては本日のアーリーモーニングティーこと爽やかな香りのする温かいレモンフレーバーティーをティーセット一式ワゴンに乗せてやってくる強者もといメイドはいなかった。


『そのメイド色んな意味で厄介』








「なんだ、こいつは…?」
「本日のアーリーモーニングティーのレモンフレーバーティーでございます。今朝のお天気のように晴れ晴れと爽やかな紅茶ですよ。」
そう言って小夜子はベッドから上半身を起こした白ひげにレモンの輪切りを浮かべたカップをソーサー毎手渡した。

「グラララ、確かにいい匂いだが…ちと、俺には小さすぎるな。」
「申し訳ありません、よい大きさのものが見つからなくてそちらでご用意しました。また船員の方に聞いておきます。」

指先でカップの小さな取っ手をとり、一口でそれを飲み干す白ひげに小夜子は申し訳なさそうに頭を下げた。

「この船には慣れたようだな」
「はい、旦那様と皆様のお陰でございます。」

「その『旦那様』ってのはやめてくれねぇか、おれは貴族でもお前の主でもない。」
「お恥ずかしい話ですが…お名前をお伺いしてもよろしゅうございますか?皆様、『オヤジ』様と呼ばれるので名前が分からずでして」

「グラララ、オヤジで構わねぇぜ?この船で時間はともあれ寝食共にするならおれの『家族』だ。」

白ひげはまるで自分に娘が出来たかのように小夜子を温かい目で見ていた。
海賊団は大所帯だが女はナース位しかいないので小夜子は末娘だななんて思っていた程である。

「エドワード・ニューゲートだ。オヤジでもなんでも好きに呼べばいい」
「流石に出会ったばかりでオヤジ様は言い難いのでエドワード様と呼ばせていただきますね。」

「真面目だな、グラララッ」

こんな朝のやりとりを少なからず楽しんでいる白ひげであった。
一方、厨房では小夜子が早朝から煮込んでいる豆のトマトスープがいい具合になっているのをコック達が発見していた。


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小夜子はコックより早く起きて、船員達の朝食の支度をしていた。
オーブンをフルで使い、パンを焼き上げ、米もあったの大鍋で米を炊くと同時に大鍋に大量のミートボール入りの豆のトマトスープを煮込み、そして目玉焼きやベーコン、ソーセージを焼いていた。

「小夜子ちゃん、早いな」
「おはようございます。良いお天気ですね。」

匂いにつられてか広い食堂には徐々に船員達が集まってくる。
小夜子はテーブルに山盛り積んだ焼きたてのパンをいれてバスケットを並べていき、フォークやナイフ、スプーンを既に並べた各席に熱々のスープをいれたスープ皿をコックと手分けして配膳していく。

「おはようございます、マルコ様」
「…小夜子、朝からこの量一人で作ったのかよぃ」

やって来たマルコの為に椅子を引くと彼が座ったと同時にスープ皿をテーブルに置いた。

「私はお手伝いしたに過ぎません。とても良いお台所ですね。パンとライスどちらがよろしゅうございますか?」
「…パン」

なんじゃこりゃ、と言いかけたマルコ。
それもそのはず、昨日から厄介になっている小夜子は昨日の今日でどこからともなく清潔なテーブルクロスを引っ張り出し、台所の勝手を使いこなし、朝早くから大量の朝食を一人で作ったのだ。
これには側にいたコック達も驚いているようだ。
普通は驚く。大衆食堂のようだった場がまるで高級レストランのようじゃないか

「お前は食ったのかよぃ」
「はい、仕込みながら先に頂きましたよ。しかし、皆様の好みが分かりませんので今日は様子見のようなメニューになってしまいました。」

様子見…どこが?
バランスのとれた見た目もいい朝食に見えるが、マルコはスプーンを手にスープを一口掬うと口に運んだ。

「うま…いよぃ」
「それは良うございました。他の方にもお配りしなければなりませんので失礼します。どうぞ、お食事を続けてください。」

パリッと洗濯した昨日着ていたメイド服に身を包んだ小夜子は静かに離れ、他の席の船員達に笑顔で料理を運ぶ。

なんだ、あいつ…?

「なぁ、マルコ?あの可愛こちゃんなんなの?」
「…昨日海で拾って、面倒を見ることになった小夜子だよぃ。」

「そりゃあまぁ…随分使える人材を拾ったもんだな」
「…よぃ」

マルコはこの船でも古株と言えるがあれほど船に来て2日目で馴染んでいる奴は見たことがない。
昨日よりどことなく船内が綺麗で、朝からコックより早く朝食を作り…しかも美味い。
船員達も可愛いメイドに気配りしてもらい、鼻の下が伸びてる奴らが数名。ウケもいいようだ。
しかも、オヤジに朝から寝覚めの一杯的に茶を持っていった奴なんか初めてのことだ。

「何者なの、あの子」
「本人曰く、ただのメイドだよぃ。」

『ただの』がどこまでの意味を持つのかは計り知れないものだが、小夜子は悪い奴じゃないとなんとなく確信を持って言えた。

ただ、やたら仕事効率がよく器用だという事も言えた。

「妹ができたみてぇでなんかいいな。」
「役立たずはごめんだよぃ」
いくら雑用仕事ができても、戦えない奴なら必要はない。
目をかけてやれとオヤジ直々の命令なので戦闘になったら助けてやらないといけないのかとマルコは溜め息をついたのだった…が

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前言撤回である。
チンケな海賊団と戦闘になった。
大した奴らじゃないにしろ、小夜子は一人でマスケット銃を手に相手を全員伸してしまった。

しかも、銃は一発も撃っていない。
足技と関節技だけで伸してしまったのだ。
敵側を全員荒縄でふんじばり、つけていた手袋についたゴミを払っている小夜子

『私にやらせていただけますか?』というので白ひげ海賊団一同、大丈夫か!?と心配していたのだがその心配は杞憂に過ぎなかった。

「おや、この方達を海軍に持っていくとお金が貰えるのですか?良い商売になりますね」
なんて言いながら、船員の一人が持っていた賞金首リストをぱらぱらとめくっていた。

「小夜子、こいつをおめぇ一人でやったのか?」
「はい、少々静かにして頂きました。船が目的地に着いたら海軍に持って行ってお金にしてきますね。」

「グラララッ!そうか。おい、てめぇら。今夜は小夜子の歓迎の宴だ!」
「「「おぉおお!!」」」

白いエプロンが眩しい昼下がりであった。


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日が落ちて、夜になると皆様は私の為にと宴の席を設けて下さいました。
それはそれは盛大なもので、こんなにこの船には人がいたのかと驚いたくらいです。

小夜子は宴の中心である白ひげの隣に座り、手にはオレンジジュースを持っていた。
『海賊が宴好き』という言葉に間違いはなかったようで、皆酒を煽り、楽しそうに笑っている。

「昨日、うちにやって来た小夜子だ。暫くこの船にいることになった可愛い末の妹だ。てめぇら、取って食うんじゃねぇぞ!」
「「「「「おぉおお!」」」」

自分の『妹』ポジションになんとも言えなかった小夜子は取り敢えず笑うことにした。
今更、女じゃない。去勢はしたが男なんですとは言えなかった。メイド服を着た変態と思われるのも嫌だったのでバレるまで黙っていようと一人静かに誓った。

「エドワード様には随分沢山の息子様がいらっしゃるのですね。」
「あぁ、うちは大家族だからな。おれの船に乗った奴はどんな奴でも息子だ。お前だっておれの可愛い娘だ」

「それは嬉しいお言葉です。」

まさか、この世界に迷い込んで自分に『父親』が出来るなんて思いもよらなかった小夜子。
天涯孤独の自分にこんなたくさんの兄達ができたなんてなんだか妙に気恥ずかしい気分である。

「小夜子ちゃん、ジュース足りてる?」
「ほら飯も食えよー!なにがいい?適当に見繕ってやるよ。」

優しい兄達である。が、自分の立場に戻るとそんなに優しい気配りをされると思わず立ち上がってしまう。

「お酌を…。」
「おめぇは気を遣いすぎた。今日はお前が主役だ。座ってろ」

すぐに白ひげに制止されて、膝の上に座らされた。まるで子犬でも掴むようにひょいと襟首を掴まれて大きな白ひげの膝に乗せられる小夜子

「エドワード様……良い席でございますね。」
「グラララッ!見晴らしがいいだろう?」

筋肉がついたがっしりした膝に足をぶらつかせて座る小夜子、内心では叫んでいた。

『な、こんなことって。お嬢様に知られたら笑われてしまう。視線が痛いし、これではなにもできない。』

笑顔の裏では珍しく焦っていた小夜子であった。

「小夜子、お前随分軽いな。もっと飯を食え」
「では…いただきます。」

大きな白パンとチーズを貰うとチーズを膝に置き、もそもそと千切っては食べ咀嚼を黙って繰り返した小夜子
白ひげはそんな小夜子の頭を満足げに撫でる。

『なんだか…飼い犬にでもなった気分ですね。』

「オヤジ、随分気に入ったみたいだよぃ。」
ジョッキ片手にやって来たマルコはそんな小夜子の姿を見て笑った。
近くにやってきて、2人の様子を見るその目はなんだか優しい。

まさに娘を溺愛する父親の姿を見る母親といった感じだろうか。

「小夜子は酒、飲めねぇのかよぃ」
「嗜む程度には飲めますが…なにぶん飲むと性格が変わるから止めろと主人から禁止令が出たくらいで」

「ちょっとならいいじゃないかよぃ、お前の歓迎の席だ。一杯くらい飲んどけ」

この言葉を口にしたマルコが後で後悔することは今は誰も知らなかった。

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「マルコ様のこの髪型はどうなっているのでしょうか?刈り上げて頭部にボリュームを?綺麗な色でございますね、地毛ですか?」
ジョッキを片手に小夜子は完全に出来上がっていた。
ビールを8杯も飲めばそうなるだろうと思うが、顔色はうすらと赤いだけであとは普通だった。
ものすごく饒舌だったが。

「サッチ様の髪はこのリーゼントを解いたら長いのでしょうか?これは後ろ髪を上に?凄いですね。毎日セットが大変でございましょう?」
何故か、やたら髪について話してくる。

最初は酒を飲みながら自己紹介に回っていたのだ。お陰で隊長格の名前と他の船員達の名前は覚えたようだが…何故髪?
髪フェチか?

「イゾウ様は美しい髪をしておりますね?羨ましい限りです。これが東洋の神秘でございますね。実は私も東洋の血が入っていまして…椿油をお使いに?」
「…大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。至って正常運転です。」
「…」

これにはイゾウも沈黙してしまった。
あらかたの船員達の髪を触り、褒めてから落ち着いた小夜子は空いた席に腰を下ろした。
横座りをしてにこにこと微笑んでいる。

「小夜子ちゃん…大丈夫か?」
「至って大丈夫ですよ、サッチ様」
やはり、リーゼント楽しいですね。とツンツンと細い指がサッチのリーゼントを突っついた。

「お嬢様の髪はとても美しいのですよ。」
「へっ、あぁ…仕えてるっていう人のことか」

「はい、お嬢様はそれはそれは美しいブロンドで指通り最高の髪なのですよ。私が毎日、楽しみにしている朝のブラッシングの時間はまさに至福の時でございます。」
「小夜子ちゃんも髪綺麗じゃねぇか」

「私など恐れ多い限りです。滅相も無いです」
小夜子はサッチにそう言って微笑んだ。多分10代後半の少女なのだろうが、どうしてこうも美しいのか。
今まで相手にしてきた娼婦の女達と比べ物にならない。

胸は…小さいが。

「ん?今、私の胸元を見ましたね?サッチ様。」
「へっ、んなっ!、いやぁ〜…」

「如何なものでしょうか、『お兄様』。」
ずいと近寄ってきた小夜子の上目遣いにどきりとした。
清潔なサボンの香り、きっとナース達に借りたのだろう。洗剤かもしれない、ふわりと甘い花の香りが混じる。

「貴方は『妹』をどの目で見ているのですか?いけない方ですね。そんな目で見てはいけませんよ。それともこんな小さな胸で…欲情する程飢えているのですか?」
「なっ…なっ」
「小夜子、それ位にするよぃ…。」

なんでこうも淫靡な空気になっているのだ。
止めなければサッチはどうなっていたのか、考えたくはないとマルコは溜め息をついた。
ほれ見ろ、周りの奴らの開いた口。

「小夜子、オヤジに酒ついでこいよぃ」
「分かりました。では失礼しますね。」

なんだろう、言動的にははっきり意識があるように見えるがありゃ相当酔ってる。
小夜子はしっかりした足取りで最初にいた白ひげの元へ歩いて行った。

「大丈夫かよぃ」
「あ…あざとい!あざとい小悪魔だ!あれはダメだろ!?ギャップあり過ぎて殺傷能力が高すぎる。やば!なんじゃありゃ」

「…一発、トイレで抜いてこいよぃ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「エドワード様」
「おぉ、いい具合に呑まされたな。小夜子」

「抱いてくださいませ」
「グラララッ、よし来た。」

笑顔で手を伸ばすと白ひげは軽々と小夜子を抱き上げて横抱き状態で膝に乗せた。

「この船の方々は皆良い人ばかりですね。これもエドワード様の人望あってこそです。素晴らしい人柄です。」

少し体温が高くなった小夜子の柔らかい頬を指でなぞると気持ちよさそうに目を伏せた。

「小夜子は、家族というものに恵まれなかったので分かりませんでしたが…良いものですね。」
「お前はもうおれの家族だ。」

「そうでした…では、これから厄介になる間は誠心誠意『家族孝行』致しますね。ですから、エドワード様」
「ん…?」

「お酒は程々にしてくださいますように。お身体に障りますゆえ、程々にして長生きしてくださいませ。」

貴方がいないこの船は行き場を無くしてしまいますから、そう言うと静かな吐息をついて眠ってしまった小夜子

「やっと…寝たのかよぃ」
「あぁ、面白いガキじゃねぇか。グラララ」

「面白いというか、酒は呑ますもんじゃないよぃ。危なっかしくてこっちの目が回るよぃ!」
「寝てたら可愛いもんじゃねぇか。こんな物騒なもん持っててもな。」

小夜子のワンピースの中におもむろに指を突っ込み、ナイフを取り出した白ひげ。

「なっ、こいつは一体なんなんだよぃ」
「さぁな。だが、こんなもんを身につけておかなきゃ生きていけないような世界で生きてきたんだろうよ。」

生きる為には器用に効率よく行動しなければならないと色んなものを犠牲にして生きてきたのだろう。

スッと、ナイフを元に戻して腹にくっついて眠る小夜子の髪を指で撫でた白ひげ。

「マルコ」
「なんだよぃ、オヤジ」

「小夜子をベッドに運んでやってくれ。」
「分かったよぃ」

(酒は飲んでも飲まれるな)
.

『はっ、何故私はマルコ様と寝ているのですか!』
『お前の部屋…ねぇんだよぃ。流石に初日物置で寝させちまったから』

『さ…左様でございましたか。』
『あぁ、左様だよぃ』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーあとがきー
実はお酒には弱い小夜子ちゃんでした。笑
オヤジ様がカッコ良いのでついその包容力をアピールさせてしまいました(^^;
オジ様素敵ですわ。はい。
次は海軍出したいなぁ…とか思っています。
一応ですね、時間軸としてはエースが白ひげに入る前辺りの話です。
ので…ジンベエさんとかだそうかしら^o^
次回もよろしくお願いします!
椿

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