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或るメイドの話【白ひげ海賊団】


「おぉーい!大丈夫か?」
「息はしてるな、誰かタオル持ってこい!それからドクター連れてこい!」

なんだか、妙に騒がしい。
一体なにがどう…

ぱちりと音がなりそうなほどに勢いよく目を開けた。最初に視界に入ってきたのは青い空と白い雲、それから大きなマストである。
そして…なんとも一般人離れした屈強な身体をした男達。

いやはや、どうしたものでしょうか。




『或るメイドの話』







私の名前は小夜子、あるお屋敷にお仕えしているハウスメイドでございます。
ハウスメイドと言っても女使用人はおらず、老齢な見かけに騙されてはならない英国紳士な執事と二人で主人であるお嬢様、それにお嬢様の従僕である全身赤づくめのサンタクロース…ではありませんが、吸血鬼の『真祖』、それに元婦警の女吸血鬼様にお仕えしておりました。

私は確か、お屋敷の地下にある図書室の片付けをしていた筈なのですが…何故、船の上にいるのでしょうか。


「おっ、気がついたか。」
「大丈夫か?」
なんともまぁ、柄の悪そうないかにも一般人ではない方々でしょうか。
どうやら、私は海に漂流していたらしく全身ずぶ濡れでこの方達が助けてくださったようです。

人は見かけによらない、とはこの事ですね。
潮臭いフリルのカチューシャを外して、寝ていた身体を起こすと白い大きなバスタオルを肩にかけられました。

…なんでしょうか、この少し時代を感じるファッションは。随分と古臭…いえ、クラシックな装いの方々ですこと。

バスタオルを手に静かに立ち上がり、辺りを見回して驚きました。

海、広くて鮮やかな青の海でございます。
海鳥の鳴き声が頭上高く聞こえ、潮の香りが鼻腔を擽るではないですか。

そして、自分は面白いことに船の上。
大きな客船ではないようですよ、貨物船でも商船でも軍艦でもございません。
あぁ、英国でも有名でしたね。
16世紀後半はまさにそんな時代だったとか。

「おい、嬢ちゃん?」

まさか、こんな面白い形状をした海賊船があるなんて思いもよりませんでしたし
どうして自分がここにいるのかも理解に困ります。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


白ひげ海賊団海賊船『モビー・ディック号』は順調に航路を進んでいた。
船員の一人が波間に漂う人物を見つけたのはただの偶然だったのだろうが、その人物のこれからを大きく示唆するものであった。

「おい、誰か漂ってるぞ?」
「なんだ?死体か?」
「とりあえず、引き上げてみるか?」
眼下には気を失っているであろう人物が板に捕まっている。
とりあえず、白ひげ海賊団の下っ端船員達はすぐ様浮き輪を投げてみた。
近くに落ちた浮き輪はその人物のすぐ隣でぷかりと浮いている。反応はない。

「よし、俺が降りてくる。お前らは引き上げてくれ。」
「分かった。気をつけろよ」

1人の船員が船の縁に足をかけ、海にダイブした。船員は浮き輪に捕まり、そして板切れにしがみついていた人物を片手に抱くと船上に声をかけた。

「おーい、引き上げてくれ!」

片手に軽々と抱ける重さだった。
俯いている状態で顔は分からないが、どうやら女のようだ。
編み込み団子状に纏めた乱れた黒髪、首筋の細さと白さに思わず息を飲み込んでしまった。死んでいるのか?とも一瞬思ったが、手に伝わる感触は温かいので生きている。

掛け声と共に引き上げられると肩に担いでいた人物を横抱きにして、甲板に下ろした。

「うぉ、女だ。」
「どっかの貴族の使用人かなにかか?」

白いフリルのカチューシャにエプロン、白い襟と袖口の黒いワンピースに編み上げブーツ。まさに、『ザ・メイド』の装いをした人物は気を失ってはいたが呼吸は落ち着いているものだった。
貼りついた前髪を避けて見ると長い睫毛に 縁取られた状態だが、その顔は非常に端整な顔立ちをしている。
身体は小柄で随分と華奢に見えたが、張り付いた衣服が扇情的に見えた。

「おぉーい!大丈夫か?」
「息はしてるな、誰かタオル持ってこい!それからドクターを呼んでこい!」

男が少女の肩を叩き、意識を戻そうとすると同時にもう一人は取り敢えず濡れた服をと、バスタオルとそれにドクターを呼びに指示する。
オヤジを呼ぶのは敵か判断してからでいい、多分一般人だろうから。

そんな時だ、少女の目が開いた。
ぱちりと音を立てて開いたかのようにはっきりと開き、大きな黒目がきょろきょろと動いている。

「おっ、気がついたか。」
「大丈夫か?」

声をかけると意識ははっきりしているようで頭につけていたフリルのカチューシャを外して、立ち上がるなり薄らと顔を顰めた。
どうやら潮臭いのが嫌らしい。

急いで帰ってきた船員がバスタオルを少女の肩からかけてやるとバスタオルを手に甲板の縁へゆっくりと近づいて辺りを見回している。

「おい、嬢ちゃん?」
声をかけてやると彼女は何かを理解したように微笑んだ。綺麗な笑みである。

「すみません、ここはどこでしょうか?」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

澄んだ、高めの落ち着いた声が綺麗に言葉を発音するのを聞き遂げて周囲にいた船員達は口を開いた。

「ここは、白ひげ海賊団の船の上だ。」
「お嬢ちゃん、海を漂流してたんだぜ?大丈夫か?」

『白ひげ海賊団』という聞き慣れない単語に頭上に?が浮かぶ小夜子は頭をフル回転させた。

自分の知っている限りの知識上、初めて聞く海賊集団の名だ。
確かに海賊行為をする野蛮な輩はまだ少なからず存在するが、こんなにも古典的な船には乗ってはいないだろう。

否、古典的だが造りはしっかりとしているし、巨大な船だ。船首のあの白い物体は鯨?
あぁ、だからモビーディックか。と小夜子は1人頷きながら髪をこれ以上乱れないよう拭い、腰で縛っていたエプロンの腰紐を解き、腕と頭を抜いて絞る。

「こちらは海賊船でしたか。」
「あぁ…というか、白ひげを知らないって凄い世間知らずだな、嬢ちゃん。」

「知識不足で申し訳ありません。」
どうやらここは外国のようだと小夜子は理解した。だが、自分の普段使っている英国訛りの英語が理解されているとすると英語圏の場所なのだと分かる。

「これはなんの騒ぎだよぃ」
「マルコ隊長!」

なんだか、新しい人が現れた。と小夜子は後ろを振り返ると気だるそうな顔をしたパイナップルの葉のような特殊な髪型をした男と目があった。

紫のシャツはボタンをしておらず、鍛え抜かれた身体には十字と三日月を合わせたような刺青をいれていた。
青の腰布に七分袖のズボン、グラディエーターサンダルと今風なのかよく分からない格好をしていて、小夜子は自分がなんだかまともな格好をしているように見えた。

「お騒がせして申し訳ありません。私、小夜子と申します。この度は危ないところを助けて頂いたようで誠にありがとうございます。」
「…随分と落ち着いた女だよぃ。」

「なにぶん、海賊船に乗るのは初めてなものですからどう対処すれば良いのか分からないもので。」
「まぁ、喚かれるよりましだよぃ」

変わった語尾だとか、思ったが口には出さなかった。ここは海上、それに陸地は全く見えない。今放り出されても困るのは自分である。

「貴方がこちらの船長様で?」
「いや、違うよぃ。」

「では、船長様はどちらにいらっしゃいますか?少しお話がしたいのですが…勿論、妙な真似をしようなどとは思っておりません。」

今は愛用のベレッタやトンプソンを持っているわけもなく、武器といえば両太腿につけたホルスターにファイティングナイフが二本と、ポケットに万年筆のような外見のペンナイフがあるだけで、この数の屈強な肉体をした男達を相手にするのは骨が折れると考えた小夜子

冷静に判断した結果、とりあえずは次の目的地まで同行させて欲しいということだ。
連絡手段をまずは見つけなければならない。

「私は主人の元へ戻らなければなりません」
「お前…本当にメイドなのかよぃ」

「はい。ただの使用人でございます。」
「分かった…オヤジの所へ案内するよぃ」

「感謝いたします。…お名前をお伺いしても?」
「…マルコだよぃ。」

ーーーーーーーーーーーーーーーー


いやはや、大きな船です。
こんな大きな船は昔、海軍の戦艦に忍び込んだ時以来でございます。
あの時は本当に苦労しました。なにせ、海軍将校の愛娘とすり替わり、情報を聞き出さなければならない上に『年相応の子供』を演じなければならなかったから息苦しかったです。

マルコ様と名乗ったこの海賊でも幹部らしき方の後ろを歩きながら稀有な目で見てくる他の船員達に笑顔で頭を下げるのも疲れて参りました。
一体どれだけの大所帯なのでしょうか。

「オヤジ、入るよぃ」
目的の船室についたようで扉を軽くノックしてから扉を開けるマルコ様の後ろをついていくとそこはとても広い船室でございました。
豪華な造りの船長室らしき部屋に入る時、自分の生乾きの衣服の感触に嫌気がさしました。

まだ少々湿っておりますが、船長の方に合うのですから身分がはっきり分かる方がいいとエプロンをつけ、カチューシャをつけ直したのが間違いだったのでしょうか。
やはり潮臭い上にまだ冷たいです。

内装の豪華さより、自分の服の潮臭さの方が気になる小夜子の腕をぐいと取り、前へ引っ張り出したマルコ

「オヤジ、漂流者だよぃ」
「ほぉ、こりゃまた随分ちっこいのを拾ったな。グラララ」
小夜子は思わず口に出してしまいそうな言葉をぐっと飲み込んだ。

『なんて、大きな方でしょう。』
同じ人間とは思えなかった。それ程までに眼前の男と自分の体格の差がある。
頭に黒いバンダナを巻いた年配の男は鼻に三日月のような白い髭を蓄えており、年は自分の上司である執事より上に見えるが白い上着を羽織っただけの見事な上半身の衰えを見させぬ筋肉に小夜子は自然と頭を深々と下げた。

「お初にお目にかかります。小夜子と申します。この度は危ないところをこちらの船員の方々に拾って頂きまして、ありがとうございます。」
「グラララ、礼ならあいつらに言ってやってくれ。それにしてもここらでシケは最近なかったがどうして海を彷徨ってたわけだ?」

「私にも…よく分からない状況でして。目が覚めたらこの船上におりました。」
「ほぉ…」


なんとなく、直感ではあったが彼になら少し事情を話してみてもいいと思った。
小夜子は白ひげを真っ直ぐと見つめ、口を開いた。

「得体の知れない人間だとは思いますが…私、この世界の人間ではありません。英国にあるヘルシング家当主にお仕えしているメイドで…どういったわけか『こちらの世界』に迷い込んでしまったようなのです。」
「エイコク?聞いたことがねぇな…ヘルシング?そいつは名前だな。マルコ、知ってるか?」
「聞いたことがないよぃ。」

まず、違う世界ということを理解したのは船内をマルコの後ろについて歩いていた時だった。
船員が持っていた銃、それは現代の銃に比べると随分アンティークな代物であったこと。
紛れもなくそれはフリントロック式ピストルで飾り物ではなく実用的な武器としているようだった。
フリントロック式ピストルは18世紀頃使われていた銃で、現代それを敵と交戦する際使っていたらまず笑われるだろう。
どれだけ国が違えどどの国も自動式拳銃なりを使っているのだ。

それに大きなカタツムリ。
それの殻側面にはダイヤルがあり、それを回して、殻頭部の受話器で話をするのだ。
声は面白いことにカタツムリが話し、表情もまた豊かに変わる。あんな面白い『電話』は自分の世界にはない。
電化製品なのか生き物なのか分からない物体。

「異世界にトリップしてきた、と言えば良いのでしょうか。なにぶん、私も初めての経験なのでよく理解していないのですが…」
「あぁ、おれもよく理解していない。グラララ」

「私、お仕えしている主人の元へ帰らなければなりません。どうか、ご助力願えませんでしょうか。勿論、ここでご厄介になる間は邪魔にならぬようお手伝いします。」
「グラララ、おもしれぇ。好きにいるといい。マルコ、目かけてやれ」
「!?本気かい?オヤジ!」

「お前、こいつが嘘をついてるように見えるか?」
「…いや、全く。」

「こんな真っ直ぐとした良い目してやがる娘っ子、海に放り出すなんてできるか?これも何かの縁じゃねぇか、なぁ」

小夜子は嬉しそうに微笑むと頭を下げた。

「お心の広い方で安心しました。海賊船とお伺いしたものですから少々荒っぽいことをしてお願いを聞いていただくことになるかと不安だったのですが…」
「グラララッ!可愛い顔してよく言うじゃねぇか。」

「ヘルシング家のメイドたる者、いかなる危機をも乗り越えられなければ失格ですから。」
娘っ子、娘っ子と言っているところを『実は男なんです。(去勢済みですが)』と言いたかったがまぁ、今は笑っておこうと悟った小夜子であった。

『これから暫くご厄介になります。』
.
(これは或る1人のメイドのおはなし)

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーあとがきー
お久しぶりです、椿です。
今回新たに新シリーズを書いてしまいました。しかも…まさかのトリップです。
そして某吸血鬼漫画の世界からやってきた女装メイド?のトリップものですorz

趣味満載で始まってしまいました。
今、ひっそりとこのメイド君が出てくる話を書いているのですが…なんとなくよそ様のトリップ夢とか読んでるうちに触発されました(^^;;
設定はおいおい、色々謎多き子ですがお付き合い頂けたらなと思います。
また設定画UPしたいと思います。
あ、一応逆ハー的なものにしようかと思います。なるべく色んなキャラをでしていく予定ですが今のところは白ひげ寄りで!
女の子ではありません!どちらかと言えば男の娘!女装男子な去勢済みの中性主なので気に入った方は続きをお楽しみに^o^

それでは失礼します。
椿

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