[携帯モード] [URL送信]
魅惑のバニー【甘夢/七武海出演】



ジルベルト・ヴァン・グレン
26歳

出身、北の海。
独身
身内なし
海軍本部特別医療班室長中佐相当官及び

この度、海軍本部准将相当官に昇格。

「おめでとうございます、ジルベルト准将」
「この度の昇格おめでとうございます」

軍の中、何処に行くにしろお祝い、賛辞の声をかけられる事にグレンは3日も過ぎると鬱陶しさを感じていた。

『准将って…海兵じゃないから複雑』

グレンは将校バッジを胸に付けた白衣を翻しながら、廊下を歩いていた。

すれ違い、通りすがる度に頭を下げられるという事は非常に居心地が悪い。

深々と頭を下げている彼らが俯いている時何を感じているのかと考えれば背筋がぞくりと震えてしまう。

実力で上り詰めた地位だが、専門は医者なのだから陰で他の海兵達に何を言われているのやら

「…全く」

人間の恐ろしさというのは
幼い頃から怖いくらい知っているのだ。

だから出世が嫌い
妬みが絡み合ってどろどろとした感情が歪んでいるからだ















「先生、センゴク元帥が先週頼んでいた書類を提出してくれと催促のお電話が先程ありましたが」
「あぁ…分かった。書類は出来てるから今から持ってく」

グレンは机に纏めていた書類を手にすると飲みかけの冷えてしまった珈琲を飲み干した。

不味い 苦い 行きたくないの言葉を全て飲み込んだ。

「センゴク元帥はこの時間帯は聖地マリージョアにて会議中ですが」
「その会議で使うやつなんだよ。行くしかないだろ」

「まあまぁ、そんな嫌な顔しないで。株を上げて来てくださいな」
「我らが期待の星!」

部下に囃し立てるように見送られ、部屋を出た。
丹精込めて作った完璧な書類を手に持って













ー聖地マリージョア

連絡船を飛ばし、マリージョアについたグレンはいつもの白衣を翻し、関係者に居場所を聞いて会議室へ向かう途中、グレンはガープ中将に会った。

「おぉ、グレンじゃないか!久しぶりじゃな」
「ガープ中将、お久しぶりです。まさかこんな場所で会えるとは偶然ですね」

モンキー・D・ガープ中将
海軍本部で昔から信用出来る数少ない稀な味方側の人間である。

「昇進の話、センゴクから聞いたぞ!良かったじゃないか!おめでとう」
「ありがとうございます。昇進の話はいつもの如く蹴るつもりだったのですが、気が変わりまして」

バンバンと背中が叩かれる度に眉間の皺が深く刻み込まれていくのが分かった。
が苦笑いをし、なんとか痛みを紛らわした。

「グレンも変わったのぅ。昔は可愛いげのない小生意気なだけの子供だったのに」
「人間は変わるものですよ。その気があれば…因みに可愛いげが無いのは今も昔も同じですがね」

父親がいればこんな感じだったのか、髪をわしゃわしゃと撫でるガープの大きな手にグレンはまた笑ってしまった。

潔癖な所があるグレンだが大きくて、温かい手には弱いのだ

「それでは私はセンゴク元帥の所にいかなくてはいけないので失礼します。医者なのに専ら書類制作ばかりで嫌になりますよ」
「グレンを気に入ってるからだろう。有能な将来性ある若いのが将来海軍を率いていくんじゃから」

有能なのも
将来性があるのも
若いのも分かっている。
が、海軍を率いていくつもりはさらさらない。

「それでは失礼します。」
「まぁ程々に頑張れ」

豪快に笑いながら去っていくガープに頭を下げて、反対方向に自分も歩いていた。

自分の将来は分からない
ただひたすら前に進むのみだ。













大きなフレンチドアを眺めながら、深呼吸をし、そしてドアを二回程ノックした

コン コンと軽いノック音をさせると暫く間を置いてみたが返答がないのでドアノブに手をかけた

場所は此処で合っている
会議は始まっている時間帯だろう、それとも気づいていないだけなのか
何はともあれ、さっさと書類を渡し
帰りたいのが本音である。

もし中に関係者がいるのなら後で渡すよう伝えれば良いし
何もしないよりましである

「失礼します。海軍本部特別医療班室長准将相当官のジルベルト・ヴァン・グレンですが、センゴク元帥から頼まれていた書類をお届けに参りました。」

グレンがそう言って中に入ると有名な顔ぶれが揃っていた。

「ん?どこから迷い込んで来たんだろうな、子猫ちゃん」
「子猫と言うよりは子兎だろう。」
「………」

そう、世界政府公認の海賊。
偉大なる航路の三大勢力の一つである『王下七武海』の海賊達である

ドンキホーテ・ドフラミンゴ、ジュラキュール・ミホーク、バーソロミュー・くまの三人が豪華な会議室で各々暇を弄んでいた

海軍本部の人間は見た所いない。
超がつく有名人達と自分だけである

「センゴク元帥の行方をご存知でしょうか?」
「あぁ?センゴク?…あぁ、そういやぁさっきどっかに行ったな」

ピンクの羽根の『お前は鳥か!!』というような上着を着たドフラミンゴはにやにやと笑った

実に嫌な笑みである

「…会議で使う書類を持ってきたのですが、いないようでしたらまた後で伺います。」

海兵がいれば良かったのだが、生憎いなかったのでグレンは帰ることにした。
こんな輩に大事な書類を預けて、紛失されでもしたら困る。

「お主…ジルベルト・ヴァン・グレンか」

そこで口を開いたのはまさかの『鷹の目』こと世界一の剣豪、ジュラキュール・ミホークだった。
ミホークはテーブルに足を乗せたまま何とも偉そうに椅子に座っていた

「はい、そうですが」
「異例の二階級特進で海軍本部准将にその若さで昇格したとか」

「…恐れながら」
「未知の病を治療する特効薬を作ったとか」

何が言いたいんだ、この男は。

「こんな可愛いのが海軍本部准将たぁ、海軍も落ちぶれたな。こんなの何の戦力にもならねぇだろうが、なぁ?…フッフッフ」

いや男達の間違いだった
ドフラミンゴは窓辺に座り、長い足を持て余すように足を組んでいた

くまに至っては何も言わず書物を読んでいる
傍観も良い所である。

「…私は研究がしたいが為に海軍本部に入隊しました。研究費と引き換えに海軍本部で医者をしております。」

この手は人を殺す為ではなく、生かすのだとグレンはきっぱりと言い放った。

侮辱されるにはなれているが黙って中傷されるような人間ではないのだ。

「誰かに文句を言われるような仕事はしておりません。」

グレンの赤く深い色をした目が王下七武海の面々を真っ直ぐと見た。

三人の内二人は黙っていた、一人を除いて。

「フッフッフ…只のインテリ坊やかと思いきや意外や意外。顔に似合わず随分と気が強いじゃねぇか」

絡んできたのはドフラミンゴである。
グレンは悟った
この男は自分とは性が合わないと。
「強気な美人は嫌いじゃねぇぜ。屈伏させた時の征服感が堪らねぇ。」

ドフラミンゴはふぃと左手でグレンを手招いた
長く大きな指がグレンに向けられるとグレンの右足が前に出た。

「……っ!?」
思わず目を大きくしてしまった。
自分は動くつもりは更々無かった
自分の意に反して身体が勝手に動いているのだから驚かない訳がない

自分の身体が自分の身体で無いように思えた。

『止まれ止まれ止まれ!!訳が分からん!なんだこれ!?あいつ、悪魔の実の能力者か』

脳が身体に送る信号がまるで効いていないような不思議な感じだった。

手招きされるがままにグレンはドフラミンゴの近くまで歩いていった。
その表情にも少なからず焦りが見られる

ドフラミンゴの長い手が届く範囲まで来ると、ドフラミンゴは右手でグレンの眼鏡を取り、左手を腰に回した

グレンの男にしては美しい柳腰を厭らしくホールドするとその力強さにグレンは動く事が出来なかった

思うように身体が動かず、眉間に皺を深く刻み込むしかなかった。

「っ…お戯れが過ぎます…っ!!離してください」

眼鏡を取られてしまったグレンの視界はぼんやりと全てが歪んで見えた

ただあの厭な笑みだけが鮮明に見えた気がした。

「この面でヒヒジジイ共をタラシ込んでても異例の出世は可笑しくねぇよな」
「…何をふざけた事を…っ!」

確かに今まで上層部の人間から出世をちらつかされ関係を望まれたこともあったが全て蹴ってきた。

自分の実力でここまで来たのだ。
自分のペースでここまで来たのに何故こんな侮辱を受けなければならないのか


「…ドフラミンゴ、やりすぎだぞ。」
「なんだ?鷹の目。お前が俺に口出しとは珍しいじゃねぇか」

グイッとその瞬間強い力に引き寄せられ、ドフラミンゴの身体に自分の身体があたった。

嫌だと思った
自分以外の体温が身体にまとわりつく感触が
ましてや同性に触られているという事が気持ち悪く感じた。

「あまりにもそれが哀れでならん」
「フッフッフ…哀れまれてんぜ、子兎ちゃん」

哀れむなら助けろ
ミホークにそう言ってやりたかった。
この状況は何だと言うんだ
思春期の夢見がちな少女ならば嬉しい…否、至極胸高まる状況だろうが、全くそそられるものはなかった。

『クザン大将のがかっこいいよな』
これはグレンのノロケである。

「離して下さい。」
「お前良い目してんなぁ…海軍にいるには勿体無い位だ。」

ドフラミンゴの顔が近づいてくる
吐息もかかる近距離でもう少しで互いの唇がぶつかりそうである。

「っ…離せっ!!」

出来る限り抵抗していると、 グレンの大好きな手が間に入ってきた

骨太なゴツゴツした大きな手、長い指がドフラミンゴからの接吻を制した

「まぁまぁ、そううちのをからかわんで下さいな。」

クザン大将だ。
いつもの如くめんどくさそうな口振りで、だが眼差しだけは真っ直ぐで…グレンは鼻の奥がつんとしたのを感じた。

唇を噛み締めておかないと泣いてしまいそうだ。

「おっと、大将がお出ましとあらば退くしかあるめぇなぁ。」
「そうしてもらえると助かるね。」

あの七武海の強者がこんな簡単に手を退くのかと思いながら、自然と自分の方へ引き寄せてくれる動作にさえ胸が高鳴る
グレンはそんな自分に苛立ちを感じた。

「グレン君、大丈夫?」
「え…えぇ。はい」

「センゴク元帥に渡す書類は」
「こちらに…」

グレンは胸に抱き締めていた書類を未だに密着しているクザンに渡した。

書類を受け取ったクザンはグレンの頭をくしゃりと撫でるとドフラミンゴ達の方に視線を移す。

「海軍大将ともあろう男が一介の新米将校に随分と入れ込んでるみたいだなぁ…青雉」
「まぁ…お気に入りですから。有能だしね、俺と違ってさ……だからね、潰して貰っちゃ困るのよ」

笑みを浮かべているはずなのに目が笑っていない。
背中がぞくりと寒くなるこの空気がグレンには慣れないものだった。

『全く卑怯だ…普段はだらけきってるくせにたまに真面目になるって』

ずるい…かっこいいだろそれは

惚れた弱味というものをグレンは嫌と言うほどこの瞬間感じた

「あんたに言われたら黙って退くしかないよなぁ」

流石に七武海とも言えど、海軍本部大将には立場上逆らえないようだ。
ドフラミンゴは降参と言うように両手をひらひらと振った

「グレン君、本部に帰んなさい。船を待たしてあるから」
「…分かりました」

クザンは一旦グレンから離れ、書類をテーブルに置くとドフラミンゴ達の方を見つめる

「元帥とその他諸々はもうすぐ来るんで少々お待ちを」

クザンがその言葉を言い終える頃にはグレンは部屋から静かに退出していた。
静けさが戻った部屋ではバーソロミュー・くまが聖書を捲る乾いた音だけが響く。

「フッフッフ…あれはまた面白いじゃねぇか…」
「……」
「ジルベルト・ヴァン・グレン…ベガバンクを凌ぐ頭脳を持つ海軍が誇る天才医学者」

何にせよ、札付きの海賊たちを一瞬で興味の渦へと誘い出してしまったようだ。

暗雲が空にゆっくりと浮かび始める結果をこれが招いてしまう
















「お〜い、グレン君」
早足で歩くグレンを彼より長い足でのたのたと歩くクザン
先程の威圧感はどこへ行ったのやら、いつものクザンに戻っていた

「………クザン大将、船は何処に停めてありますか。本部へ帰ります」

此処の空気は本部よりも悪い
グレンはそう呟くとよりいっそ早足に歩く

「あぁー…船ないよ」
「…はぁ?」

「だって俺チャリで来たから」
「さっきかっこよく船で帰れだなんだ言ってませんでした?」

足をぴたりと止め、グレンは自分の背後にいたクザンを見上げた。

「…いい眺め」
「おい」

自然と上目遣いになる自分の相方に年甲斐もなく胸を高鳴らせるクザンにグレンは眉間の皺を濃く刻ませた。

「馬鹿なこと言ってる場合じゃないんですよ!!なんでこんなとこまで来たと思ってんですかっ!!」
「…センゴクさんに書類届けに来たんでしょ?」

「出世したいが為に海兵より雑用してますよ。」
「別にそんな頑張らなくてもいいんじゃないの」

出世?
何の為にこんなに頑張ってんだ自分は?
雑用と執務に追われる毎日を過ごして…何を

「グレン君?」
「…努力しないと貴方の側にはいられないから。」

自分は女じゃないし、海兵でもない。
海軍にいるのは医学者として研究したいが為、軍医として此処で働いている

「…………失礼。」

駄目だ
冷静さが無くなってる
そう思った時にグレンはクザンから視線を外した。
今、離れなければ感情が爆発する。
ついでに言えば涙腺が崩壊し兼ねない

「グレン君、俺から逃げてない?」

ゴツゴツした大きなクザンの手がグレンの手首を掴んだ
その瞬間、何故だか泣きそうになった

恋とは甘く
苦々しく
切なく
こんなにも高揚する。

「…………逃げませんよ」

この駆け引きは逃げたくない
どんな無理難題をも成し遂げてみせた
この恋すらも成功へ導いてみせる

「何があっても…貴方から逃げませんよ。私は逃げたりしません」
「グレン君、なんかかっこいいんだけど」

「…クザン大将が行き遅れたら嫁に貰ってあげますよ。」
「え、お嫁に来るのは君じゃないの?」

(皆大好き魅惑のバニーちゃん)

『年齢的に、グレン君が嫁入りだよね?』
『というか男でも嫁入りなんですかね?』

なんだかんだで幸せな二人なのでした。



[*前へ]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!