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雲雀の涙【シリアス夢】





広い海と
広い空は
果てしなく広く
地平線はいつだとて輝きを放つ
自由とはなんなのか
人間はかくもちっぽけなもので
名も残せぬ人間など可能性よりも多く存在するのだ。

どんな人間だって可能性はある
だが自らの取捨選択でそれは塵か金かの価値に変わるのだ。

泣いても泣いても
何も変わりはしない
なのに何故、涙は流れるのか。

何故、自由に恋い焦がれるのか。











『雲雀の涙』




















薄紫色の扇子
柄は藤の花、その周りを蝶が番で舞っている。
父に一人前の芸人になれるようにと貰った母の形見だ
骨が少し薄汚れてはいるが気に入っている
この染みは舞踊の稽古で父に厳しく怒られた時に大泣きしたときのものだ。
簡単なことが出来なくて悔しくて
意地になって、気がすむまで稽古を一人していたあの頃の情景が今でも鮮明に浮かぶ。

『…サク……どうなったんだろう』
頭に浮かんだ幼馴染みの顔がふと過った。
自分が気を失った後、衛兵に連れていかれた…そこまでは覚えているのだがその後は分からない
オークション会場には確かにいた
もしかして売られてしまったのか?
あの時は色んな事が起こりすぎて考える暇がなかったが、今になると不安が胸に広がっていく。

あの騒ぎに紛れて逃げられたのなら
どこかで無事に生きているなら
そうプラス思考で考える事しか出来ることがない
只、祈るだけである。

「そう考えると…僕には不安しかないんだ。」

幼馴染みの安否
海軍からの追跡
これからの未来
フジには多すぎる不安だった。

「前に進まなくては…」

フジは扇子を閉じると帯の隙間にスッと差し、船長室から出た。


---------------------------

「新聞?」
「はい。まだありますか?」

まずは知ることだった。
幼馴染みと仲間の安否
手始めに、フジはペンギンとシャチに尋ねる事にした。
この船はこの数日間見る限り、新聞を一部足りとも見ていない
事件があったのは五日前
わずかな希望を胸にフジは答え

「悪いなぁ、姫さん。溜まってた新聞は昨日捨てちまった」

その希望も打ち砕かれてしまったが…

「そ…そうでしたか」
至極落ち込むフジに二人は『海賊』だがなんとも言えぬ罪悪感に襲われる

『お前、何で新聞位今日捨てなかったんだよ!!』
『昨日が都合良かったから!!…て、これは俺が悪いのか!?すげぇ悪い気がしてきたんだけど』

「で、でもな!姫さん!!話題は俺らのことばっかだったぜ」
「あぁ!!天竜人に麦わら一味が手を上げたとか、俺らも手助けしたとか!」
「ヒューマンショップにいた奴隷達が全員逃亡したとか。天竜人がめちゃ怒ってるとかさ!」
「後はあれだよ!!白ひげのところの2番隊隊長火拳のエースの公開処刑についてが今一番の話題だ」

二人が言った事に胸騒ぎがした。
ヒューマンショップの奴隷達が解放されたのは良かった。
サクも…何処かで生きているならそれでいい。
またきっと会える

二人は何か思い出したらしく、『オークション会場にいた巨人が奴隷達を何かの縁だから逃がしてやる』と言っていたそうだし

あの時いた義賊のような海賊、麦わら一味と呼ばれる人達もいたのだからきっと奴隷達は解放されただろう

そうだと信じたい
サクに会いたい
マリージョアに残された奴隷になった一座の姐さんや妹達は無事だろうか
他の奴隷達は?
心配事はどんどん頭に浮かんでくる
そのたびに胸が苦しくなる

問題は…
「……天竜人。」
フジは胸騒ぎの理由がそれだと知った。

天竜人
彼らは大きな権力と由緒ある血筋を使ってくるだろう。
それがどんなことであろうと…
今回の事件、あの一家の事だ
黙っている訳はない
まだ自分に執着心を捨てていないなら血眼で探しているはずだ

自然とフジの顔は曇りに曇り、眉間に皺を寄せていた。
無意識に右肩を着物越しに擦る

「姫さん…?」
「いえ…何でもありません。ありがとうございました」

頭を二人に下げ、部屋を出た。
フジは未だ外れない首輪に触れていた

嫌味なくらい滑らかに磨かれた綺麗なアメジストが憎くなった。

「早く………お願い」
早く諦めてくれればいい
飽きてくれればいい
ごみのように捨ててくれば良い
そうしたらごみ山から自由な空を見られる。

「逃げてるだけじゃ駄目だ…どうすれば」
逃げてもしつこく追いかけられる
解決しなきゃいけない。


「…ベポ。」
「フジ、そんなに触られるとこしょばいって!!」

今日は晴天
晴れ晴れとしたその空色に少しは心が晴れる気もした

日光浴するために甲板で寝転がるベポの体をもふもふするのは癒される
日向に当たった柔らかいベポの毛はふわふわと太陽の香りがする。

もふもふ もふもふ
もふもふ もふもふ

頭を撫で、耳の柔らかな感触を指で感じながら
覆い被さるように寝転がるベポの上に乗り、ぬいぐるみのような感触を身体全体で楽しんでいた

しかし第三者から見れば、なかなか艶かしいものだった。
長い髪が白いベポの身体に散らばり、好き勝手撫で回されている
しかも、フジは恍惚な表情を浮かべているではないか

『…エロい』

デッキを掃除していたクルー達は横目に見ながら頬を赤くしているのは太陽のせいではないだろう

あわよくば代わってくれ!!と思っているクルーがいるのも気のせいではないだろう

「ベポ…」
「どうしたの?」

「天竜人は何処まで私を追ってくるでしょうか」
「さぁ…?でもここ数日海軍の船すら見てないから追っ手が来てるのかどうかもよく分かんないね」

「はぁ……」
「ぬぉっ!!フジ!?くすぐったいって!!」
笑い声を上げながら、くすぐったそうにするベポのお腹に抱きつきながら頬を寄せた。

温かい
生きている温もりだ
これが生きているという事

「僕…人間じゃなかったら良かったのに」
「フジ…?」

「ベポ…私はね。疫病神なんだよ」

誰かに身を寄せれば
誰かを不幸にする

自分と関わりを持つことで幸せになるかもしれない
けれどね、その分不幸を呼び寄せた。

「結局は皆、皆…私を呪って死んでいく。」

フジの声は暗いものだった。
そう、それはほの暗い闇のような
弱々しい 嘆きだった

「どうして天竜人に見初められてしまったんだろう…何で」

何で…僕だったんだろう

そう言い切る頃にはフジの目からは涙が零れていた
薄紫色のその目が今は哀しみに沈んでいるのがベポには分かった
震える細い指が自分のツナギを掴んでいるのが分かった

だから、黙って耐えることにした
ツナギが涙で冷たくなるのもどうってことない


頭を撫でてやった
自分より小さなフジの頭はさらさらとしていて
撫でるたびに良い匂いがした

「僕には家族がいたんだ…?血の繋がりなんてなかったけど」

でも大切な家族がいたんだ
一つの夢を掲げて海に出た

「夢?」
「そう…このご時世に悲しむ人達に夢を見せるっていう大きな夢」

僕らは時代を語る
歌や踊りや演劇で国を語る
人を、感情を、身一つで語りかける

「でも全て奪われた…消え去った」

深い哀しみが僕らを壊した
高慢な欲望が僕らから自由を奪った
大事な家族を奪い去った

「僕らはただ…自由にいきたかった」

何にも
誰にも縛られず
自由に生きたかった
ただそれだけ

「国を離れ、故郷と別れ…自由を求め、夢を追いかけたけど結果は破滅しかなった」

異邦人に世間は冷たかった
大きな権力に人は逆らうことを躊躇う

「余興でね…天竜人達の前で僕らは演劇を披露したんだ…」

僕は女形と言ってね
女の役をする役者だったんだ
女形は芸を磨くために日常生活でも女装をして芸を学ぶ
生まれつきの容姿もあって…女にしか見えなくて

「勘違いで終われば良かった…笑い話で終われば良かったのに」

終わらなかった
劇が終わると天竜人達からの賛辞と…突然の求婚を受けた

勿論断った
父も一座の皆もが謝罪をした
理由は一つ
僕が男で、大切な仲間だからと

でも天竜人達は退かなかった
退くどころか『創造主の血筋』に逆らったと父を銃で殺した

それから一座の男達を一人ずつ、見せ物みたいに殺していって
サクまでも殺そうとした時、覚悟を決めた

「誰かをもう殺されたくなかった…自分のせいで…自分を守るために反抗して殺されていく皆を見たくなかった」
「フジ…」

「なら自分が犠牲になればいいって…そう思ったんだ……子供らしくない考えだったよね」

今もあまり変わらないけど

フジは困ったように涙目で笑った

「天竜人はたった十三歳の子供を正室に迎えいれた。それも男だよ…?正気の沙汰じゃない」

狂ってる
権力が彼らを狂わせたのか
従順な世界がそうさせたのか
僕は五年間、地獄を見た
世界の真実を見た気がした

本当の正義、救済なんて無いと知った。
真実はあまりにも残酷だったのだ

「政府は黙認したよ……男が男と結婚することを」

異性婚と隠蔽してね
一座の生き残りである数人の女達とサクを人質にとった

フジは呟くように話し続けた
止めたかったのに口が喋るのをやめないのだ

「彼らは私の右肩に天竜人に所有される証として『天駆ける竜の蹄』を焼き印をした…首には爆弾付きの首輪をつけて徹底的に束縛した」

女なら沢山いる
どんな美女も選り取り見取り
妾は沢山いるのに、正室だけは代えなかった

「僕は男だ…男なのに…」

言葉遣いも仕草も容姿も芸の為なのに
フジはベポにぎゅっと抱きついた
ベポは困ったようにあたふたしていたが諦めた

「僕は卑怯だ!!…穢くて…っ狡い…弱い人間だっ!…っ…ぅ」

あまりに自分に乗って泣いているフジがあまりにも小さく儚く見えた

「フジ、泣かないでよ…お願い」
「どうすればいいの…っ!…僕は…僕は」

強くなりたい
フジはそう言うと子供のように泣き始めた
声をあげ、しゃくりあげながら
嗚咽が漏れないようそれでも耐えようとしていた

大丈夫だよ 大丈夫
ベポはフジが泣きつかれて寝てしまうまでずっと抱きしめ、頭を優しく撫でていた

こんなことを誰かにしたのはベポにとって初めてのことだった。「ベポ」
「あ、キャプテン」

「何してる」
「フジの話し聞いてた」

すやすやとベポに抱かれながら眠っているフジを見下ろしながらローは察知していた

実はローは途中から二人の話を聞いていた
聞くつもりはなかったのだが、甲板に出てみたらどうにも退けなかったのだ

「泣いてたのか」
「そりゃもうワンワン泣いてたよ」

長い睫毛に縁取られた目が痛々しく赤く腫れている

ローには先ほどの会話で何となくフジと言う人間が分かってきた気がした


「キャプテン」
「なんだ」

「人間って難しいね」
「…あぁ」

「これからどうなるのかな」
「さぁな…ただ、海軍は追ってくるだろうな。」

シャボンディ諸島での一件が報じられていた新聞には事件の他にも関連記事が載っていた

それがフジの事だった

天竜人チャルロス聖正室、通称『寵姫』こと
フジの写真と外見の特徴、そして法外らな懸賞金だった

「こいつには10億の懸賞金がかけられた。」
「じゅ…十億ベリー!?」

それだけ天竜人には貴重な存在でそれを『誘拐』した自分達は悪人なのだ

「どっちが悪人だかな」


仲間を殺され
残った仲間を人質にとられ
首輪で命まで束縛され
右肩に焼き印までされ
好きでもない男に犯され
なぶられ
暴力を受け
公の為に一人で女を演じ
それでも笑顔で仲間を救おうと耐え
募る哀しみに心を病み
自分の中での葛藤に悩まされ
今に至ると
一人の未成年男にすることか

ローはフジの隣に座り、ベポに抱かれ眠るフジを見つめた

「こいつがいる限り俺達は海軍に追いかけ続けらろれるだろうよ…しかも一端の海兵じゃない、海軍本部の大将クラスが来ても可笑しくはない」
「大将はヤバイよ!!」

「少し静かにしろ。こいつが起きるぞ」
「あ、そうだった…ごめんね、フジ」

フジもベッタリなベポだがベポもベポでこの数日の間でフジにべったりになってしまったようで
白熊でなかったら、そるはまるで母親かなにかのようだった

フジには人を魅了するなにかがあるらしい。
そのお陰でクルー達もベポもこの様である
ローも例外ではないだろう

「キャプテン…フジを海軍に渡したりしないよね?」
「わざわざ渡す馬鹿はいねぇよ」

ベポは上体を起こし、フジを大切そうに膝の上に乗せ、ぎゅっと抱き締めた

「はぁー…フジ良い匂い」
「……」

すりすりと頭に鼻を寄せるベポに何故だか苛立ちを覚えたロー
何故だか理由は分からないがいらっとした

薔薇色に頬をふわりと染め
昏々と眠るフジはまるで童話の眠り姫かなにかのようだった

「白熊ならよかったのに」
「…白熊二匹は船に乗せないからな」

「フジ、こんなに可愛いのに」

苦労してるね

ベポの一言が重く感じた

自分達は海賊だ
苦労も大概が経験済み
命がけでそれでも『夢』の為に困難をくぐり抜け、航海をしてきた
同じ志を持った仲間達と共にここまでやってきた

苦労がないわけではない
だが、眼前の存在が少しだけ不幸に見えた
同情ではないが
フジはあまりにも美しすぎた

こいつがどんな芸をするのかしらない
どんな仲間とどんな境遇で
どんな過去があって
何故精神を病み
何故こんなにも泣くのか
纏った空気が何故こんなにも温かいのか
こんなに側にいると心安らぐのか
こんなにも他人を魅了するのか

何故こんなにも胸が掻き乱されるのか

「………分からねぇ」

自分より年下で
妙に色気があって
簡単に泣き出す
弱くて
そのくせ頑固な所もあって
すぐ意地を張る

真面目で
羞恥心がすぐ顔に出る
怒るかと思いきや困ったように笑っている
男だとたまに忘れてしまう

『ロー様』

あいつに名前を呼ばれるのは嫌いじゃない

「何がしたいんだかな…俺は」

最初はほんの出来心から始まった
だが今は変わり始めている

無意識かフジは意識は夢の中の筈なのにまた一筋の涙が頬を濡らしていた

「泣くな…」

(涙を拭うのは出来心?)

『ベポ…そいつを貸せ』
『へっ…?』

『俺が部屋に運ぶ』
『まじで!?』


*アトガキ*

皆様、お久し振りです
如何お過ごしでしょうか?
管理人の椿です

長らくお待たせしました!!
久しぶりの更新です
よく考えれば今年初の更新です(T_T)
もっと早く更新できれば良かったのですが管理人は今年が短大卒業年次なので進路や演奏会本番などのハードすぎる生活に時間が無さすぎて…やっと来た春休みのお陰で更新出来ました
言い訳に聞こえたらすみませんorz
しかし、その甲斐あって今春から同大学の三年次編入に見事合格しました!!
どうでも良い情報でまたまたすみません

さてさて雲雀シリーズですが、主人公君の過去が少しずつ明らかになってきましたね
今回は中々明快になってきたかと思います
本格的に過去話を書きたいのですが…どうしても裏内容や暴力シーンが含まれてしまう描写になるので文才的にも悩みどころです(´Д`;)

フジが所属していた一座についてですが彼らは芝居をしたり、歌や舞踊…はたまた奇術なんかもします。
ワンピースのフジ時代背景から勝手に模作していますが
日本の『大衆芸能』に近いものと思って頂ければ良いと思います

堅苦しくない分かりやすい庶民に愛される伝統芸能と言いますか…大衆芸能が分からない方は詳しくはWikipediaをご覧下さい
キャラバン、ジプシー、旅芸人…などのように所謂根なし草…旅をしながら芸を披露し、生計を建てる集団だったと考えて貰えれば想像しやすいでしょうか?
演劇は男社会ですがスタイリスト的存在の女性や陰で演奏する女奏者もいるのでちらほら女性はいます
舞台は女人禁制なので表には一切出ていませんが数人ばかりはいて、現在は生き残りとして天竜人の奴隷になっています

因みに『妹達』『姐さん』とありましたが、妹達とは年下の女弟子、姐さんは歳上の女弟子のことです
弟子と言っても彼女らは役者ではなく楽器奏者だったり、一座の雑用をしたり、街で宣伝したり、また役者の身内だったり…まぁ、陰で支えてくれる人達と設定しています
なのでフジの実の身内ではありません
ややこしくてすみませんorz

チャルロス聖の奴隷と勝手に設定したサク君はまた出現します
拍手コメ下さった方、管理人は忘れていませんよ
もといフジ君はちゃんと覚えています
のでご安心を^^;
しかし表現不足でしたね
申し訳ありませんでした

さて長くなりましたが…次のネタバレとして……青雉シリーズの方では海軍側はまあ青雉さんが出ていますが、こちらの外科医シリーズには海軍キャラとして黄猿さんを出す予定です♪ヽ(´▽`)/
管理人はものっそい三大将が好きなのですいません…天竜人関係に黄猿さん出てきたならやっぱ出さないとね!!(おい)

親父キャラ好きなのにローさんも好きです!!
はたまたジンベエも大好きです
そしてベポも好きです…今回のベポ登場に何となく愛は分かって頂けたでしょうか
13歳で人を魅了する魔性の女形ことフジとローはどうなるのでしょうか

こんな管理人の妄想うふふで制作されていますので気に入って下さる読者様がいるのなら幸せです
嫌いなら他の素敵なサイト様へどうぞ


できるだけ更新していきたいと思いますのでよろしくお願いします
それではまたの更新でお会い致しましょう♪

椿

追伸〜アトガキ長文住みませんでしたorz
最後まで読んで下さった読者様ありがとうございました

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