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悪徳の都【後半微裏/ドフラミンゴ夢?/オリキャラ登場注意】



自分のやるべきことが分からなくなる。
自分が欲望に塗れてどうしようもなく汚い畜生になってしまったように感じてしまう。

この聖地の名と裏腹なこの都で
今日も笑うのだ。



『悪徳の都』









「も、申し訳ございません!奥方様!!」

フジは自分の部屋を掃除しに来たメイドに視線を向けた。
着替えをしている途中のことだ。


メイドは掃除している最中、フジの部屋に置いてあったクリスタルの花瓶をひっくり返し、割ってしまったのだ。
床に傷をつけた花瓶は無残に割れ、薔薇が散乱している。
メイドは顔色を青くして、震えながら床に頭をつけた。

他の世界貴族であればどう処罰するか、その残酷な絵図を見てきたからである。

「どうか…っどうか、お許しを。」
割れたクリスタルの破片が手に突き刺さる痛みすら無我夢中に頭を下げるメイドにフジは帯の締め具合を確かめてから衝立からでて、近づいた。

そしてしゃがむとメイドの手を取り、声をかける。
「嫁入り前の若い娘さんが…こんなことしてはいけませんよ。ほら、破片がこんな」
「お…おやめ下さい!奥方様!怪我をなさっては旦那様方から…っ」

フジの男性にしては品やかな細い指がメイドの掌に刺さった破片を抜いていく。
血が滲んだ掌を優しく自分の手で包み、立ち上がる。

「すぐに手当てを、それから片付けをしましょう。ここにある調度品は私のものである前に旦那様のもの…」
「も、申し訳ありません。」

「…私が『うっかり』落として壊してしまった。貴女はその片付けをしている最中、怪我をしてしまった。そう言いなさい。分かりましたね。」
「ですが、奥方様が…っ」

「旦那様は私に寛容でらっしゃる故、多少の粗相には目をつむって頂けます…が、使用人に対して容赦はありません。貴女も、過言でない処罰をうけることになるでしょう。」

それはあまりにも心が痛い
フジはそう言うと扉に近づいて小さく開けると見張りの兵に声をかける。

「すみません、うっかり花瓶を割ってしまったので片付けをお願いできますか?それとメイドが片付けの途中怪我をしてしまったので手当てを」
「分かりました!」

フジは壁に掛けていた羽織を手に取ると部屋を出た。

「では…後はお願いします。」

着物と同じ濃紺の羽織を着たその後ろ姿には見事なまでに美しい薄紫色の藤の花が咲いていた。

背筋を伸ばし、歩くその姿は凛として清廉としている。
豪華に飾り付けた訳ではないのに花があるのだ。

「全く奥方様は優しいお方だ。…本当はお前がやったんだろう?命を救われたな。」
「はい…本当に…っ。」

あの方はとても優しい。
それは自身、悲しみも苦しみも、痛みも知っているから。
奴隷だろうが、兵や使用人だろうが分け隔てなく救いの手を差し伸べてくれる。

「俺達は奥方様に仕えられて幸せだ。」

フジに仕える使用人達は思うのだ。
あの方のために尽くそう、と。










フジは朝から旦那であるチャルロス聖に呼ばれていた。
ドフラミンゴと交流しだしてからやけに大人しいとは思っていたのだが突然部屋に来るように呼ばれたのが不安でしかない。

首に嵌めた首輪のズレを直し、チャルロス聖の部屋の前で深呼吸をしてからノックをした。

「旦那様、フジにございます。」
『…入るえ』

返事があったことを確かめて扉を開けるとフジは鼻腔を刺激する匂いに顔を顰めた。
濃い、性交の独特の臭いである。
朝から盛っているのかとフジは眉間に寄せた皺を気づかれないように両手で扉を閉めた。

「旦那様、如何いたしましたか…?」
フジは眼前の悍ましい、まるで獣のように美しい女奴隷の腰を後ろから鷲掴み、腰を振るチャルロス聖に目を背けたくなる衝動を抑えて微笑んだ。

パン パンッと腰を打ち付ける音を聞きながらフジは扉の前で立ち尽くしているとチャルロス聖が口を開く。

「フジ、…あの男とはどうなんだえ」
「…それは、ドフラミンゴ様の事でしょうか」

この瞬間にそれを聞くのかとも思ったがフジは袖を握りしめ、返答した。

「旦那様以上の方は…この世界何処を探してもおりませぬかと。ドフラミンゴ様は当家においても何かと利益がある、利用価値ある方かと思います。」

此処で言わなければならないことは、この人の立場を持ち上げること。
機嫌を損なわないようにフジは口にする言葉を選んでいく。

「なら、いいえ…下がるえ」
「はい、では失礼致します。」

何が聞きたかったのか。
フジは頭を下げて踵を返し、扉に手をかけた。


800年前、20の国から20人の王達が世界の中心に集い、一つの巨大組織を作り上げた。
それが世界政府。
20人の王とその家族…正式には19の王とその家族らしい。それらは聖地に移り住み、現在も『創造主』として世界の頂点に君臨している。

絶対的な権力を以って。

この世界を作った人々はこんなにも歪んだ世界を想像したのだろうか。
権力者は人々をより良い方向へ導く存在ではないのか。
少なくともワノ国の将軍様はそうだった。

こんな理不尽な世界あっていいのか。
皆が幸せに、などと矛盾した言葉を口にしたくはないが誰だって幸せになる権利はあるはずだ。

奴隷などあってはならない。
どんな作業にも働きにもそれに見合う代価を支払うべきなのだ。

バタンッ

扉を後ろ手で閉め、フジは目を閉じた。扉越しに聞こえる女の悲痛な喘ぎ声を聞きたくなくて、すぐ目を開けて歩き出す。

チャルロス聖の囲う女達を解放した。
殆どが一般人だったので皆それは喜んでいた。それはそうだ、無理やりこちらに連れて来られたのだから。
皆、涙を流しながら感謝していた。

その代わり…奴隷にされた若い女達が犠牲になるのは心痛む。
何とかしたいがどうしたものか。
奴隷と呼ばれる人々は何百人何千人といる。
目先の救いを求める人々をいくら助けたところで…あの欲深い男に敵う者はいない。

根本的な問題をなんとかしなければ意味がない。
ドフラミンゴは自分を利用しようとしているようだが、そうはいくものか。
こちらが逆に利用してやる。


「さぁ、会いに行きましょうか。」

ーーーーーーーーーーーーーーー


一方、ローは新世界を目前にとある島へと訪れていた。
島と言っても人口は一人、若しくは二人。
小さな酒場が一軒だけあるほぼ無人島の島である。

海賊船である潜水艦を島の影に停めるとロー達は酒場へ入った。

カラーンッ カラン

ドアベルが鳴ると薄暗いバーのカウンターでは椅子に座った一人の中年男が眠りこけている。
男の禿げかけた頭にローは長刀の先を鞘越しに小突いた。

「おい、起きろ」

他のクルー達は店の席に座ったり、壁にもたれたりして船長の指示を待つ中でローは男を文字通り叩き起こした。

「っあ!!起きた!起きたから小突くんじゃねぇ!」
男は起き上がるとでっぷりとした腹をシャツ越しに掻きながらカウンターの中へと入った。

「で、お前さん…俺を叩き起こしたには理由があんだろうな?」
「後ろの奴らに酒と料理を。…それから、『あの女』に用がある。いるんだろ?」

「『レディー』か?あいつはここ最近見てない。なんせ売れっ子だからよ。どこらでも駆け回ってる」
「電伝虫の番号、お前なら知ってるんじゃないのか?ここの店主だろうが」

店主とローが言った男は頭を掻くとため息混じりにカウンター下から電伝虫を取り出した。

電伝虫の首には赤いリボンに赤い椿の花。
メスのようで受話器を店主が持つと長い睫毛が特徴的な大きな目が開いた。

ダイヤルを回し、待つこと数秒。
ガチャリと電伝虫の口が開く。

『ハロー、ハンプティ。貴方が私に連絡を寄越したってことは仕事ね』
「ハロー、カメリア。あぁそうだ。とびきり若い色男からの依頼だぞ。なんたって、あの噂のハートの海賊団船長…トラファルガー・ローだ。」

電伝虫はにやりと笑うと声の主の如き表情で口を開く。

『まぁ…それは素敵。せっかちな若僧に興味はないけどすぐホームするわね。そう…早くて三日。その間、歓迎しておいてちょうだいな。』
「あぁ分かったよ。とっておきのラムを出しておく。」

『ハートの坊や、話は聞いたわね。三日後島に帰るから待っていなさい。』
「あぁ…さっさとしろ。」

ローが不機嫌そうに低くそう言うと声の主はははっと笑った。

『善処するわ。』

電伝虫はそれを最後に切れると店主は受話器を直し、電伝虫をカウンターに置いた。

「てなわけだ。ようこそ、『レディー・カメリア』の島へ。歓迎するよ」

カウンターの棚を漁る男を横目に隣に寄ってきたシャチとペンギンがローに話しかけた。

「船長、レディー・カメリアって」
「一体何者なんで?」

ローは考えると口を開いた。

「詳しい素性は知らないが諜報のプロだ。なんだってする女と話に聞いてる。『ジョーカー』と関わりを持つ女で、世界政府にも口利きがある」

ローの目の前にラム酒のボトルがドンと置かれ、店主の男は苦笑いしながらまた棚をあさる。

「あの人はおっかねぇぞ、なんたって百の顔を持つ女だからな。俺が見てる顔だって素顔じゃないし、あんたが見たことのある顔だって誰かの顔だろうさ」

変装のプロ。店主はそう言うとミックスナッツの缶を開けて小皿に移すと酒のボトルの隣に置き、ローに差し出した。

「だが、レディーは必ず依頼主の依頼を遂行させる。その腕前は世界政府にも買われてるぐらい上質、ピカイチだろうよ」
「……おい。」

「ん?なんだ。」
「俺はラムは嫌いだ。」













ーーーーーーーーーーーーーーーーー

ドフラミンゴはなにかとフジに贈り物を届けてきた。
大抵は洋服やジュエリーで、それも女物である。
表向き、『女』ということもあるので公のパーティーなどで女物のドレスを装う時もあるがいくら経っても慣れることはない。

目の前に差し出された白い長方形の箱をフジはじっと見下ろす。
臙脂色のリボンを指で摘み、ほどいて箱を開けた。

「…飽きない人ですね。」

ドフラミンゴからのプレゼントは黒のハイネックのドレスだった。
ノースリーブのタイトなドレスは大きく背中が開いており、光の加減で上質な生地はキラキラと輝く。

箱の中には白いカメリアの花が上品なパールの二連のネックレスと、黒のハイヒールが入っている。

ご丁寧な話ではないか。
これを着て会いにこい、そう言われているようで笑ってしまった。

女の格好をして、女の振りをして
天竜人だけではもの足りず、他の男に抱かれに足を運ぶのだ。他者はどう思うだろう。

淫乱だと嗤うの、だろうか。
夫の囲う女をマリージョアから追放し
いつまで経っても世継ぎも孕めず
贅沢と男三昧な強欲な悪女だと嗤うのだろうか。

「…っ」
フジは胸に抱いたドレスを握りしめ、唇を噛み締めた。

それでいい、それで。
嫌なこと全部に蓋をして楽しめばいい。
あの男がせせら笑うのが視えた気がした。

フジは帯紐を外し、帯を緩めた。
しゅるりと擦れる音を経てながらそれらを脱いでいく。全てを脱ぎ終えてからドレスのファスナーを下ろして、身に纏う。
後ろ髪を邪魔にならないように前へやり、後ろ手でファスナーを器用に上げた。

張り付くようにぴたりとしたドレスはサイズを測ったかのように正確で素肌にあたる感触が心地いい。
足袋を脱いで、用意されていたストッキングに足を通してからパンプスを履く。

首からネックレスをつけてから、後ろ髪をフジは慣れた動作で夜会巻きのように纏める。
ふと、鏡台に置いてあった簪に目がいく。

藤の花簪
ローがフジに買い与えたものであるそれを、フジは手に取ると胸に抱いて目を閉じた。

ロー様
僕は汚い男だ。
弱くて狡くて、今まで目を背けながら生きてきました。
だからこそ、僕は貴方に惹かれていったのでしょう。

貴方が羨ましかった。
真っ直ぐと先を見据える貴方がとても美しいと思ったのです。
そして自分の意思で堂々と歩いていく貴方について行きたい、共にいたいと心の底から思ったのです。
叶わないと知りながらも、貴方に惹かれてしまった。

『馬鹿だなぁ…』

ぽた ぽたと涙が簪に落ちたのをフジは只々握りしめた。

『色んな人を巻き込んで…迷惑をかけて…傷つけて』

もう誰も傷つけたくない。
なら一人でいい。
誰にも近寄りたくない。

誰も好きになんてなりたくない。
傷つける位なら
愛なんてもの知りたくもない。

至極閉鎖的な思考だと我ながらに思う。
けれど考えられないのだ。
自分がローの傍にいるということが想像できないのが現状だと痛いほど理解している

フジは流れた涙を拭い、鏡を見た自分を見て笑いそうになった。
魂の抜け殻のような酷い顔だと滑稽に思えたからだ。

段々と何かが壊れていく。
自分が自分ではなくなる。
否、とっくに自分は壊れているのかもしれない。
あの日から全てがとっくに



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



三日後、ハートの海賊団一行はラム酒とナッツに飽き飽きしながらもバーに入り浸りをしていたが…今はローだけがバーでその人を待っていた。

船員達は食糧や物資の調達に近くの島へと行ったついでにたまりに溜まったあらゆる欲求をハメを外さない程度に解消してくるのだろう。

ローが足を組み直したその時だった。
扉が開いたのだ。


「あらあら、此処は酒と堕落の匂いがするわね。いつ来ても…ハンプティ、私の香を炊いてちょうだい。その前に換気よ、窓を開けて。」

店に入って来たのは若い女だった。といっても30代前半位だろうか。いやもしかしたら20代後半かもしれない。
大きな黒いサングラスをかけた小さな顔はよく分からないが美人な香りがする。

黒髪のショートの巻かれた髪、赤いルージュ、白い肌がなんとも妖艶に見えた。

首に巻いた長いリボンが歩くたびに揺らめいている。ノースリーブのタイトなストラップロングワンピースの真紅色が実に美しく、布地にはカメリアの刺繍が細やかに施されていてそれが実に似合っている。

T字型のストラップハイヒールを床にコツコツと鳴らしながらローの正面の椅子に足組して座った。

「13番の香がいいわね。少しばかり男臭いわ。」
「あいよ、レディー」

ハンプティは答えるとカウンターから出て、店の閉め切った窓を全て開け放つと棚から銀色の皿と三角錐型の黄土色の香を取り、準備にかかる。

それを、横目に女は笑った。

「貴方がトラファルガー・ローね。」
「あぁ、欲しい情報がある。」

「貴方がお熱を上げてたっていう…『彼』のことでしょう?調べてあげたわよ。」
「…やけに仕事が早いな。」

カメリアは机に両肘をつき、手の甲に顎を乗せる。

「長年裏で伊達に暗躍してるわけじゃあないのよ、坊ちゃん。」

彼女はつらつらと言葉をまるで台詞かなにかのように話出した。

「寵姫という存在は嘘と偽りに塗り固められた存在だわ。名前だって、貴方が知っているだろう名前は愛称に過ぎないのよ。
本名は“フジノスケ”、年は18、13の時に天竜人ロズワード聖一家の子息、チャルロス聖の正妻として偽装結婚をさせられる…とその時に実父と仲間の大半を失った。」

あぁ、文面に残さないから頭にいれなさい。このくらいは覚えられるでしょうとカメリアは言うと話は続ける。

「それからは長くなるからとりあえず…一本吸わせてちょうだい。」
カメリアはハンプティに目配せをすると煙草とジッポ、灰皿をいそいそと持ってきた彼にもらった煙草を口に咥え、先端に火をつけさせた。

慣れた仕草で白煙を上に吐き出すとカメリアは一息つき、口を開いた。

「でもね、妙なのよ。」
「妙?」

「寵姫を縛るものが爆弾付きの特注首輪だとしてもそんなもの天竜人一家が保管している鍵を盗めば逃げられるでしょう?何故、寵姫はそれをしないの」
「仲間が人質にされてるって言ってた。あいつが言うにはな。」

「…仲間?」
「あぁ、女子供と親友を人質にとられてたって」

カメリアはサングラス越しにも分かる眉間にシワを寄せ、煙草の煙を指で燻らせた。

「私が知ってる真実と異なるわ。」
「どういうことだ」

「寵姫の仲間は全員、とっくの昔に死んでる筈よ。五年前に大半は銃殺された、女子供は今現在ロズワード聖のコレクションルームで剥製になって壁に飾られてる。」
「っ!?…じゃあ、あの男はどうなんだ?生き残りの男に最近俺はあいつと会ってる。」

「…調べてあげるわ。少し時間をちょうだい。」
カメリアは煙草を咥えながら、服のポケットから手帳を取り出すなり、ペンで綴り始めた。

「名前は分かる?」
「サクとあいつは呼んでたが本名かどうかは分からない。偽名の可能性は高い。」

「十分よ。分かったらすぐ連絡する。私は知り合いをあたってみるわ。マリージョアには知り合いがちょっとばかしいるから。」
「あぁ。」

カメリアは煙草を灰皿に押し付けると椅子から立ち、カウンター越しにメモをハンプティに渡すと出口に歩み始めた。

「ねぇ、ハートの坊や。」
「なんだ。」

「この店の金庫に寵姫に関する資料がある。ハンプティに開けてもらって勝手に見ておくといいわ。見たらその資料は燃やしなさい。」
「なんであいつの資料が保管されてる?あんたの金庫に」

「五年前、面白半分に調べてみたの。後世に遺したいと思ったのよ。…寵姫と呼ばれた世界で一番美しい男の悲劇を」

彼女はふと悲しげに微笑んで見せた。
薄くつり上がった形のいい唇の赤いルージュの色がやけに鮮明に見えた気がした。

「あぁ…寵姫についてもう一つ。」
「?」

「あの人、一体何をしようとしているのかしらね。旦那の愛人達を解放し、自分はドフラミンゴの愛人になった。半分はドフラミンゴが退屈凌ぎに遊んでいるのでしょうけど…何を企んでいるのか。」
「…ドフラミンゴから俺に連絡は来ていない。」

「騙されているんじゃない?良いように使われているのでは?悪いことは言わないわ…彼とは手を切ることね。」

あの男は危険すぎる。
カメリアはサングラス越しにローを見た。

「手に入るもんが入れば手は切る。」
「トラファルガー・ローともあろう海賊が何故そこまで執着するの?その執着が…貴方の足枷にならないよう祈るとするわ」

カメリアはローに背を向けて扉へと歩き出した。決して振り返ることはない。
その細い背中を見つめながら、ローは足を組み直した。

「見極めなさいな、何が嘘で、何が真実なのか」

バタン

扉が閉まるとカウンターから出て来た主人は一つの鍵をローに手渡した。それは赤いカメリアの花のキーホルダーがついているものだった。

「書庫の鍵だ。入り口はあんたの真下…絨毯の下だ」
男の言葉にローはすぐ様椅子から飛び降り、そして机を脇に絨毯を捲った。

そこにあったのは貯蔵庫の扉のように見えた。中を開けると暗闇に石段が続いている。

「灯りをくれ」


ーーーーーーーーーーーーーーーー

















フジはドフラミンゴと対峙するように立っていた。

「アホらしくなるくらい別嬪だな、あんた。」

コツ、コツと靴音を鳴らしながら窓辺に座るドフラミンゴに近づくフジ
ドフラミンゴから与えられた衣服に身を纏った姿はドフラミンゴが侍らしてきたどの女達より美しく見えた。

「貴方にお聞きしたい事があります。」
「ん?…なんだ。」

「ロー様が今何をしているのかご存知ですか」
「気になるのか?」
フジはドフラミンゴのすぐ側まで近づくと向き合い、口を開いた。

「もう…あの方とは縁を切りたいのです。貴方とロー様が繋がっているのならその縁…切って頂けませぬか」

本音を晒してはならない。
フジは薄く微笑んだ。

「本音はなんだ、お姫様?そんな簡単に切っちまうのか?」
「これが本音です。もう…飽き飽きなんですよ。恋だの愛だの自由だの」

総てがどうだっていい。
フジの目はドフラミンゴを真っ直ぐと見つめた。

「もう総てがどうでも良くなったのですよ」

その顔は薄暗いものだった。
今までのフジの儚げな雰囲気が一瞬にして別人のように変わってしまったようだった。

「旦那様の囲っていた女達を解放しました。一部の人間はよく思っていないそうですが…私をここに縛りつけたいのであればそれくらい当然だと思います」
「これはまた随分思いきったな…フッフッフ」

何がおかしいのかドフラミンゴはいつもの不気味な笑みを浮かべて手招きをする。
フジは手招き通り、ドフラミンゴに近づく。
手首を掴まれ、膝の上に軽々と横抱きされて背中に手を回された。

「だって…邪魔でしょう。それに、旦那様なら他所で沢山遊んでいますから結果的に変わりありません。」

フジは背中に回された手とは逆、ドフラミンゴの手を取り、彼の大きな手を指先でなぞる。

「貴方のお陰で毎夜の夜伽も回数が減りましたよ。それは感謝しなければ」
「なんだ?欲求不満か?」

「ご冗談を…寧ろ貴方との逢瀬のお陰で痩せましたよ。」

ドフラミンゴの手を引き続き、指でなぞりながら、くすりと笑うフジから手を引き離してフジの後頭部に手を回して口付けた。

触れるだけではない、舌が口内を生き物のように這いずりながら互いの唾液が絡まる口付けにお互い慣れたように交わし合う。

「んっ…っふ……は」
口付けの合間に漏れた艶めいた吐息に気を良くしたドフラミンゴは腰に回していた手を臀部へと這わしていく。
男にしては柔らかい肉付きの良い臀部を布地越しにその感触を確かめるように触れる。

「っ…は。欲求不満は、貴方の方では?」
「フッフッフ…俺も男だからな、誘われたら乗ってやるよ。」

「誘って、なんか」
「今更だな」

そう、総てが今更なのだ。
フジはドフラミンゴの腰に手を回して頬を寄せた。
筋肉質な固い腰周りの感触を確かめるように、上書きするように触れた。

違う、これじゃない。
いや違う…これで良い。
これで良いのだ。これで。

フジは怖いくらいに美しい笑みをドフラミンゴに向けた。

「飽きるまで貴方のお側において下さいませ。ドフラミンゴ様」

此処は悪徳の都
真実と嘘を塗り固めた美しい場所。
(さぁ、蓋をしようか。)
.
『奥底に秘めた心を盗まれぬように』

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