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とある冬の出来事(アンケート一位、青雉甘夢)





寒い…あぁ、寒い
何でこんなに寒いんだ。
そして何で俺はこんな場所で一人なんだ。
あなたが誘ったんでしょうが
『休み取れたから食事でも…行く?』なんて、普通の付き合い始めの男女のベタなデートを持ちかけるから
食事なら別に男同士でも、まぁ『あぁ、上司と部下なのね』位にしか周りも気にしないだろうから?承諾したのにさ…おい、二時間待たせるたぁどういうことだ?
舐めてるのか?

暇潰しに吸った煙草の吸い終わりが携帯灰皿に溜まり溜まってもう入らない。

白い息を吐き出しながら、それが消えていく様をぼーっと見てるしかなかった。















『とある冬の出来事』
















右手首に巻いた腕時計をたまに見ながら街中を見渡す。
大きな時計台があるこの広場はマリンフォードの街ではよく待ち合わせに使われている
今も自分の他に老若男女問わずに数人の人々が待ちぼうけを食らっているのが見えるが…自分よりはるかに待ちぼうけ時間は短いだろう

傘に積もった雪をたまに払いながら、自分が苛立ちを感じていることに気付く。

『あほらしい…』

自分が馬鹿に見えてきた
デートと言われ、普段力をいれないところを頑張ったというのに…相手はまだこない

濃紺のダブルボタンのショート丈のコートに黒革の手袋、ブルーベースのチェックのマフラーを巻いて、下はグレーのジャケットに紺のシャツ、グレーのうすらピンクの入ったチェックのスラックスと固くない、かといってカジュアル過ぎないこの服装は、二日前に部下の中で紅一点のスーに付き合って貰って一緒に選んだ

そして眼鏡ももう一本、プライベート用に新しいのを買った
ごつめの黒縁眼鏡は内側にお洒落な柄が入っている

前髪を留めたピンも外したし、髪もいつもよりかは綺麗にゴムで束ねた。朝からシャワーも浴びた。

自分は彼氏?とデートするのは…というか、女ともデートなどしたことないので何をどうすれば良いのか分からなかったから取り合えず、努力はしたのだ。

なのに、この有り様はどうだ?まるで道化じゃないか
自分は性格的に確かに神経質ではあるが流石にこれだけこの寒い最中待たされればどんな温厚な人物も苛立つに決まってる


『あぁ…珈琲飲みたいな。でも、離れたらすれ違うかもしれないし』

ただ、待つしかなかった。
ふと自分の隣に若い女が立っているのが横目に見えた

『この人も待ち合わせか…えらい待たされてるな』

周りの待ち合わせをしている人達は相手が程無く来て、立ち去っていくのに対してこの人は大分ここにいるのではないか

グレンは白い吐息を吐くとちらりと隣を見た

小柄な女性だ
ふわりと巻いた茶髪のセミロングにくりっとした目が可愛らしい顔立ちをしている
首もとにファーがついた白いコートの下はワンピースだろうか?
ピンク色の裾と白のレースが見えて、華奢な足は黒のタイツにブーツを纏っている

『耳、真っ赤』

女性の方が皮下脂肪はついているだろうが、ふるふると震えているその姿は何故だか同情できる。
いつもなら、『へぇ』と無関心なのだが彼女と似た状況のせいか少し興味が湧いた

『相手の男は少なからずロリコンの気があるよな…小柄で童顔ってのは好きな男多いし。で、こういう女に限って付き合ってる男はクズみたいなの多いよなぁ』

他人の分析をするのは中々に楽しい
時間潰しに同じような境遇の彼女の人間分析をしてみることにした

『年は…10代後半から20代前半くらいか?服装や化粧から家庭環境はそう悪くはない、社会性も少なからずある。美意識も高そうだ』

肌つやや指先を見ながらグレンは勝手に他人分析をしだした。

『お洒落さからして間違いなくデートだろうな。一時間は待ってるのに動かないところを見るとよく相手に待たされている環境にありそうだ。…相手も相手で遅刻は当たり前みたいな概念になってそう』

「あの…」

『いつも待ち合わせはこっちが待たされるって嫌だよな。俺は無理、諦めて帰る。でも帰れないのが現状か』

「あのぅ…?」

『というか、本当に遅い!!あの人なにしてんだ!?だらしないにも程がある』


「もしもし?」
「……あぁ、すみません。気づきませんでした」

まさかの展開である
見ず知らずの隣に立つ女性が声をかけてきた
身長差で上目遣いに見上げてくるのが、小型犬を想像させた

「待ち合わせですか?」
「はい、でも来なくて…まぁ、いつも待ってるので慣れっこですが」

「私もです。あの人、いつも遅れてくるから…忙しい仕事をしてるのは分かりますが流石に今日はキツいです」

嫌な位、彼女の気持ちが分かった
そう…そうなんだよ。
忙しいのは百も承知だ
誰だって忙しい
自分もそうだ
同じ職場といえ、クザン大将は海軍本部の大将なのだから多忙な筈(いつも寝てる姿が伺えるが)
だが俺だって忙しいのは同じだ
今日だって久しぶりの休みをあの人と会うために怠い体を引き摺り、会いに来たと言うのに…それがこの仕打ちか

「凄い分かりますよ…私も同じような立場なので、分かります」

悲しいを通り越して苛々する、うん
寒いし…寒いし…寒いし。
冬島生まれが皆寒さに強いわけじゃない。
あの寒さに耐える知恵をちょっとばかし多く知ってるだけだ

「でも、あれですよね。『ごめん、遅れた』って謝りながら走ってくる姿見ると許しちゃうんですよね」
「あ…あぁー…」

あんまり、同意できない意見だな

『いやぁ…遅くなった』
『…………』

『おーい、グレン君。怒ってる?』
『…怒る気力もありません』

的な感じになるからな

グレンは冷めた目を遠くの景色に向けた。
なんだか自分がちっぽけに思えたのだ。
冷たい手を擦りあわせながら恋人を従順に待つ彼女を見ていると余裕のない自分に。

情けなくなる。

「どんな方なんですか」
「自分より身長がでかくて、適当でのらりくらりしてて」

指が綺麗で
眠りが浅くて、狸眠りばっかりしてよく俺をおちょくる。
でも何だかんだ優しいし、俺なんかに惚れてるし…。

「いつも気を張って生きてる自分が…少し素に戻れる相手です。」

馬鹿みたいにあの人が好きなんだ。
グレンは自分の苛立ちが収まってくるのが分かると気恥ずかしくなった。
自分の気持ちを再確認して、頬に赤みが薄らとさしてくるのが分かると眼鏡を掛け直した。

「それが一番大事だと思います。親密な関係ってそういうものですよね。ずっと気を張ってたら疲れちゃう」
「えぇ」
彼女がくすりと微笑んだ頃だ、ふわふわとした黒髪の背高のっぽがこちらに向かって歩いてくるのが分かった。
そして、何故だか…部下のスーが隣にいるではないか。

黒のタイトなトレンチコートに真紅のマフラーを首に巻き、黒のスキニーにロングブーツを合わせているスーと
カーキ色のアウトドアなファー付きコートにジーンズを着たクザンが並んで歩くその姿はなんだか月とスッポンでグレンは思わず吹いてしまった。

「シャーロット!遅れてごめん…って、あら?先生じゃないですか」
「お前のツレか彼女は。」
幾分か彼女より背の高いスーはシャーロットと呼んだ彼女の頭を優しく撫でて抱き締めるとフジを見た。

「えぇ。今からショッピングを楽しんでディナーしてから…よしなに。って感じですね。でもまさか、シャーと先生が一緒にいるとは」
「まぁ、じゃあスーがよく話してる先生ってこの人だったのね。聞いてたより若くて吃驚しちゃった。」

おい、一体何を話したんだこいつ。そしてどこまで話した!?…だが今はそれどころじゃない。

「で、クザン大将。遅れた理由は一体なんです?」
「いやぁー、でっかい荷物背負ったばあさんがあんまりにもだったもんでばあさん家まで送ったらこんなになっちまって」

クザンが普段よりかは申し訳なさげにそう言うのでグレンはため息まじりに思わずはにかんでしまった。

「飯、今日はあなたが奢ってくださいよ。あと、食後のコーヒーも」

惚れた弱みというものは恐ろしいもので遅刻の言い訳すらも愛おしくなってしまう。先ほどまでの苛立ちも掻き消してしまうほどに破壊力を持つのだ。
例え、息を切らしながら走ってこなくても。
グレンはそう思った。

「じゃあ、俺たちも行くから。またな、お二人さん。スー、また仕事場で」
「えぇ、そちらも楽しんでくださいね。先生、クザン大将。良い1日を」

互いにそう言って別れ、クザンと並んで歩き出すグレン。

「2時間待ってたんですからね」
「いやぁ…ごめん。」

「人助けもいいですが、俺の足が凍傷で腐ったらどうするんですか。本当にもう」
「君、怖いこと言うね。」

「まぁ、寒さには強い方なので待てる範囲で待ちますが」
「なに、そのツンデレ。君本当に可愛いね」

白く煙る吐息を弾ませながら雪が薄く積もる石畳を2人で歩く。

「ないとは思いますが貴方がなにかの事故に巻き込まれたのかとか、事件に首を突っ込みにいったのかとか地味に心配したんですから」
「ツンデレというところはつっこまないのね。分かった。」

「………」
「そう拗ねなさんな。グレン君に惚れってるってことに変わりはないんだから」

本当にこの人……


「あぁ!!もう、さっさとコーヒーでも飲みに行きますよ!」

大好き。
この人のことがもっと好きになっていく。

『そんなとある冬の出来事』

.

(二人の距離が近づいた気がした。)


あとがき

はい!!だいぶ前にアンケート一位だったクザンさんの話書いてみました!大変遅くなって申し訳ないです。
楽しんでいただけたら幸いです。普通にオリキャラバンバン出してますがスーさん実はビアンカップルだったのです。
よろしければ拍手やコメントよろしくお願いします!

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あきゅろす。
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