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鳥籠の雲雀(後半)【略奪愛?/シリアス】




目を閉じた
何も見たくなくて
何も聞きたくなくて

『死』が怖い。

近距離で見る『死』が
他人の『死』が
自分の『死』が
血の匂いが
絶叫が
悲鳴が
罵り、笑い声が聞こえる
まだ感じる

脳髄まで染み込んだ身体が
穢い身体が
少しずつ 少しずつ
死んでいけば良い

誰もいない
何もない
広い 広い場所で。
誰にも見つからないで
誰にも見られないで

一人で死ねたら良いのに
そしたら自由になれる
その時に初めて『自由』になれるのに














気を失い、力なく倒れたフジを執事は軽々と横抱きにしてチャルロス聖の後ろを歩く

「帰ったらフジにはお仕置きだえ。何が良いか…悩むえ〜。3日3晩魚人の奴隷に犯させるのも楽しそうだえ」

そんな姿を見て誰もが同情した。
下卑た笑みを浮かべた絶対権力の象徴ともいえる貴族
敵うわけがない

『酷い…あんな女の子を』
『なぁサンジなんとかしてあげられないのか!?あの子可哀想だ!…っあまりにも』
『今は何とも出来ねぇよ…くそっ』
『天竜人の正室は他の奴隷より危険な首輪をされてるって言う。助けるのは難しい…』
『ニュ〜…何とか助けてやりたいが…』

麦藁の一味、ハチやパッパグは一番近くから先程の光景を見ていたので同情の念が他より強かった

況してや友達が今まさに売られるかもしれないからこの心境があるのかもしれない

そんな中、ローは黙ってフジを見つめていた

白い掌に血が滲んでる
爪にも、唇も…あれは塗料の色じゃないと一瞬だがそれははっきりと分かった

痛みで苛立ちを、悲しみを抑えたのだ

涙の跡
目の下がうすらと赤く腫れてるのが見えた。
籠の鳥とはこの事を言うのだと理解した

「………。」

わけありのオヒメサマ…てやつか

力なく下がった手は
細くて
白くて
小さい。

それでも必死にもがいて
何かを求めようとする姿は
綺麗だと思った。

生気のねぇ奴隷とは違う
その目にはまだ『信念』ってやつが宿ってる
何かを見据えてる

「…面白い」
「え、何か面白いもんでもありました?」

欲しいと思った籠の鳥が籠から飛び立つ様を見たいと思った

こいつがもし
自由を手にしたら…













女より女らしく
男より男らしく
しなやかに 艶やかに
慎ましげに 美しく
可憐に 時に強く時に儚く
魅力的に
妖しげに

指先 首の傾げ方一つ
動きの一つ一つまで遠くで観ている人にまで分かるように

少女の役
遊女、女中
人妻にお姫様
女装をした美少年。

色んな人に
色んな国で
色んな場所で歓声を受けた
女形としてこれ程名誉な事は無かった。
踊ること
演じることが楽しくて
皆に誉められる事が嬉しくて嬉しくて

サクに衣装選びをしてもらう時が楽しくて
係りの姐さん達にお化粧される時に鏡に映る自分が本当に女の子になったみたいで
可愛いって綺麗だねって言われるのが嬉しくて
サクと二人で夜遅くまで練習して
時には朝までしてたっけ


幸せだった。
本当に幸せだった
どんなにしんどくても達成感があった
…あの人達に会うまでは
………もう目を覚ましたくない

幸せは崩れた
壊れてしまった
覚ましても皆いない
父さんも一座の皆もサクも…
自分だけが幸せになんてなれない
起きなきゃ
もう…起きなきゃいけない

「………ん…えっ?」

目が覚めた時、事態が把握出来なかった。
観客達が皆一様に驚愕の念を隠せずに口をぱくぱくと金魚の如く開閉していたのだ
隣にいるシャルリア宮やロズワード聖さえもが

体と視線を皆の視線の先である後ろを見てみると
階段に撃たれたらしき怪我を負って倒れているタコの魚人の男、傍にはヒトデがいる。

そして近くには麦藁帽子を首から下げている青年
同年代だろうがその後ろ姿は堂々としていた

砂埃の煙がもくもくと立ち昇りガララッと何かが倒れる音がした。

遠目からでも倒れている人物が分かった

鼻や口から血を流し、ピクピクと白目を向いて気絶している
天竜人、チャルロス聖だ

「だ…旦那様。」

あの人が…殴ったんだ。

天竜人を殴るなんて死罪が確定したようなもの
それを何の迷いもない顔で…

『凄い』

フジは心の中で麦藁帽子の青年に尊敬の念が込み上げていた。
そんなフジとは裏腹に天竜人二人は怒りを隠せなかったらしい

「………チャルロス!!!」
「キャアァアァア!!チャルロス兄様〜!!!お父上様にも殴られた事などないのに〜!!!」

先に怒りのボルテージが上がったのはロズワード聖だったようだ
席から立ち、椅子の上に立ち上がるなり杖を構え
仕込み杖の引き金を躊躇いもなく引いた

ドンドンドンッ!!と大きな銃声が会場に鳴り響くと観客達は混乱と恐怖に騒ぎ出す

「おのれ!!!下々の身分でよくも息子に手をかけたな!!!」

麦藁帽子の青年にそう言い放つと銃を青年に向けて発砲した

「天竜人を怒らせたァ〜〜〜!!!」
「キャーッ!!!」
「逃げろ外へ!!!」

そんな叫びが聞こえる中、金髪の男が走ってきた。
眉毛がくるりとカールしたスーツ姿の若い男だ

「この世界の創造主の末裔である我々に手を出せばどうなるか」

発砲を続けるロズワードの近くにまで踏み込み、男はタンッ!!と蹴りで杖を叩き落とした

素早い動きで次は槍を向けた衛兵に強い蹴りを喰らわせる

鋼鉄の鎧がまるで発泡スチロールのように簡単に砕け散ったのを同時に他の銃声が聞こえる

衛兵が次から次へと出てきて会場は大混乱になってきた

どうやら彼らは海賊で
先程チャルロスを殴ったのがリーダー。
舞台の上の人魚は友達で
助けるために今乱闘を続けている

凄い
外の世界には権力に歯向かう人もいたんだ

「貴様らあくまでも我々に歯向かうんだな!!?


『海軍大将』と『軍艦』を呼べ!!!目にものを見せてやれ!!!」

怒ってる…フジは自分が何故か落ち着いている事に驚いていた。

恐怖が吹き飛んでしまった
さっき泣いたことすら忘れてしまいそうな位、心は澄みきっていた。

『今ならこの騒ぎに紛れて、サクを助けられるかも…。オークションハウスに売られたならまだ舞台裏にいるはず』

フジは勇気を振り絞り
着物の裾を持ち、舞台に向かって走った。

行動を移すなら今しかない…っ!!
早く助けなくては

階段を走り降りている最中
トビウオが飛び交い、観客達は逃げ惑い
ロズワード聖が怒っているのが見えた

「こやつら女は剥製にして男はエサ抜きガリガリ奴隷の刑にしてやるえ」と言っているチャルロスの頭上に降ってきたのは天井から降ってきた鼻の長い男だった

甲高いシャルリアの悲鳴に
衛兵の驚愕の声に
思わず小さく笑ってしまった。

何でだろう
この人達なら勝てる気がしたのか

至極強い人達
衛兵なんか目じゃない
清々しい戦いっぷりにまるで喜劇を見ているようだった


そんな事を思っているとシャルリア宮が近付いてきて、手首を掴んだ

「フジ!!来るアマス!!」

引きづられるように舞台へ上がる階段を上らされると
明るい舞台へ上がった

金魚鉢のような水槽には人魚の少女
それを死守しようとしていた司会者

シャルリアはフジの手を離したかと思うと司会者に近付き無理矢理銃を奪った

それに驚いたフジは口を開いたがすぐに近くの司会者の男に掻き消せられた

「シャルリ「しょしょ……少々お待ちをシャルリア宮。その商品はまだお支払が済んでませ…」

梯子に登ったシャルリアは司会者の男に向かって発砲
銃声が一回聞こえると
男はぱたりと床に倒れた

一瞬の出来事がスローモーションのような動きで見えた

「うるさいアマス、下々民!!あいつらの狙いの人魚を殺すのアマス!!」

「シャルリア様!!お待ちを…!!」

口から言葉が出た次には身体が自然と動いてた。

倒れた司会者を通り抜け
シャルリアの裾を掴むフジ

「フジ!!離すアマス!!」
「嫌です…っ!この子が何をしましたか!」

「これは“魚”!!これのせいでお父上様もお兄様も…!!許せないアマス!」
「…それでも彼女は悪くありません!」

それを言い終えた瞬間
時が止まったかのように見えた。

脇腹を撃たれたのだ
弾は斜めから脇腹をかするように被弾し、崩れ落ちるようにフジは倒れた

「っー!…シャルリア様!!お願いします、彼女を…殺さないで」

脇腹から血が溢れ
帯、着物越しに染みが広がっていく
白い花が赤く
黒く染まっていくのが会場にいる全員が見えた

フジは手を伸ばすが届かない

「お前は帰ったら“お仕置き”アマス!!…さァ“魚”!!!死ぬアマス!!!」

水槽に銃口が向けられる
フジは床に散らばった水槽の硝子破片が手の平や腕に刺さるのも構わず
床から起きようと必死に手を伸ばした

「お願い…もうやめ…て!!!」


ガクン……ッ!!

「!!!」

何が起きたのか分からなかった。
シャルリアはいきなり意識を失い、気絶と同時に梯子から崩れ落ち床に倒れた


『一体…何が』
じくじくと痛みに頭が麻痺するなか、フジは眼前で気を失っているシャルリアを見て理解出来なかった。

一瞬、強い圧力が空気を伝わってきた
あれは…なんだったんだ。

何でシャルリア様は…気絶した?
一体誰が

「ホラ見ろ巨人君、会場はえらい騒ぎだ」

後ろの幕がバリバリと音を発てて破られた
誰?
…いやもうどうでも良いかな
人魚の女の子は守れたし…

ドクドクと鼓膜に響く音
血が溢れる音なのか鼓動の音なのかは分からない。

「オークションは終りだ。金も盗んだし…さァ、ギャンブル場へ戻るとするか」

大きくなる音が響く中
誰かの声がした
見知らぬ男の声…
脇腹を押さえ、顔を上げてみると男がいた

白髪の老人
酒を飲みながらこちらに歩いてくる

「質の悪ィじいさんだな…金奪る為にここにいたのか」
「あわよくば私を買った者からも奪うつもりだったがなァ」

大きな顔がぬっと破れた幕の間から現れるし
もうわけが分からない…多分、売られた奴隷だろうけど
あぁ…痛いな

「考えても見ろ……こんな年寄り私なら絶対に奴隷にはいらん!!わはははは」

楽しい…人だな

フジは水槽になんとかもたれ掛かると咳き込んだ。

ごほっごほと咳き込む声に気付いたのか男はこちらを見てきた。

「おぉ…これは綺麗なお嬢さん。大丈夫かね?」
「ぇ…あ…はい。」

思わず頷いてしまった
男はしゃがみ、傷を押さえていたフジの手に重ね、頬をするりと撫でた

かさかさと乾いた…だが嫌な感じはしない。

「…っ」
「ふむ…脇腹を銃弾が掠めたようだな。可哀想に…こんな美しいお嬢さんに酷いことをする者がいるものだ」

男はニッと笑い、フジの頭を撫でた
腕に刺さった破片を優しく抜き取り、そしてにこりと笑った

水槽に入っている人魚の少女が不安げにこちらを見ているのに男は気づく。

「ん?何だ、ちょっと注目を浴びたか」

「……………!?何だ、あのじいさんと巨人!!」
「ありゃ商品じゃないか!!!どうやって檻から抜けて…」
「どうやって錠を外したんだ!!?」
「どうする………!!」
「どうって…おれ達は捕獲は専門外だ!!」
「錠もついつねェ巨人なんて抑えきれねェ」
「とにかく正室様を助けないと…後で厄介な事になる」

衛兵達はがやがやと騒ぎ出す
事態はもうなにがなんだか分からない展開になっている

「おお!!?ハチじゃないか!?そうだな!!?久しぶりだ……何しとるこんな所で!!その傷はどうした!!あ〜いやいや言わんでいいぞ」

男はそう呟くと
人魚の少女、ケイミーを見てからフジを見た
周囲を見回すと納得したようだ

「ふむふむ…つまり……成程……全く酷い目にあったな、ハチ、それにお嬢さん………お前達が助けてくれたのか」

男はそう言うと麦藁帽子の男の一味を見てから覚悟を決めたように黙った

「……さて…」

次の瞬間
また先程感じたあの『圧力』を感じた。

空気を伝わって
痺れるような震動となんとも言い難い『力』がこちらにも伝わってくる。

気を抜けば
意識なんか簡単に失うだろう。
フジは痛みと伝わってくる『覇気』の力に耐えると深く息を吐いた

「はっ…はぁ。」

舞台から見えるがらがらの観客席にいた衛兵達が
一瞬で倒れていくのが見えた
『覇気』に耐えられなかったんだろうが
フジにはこの力が『覇気』とは分からなかった。

ただ強い力と…それだけだ。

「……あの」
「…?」

フジは声が聞こえた水槽を見上げるとそこには人魚の少女が不安げにこちらを見ていた。

「ありがとう…助けてくれて。」

「ぼ…私は何も出来な…かったから。寧ろ謝るのはこちら…本当にごめん…なさい。」

権力の強さがあんな哀れな人でなしを作り上げてしまった
そして自分はただ見ているだけだった。
感謝されるような事はしていない…

「あんな人に…黙って従うしか生きられないなんて……情けない。」
いつの間にかまた涙が流れていた。
頬伝い落ちていく涙に瞼を閉じて、頭を下げた。

「ごめんなさい…本当に…ごめんなさい」
「あなたが謝ることなんてない!そんなのないよ!!」

「……早く逃げた方が…良いですよ。もうそろそろ…海軍も来てるはずですし」

水槽を使って立ち上がり
脇腹を押さえて歩こうと足を踏み出した。

「その怪我だ、あまり歩かない方がいい」
男、シルバーズ・レイリーはそう言うとフジの肩を掴んだ

「大丈夫…っです。」
だが、フジにこりと精一杯の笑みを向けてから
よろよろと拙い足取りで舞台から降り、正面入口へ向かうゆるやかな階段を歩く
席の背凭れを持ちながら、ゆっくりと歩く

涙を拭い
震える足に力をいれる

「大丈夫…ですか?ごめんなさい…私の『馬鹿な旦那様』が」
「いや俺は大丈夫だが、お前の怪我の方が…」
「そうだぞ!!出血が酷い、衣服越しにでも分かる!おれ医者なんだ!手当てするから歩いちゃ駄目だ」

人語を喋る小さなタヌキ…いや角があるから違うか
不思議な生き物はそう言うと着物の裾を引っ張り、座るように指示した

「いえ…大丈夫です。ご親切にありがとうございます」
フジはにこりと微笑み
頭を深々と二人に下げた
謝罪の意を込めて

「…本当にごめんなさい。」

謝るしかなかった
それを見た二人はあたふたと頭を上げるように言ってくれたが罪悪感があって仕方ない。

「他の皆様も…本当に申し訳ありません。数々の非礼お許し下さいませ…とんだ無礼を」
フジはまた深々と頭を下げると視界に血塗れになった自分の着物が目に入った

『此処で…僕が死んでしまえば、天竜人一家も簡単に殺せる。そうすればもう悲劇は繰り返され…ない』

フジは首輪にそっと触れ、決意を固めたように周りを見回した。

どうやら人魚さんの首輪は外れ、他の奴隷達は鍵を手にいれ解放されたようだ

なら直ぐに脱出すれば…彼らは死なない
彼らが出来るだけ此処から離れてくれれば被害はそうでないだろう

フジはまた一歩ずつ階段を上がり、正面入口の前に立った

「皆様方は裏口から…お逃げ下さい。私が時間を…稼ぎます」

フジは気絶した衛兵の脇に落ちていた小刀を拾い上げ
鞘から小刀を抜いた

「ちょ…っあなた怪我が!」
「動いたら出血が酷くなるわ」

鮮やかなオレンジ色の髪の女性と黒髪の女性が視界の端に見える
「大丈夫です。そんなこと…すぐに意味も無くなりますから」

フジはまたにこりと笑った

麦藁一味は、皆首を傾げた
何を言っているんだとばかりに眉を潜める

「貴殿が…『あの人』を殴った時……実に気持ち良かった。ロズワード聖やシャルリア宮が気絶なんて初めて見ました」
フジはくすりと笑うとまたにこりと笑った

「だから貴殿方を助けたいと思ったんです。」

「でもそんなことしたら君が…」
「仮にも天竜人の正室が私達の脱出の手だてを考えたなんてばれたらあなたもただじゃすまないでしょう」

フジは首輪を一撫ですると目を閉じ、そして開けた。


「もう地獄ならとっくに見ました。私なら大丈夫、あの人達も海軍も私をこんな場所で殺す事はありません」

そう
此処で
こんな人のたくさんいる島で僕を殺すわけがない

フジがまたにこりと笑うと外から声が聞こえた


『犯人は速やかにロズワード一家を解放しなさい!!直『大将』が到着する。早々に降伏する事をすすめる!!どうなっても知らんぞ!!!ルーキー共!!』

海軍がもう会場を囲んでいるのだろう
大将…一体誰が来るのか
フジが小刀片手に目を見開いていると外の声を気にしていないのか会話が続けられた

「おれ達は巻き込まれるどころか…完全に共犯者扱いだな」
「“麦わらのルフィ”の噂通りのイカレ具合を見れたんだ。文句はねェが………『大将』と今ぶつかるのはゴメンだ…!!」

ルーキー、ハートの海賊団船長トラファルガー・ローとキッド海賊団船長ユースタス・キャプテン・キッド

フジが新聞を見ていたら名前は絶対知っていた筈だが新聞は読ませてもらっていないので分かっていなかった

彼らもまた海賊で
自分以外立っている人間は海賊とそれに関わる人間だと

「長引くだけ兵が増える。先に行かせて貰うぞ。もののついでだ、お前ら助けてやるよ!表の掃除はしといてやるから安心しな」

赤髪の男、キッドがそう言って去ろうとする中
頭にきたのか
ローと麦わらのルフィことモンキー・D・ルフィは動き出した

「……ぁ」

自分の提案など聞いていなかったのかと思える程の奔放さにフジは開いた口が塞がらなかった

「お前さっきはありがとうな!助かった!」

ルフィはニッと歯を見せてフジの肩を叩くなり
足早に入口に向かっていった

「…ベポ」
「アイ!」

「その女連れていく。怪我の手当てしとけ」
「え…キャプテン良いの?」

ローはベポと呼んだ白熊にそう指示するとフジに近付いた

「…あなた、正気ですか。」
「正気だ。」

「私を連れていくなんて正気の沙汰じゃない…!海軍に追いかけられる事になりますよ」
「俺は海賊だ。海軍に追いかけられるのは当たり前だろ」

フジは眼前に立たれた自分より背の高い若い男を見上げた。
男の顔には恐れなど何一つない。

「お前を籠から出してやる」
「…え……ちょっと待ってください。」

「俺に指図するな……ベポ」

フジは足早に近寄ってきたベポが触れる前に動き、口を開いた

「っ…貴方は誰ですか!!ぼ…私なんか連れていっても良いことなんてひとつもないのに!」
「………。」

「助けて後で後悔するだけです!放っておいてください」
「…黙っとけ」

ローはそう言うと持っていた長刀で鳩尾を強く突いた

「なっ…!」
フジは鳩尾に伝わる激痛に意識を失った
崩れ落ちる前にローはフジを抱き起こし、ベポに手渡すと意気揚々と正面入口へ向かう他の船長達を追うように出ていってしまった。

一言だけ呟いて

「浚ってやるよ。自由になってみろ」



「全くあの人は…」
「自分勝手というかなんというか」

「取りあえず止血って…」
「これ……脱がす?」

「「……」」

ペンギンとシャチは気を失ったフジを前に二人で顔を見合わせた。


いかに海賊とは言え気絶する儚げな美人に触れる勇気は無かった。


「いや…流石にそれは」
「悪い事するわけじゃないのに何でこんな罪悪感が」

それを見かねた、いや無意識だろう。
ベポはフジを俵担ぎに抱え上げた

「「……お前何してんだ!!?」」
「え…早く逃げなきゃいけないんじゃないの?」

「いやそうだけどもよ…」
「お前がやるか!?」
「すいません…」

「しかも俵担ぎて!」
「やっぱお姫様なんだからお姫様抱っこだろうが!」
「ごめんなさい…」

「「打たれ弱ぇえよ!!」」
しょんぼりと俯くベポに完璧とも言えるツッコミをいれると
それぞれ歩き出した。


縛りのない世界
光の射す世界
自由な世界
フジが何よりも望んだもの


----------
マリンフォード海軍本部元帥執務室にて

「センゴク元帥、現地より一報が入りました!ロズワード一家は無事救出…が、チャルロス聖正室が……」
「何だ、さっさと言え」

「はっ、チャルロス聖正室フジ様が拐われました。」
「なっ…一体誰が!!」

「目撃証言によるとオークション会場主犯の一人、懸賞金二億ベリー、ハートの海賊団船長トラファルガー・ローとその一味と言うことです!」

部下の報告に苦虫を噛み潰したような苦渋の表情でセンゴクは机を叩いた

「よりによって『寵姫』に手を出すとは…っ最悪の事態だ」
「はぁ…?」

これには若い将校も首を傾げてしまう

たかだか天竜人の正妻
何人も美しい女達をを取っ替え引っ替えで側室に迎えている天竜人なら正妻だとて論外ではないだろう

「元帥、私には分からないのですが…『寵姫』がいなくなればどうなりますか」

将校の言葉にセンゴクは重い口を開いた

「…早く取り返さねば…世界が傾く事になる。急いで兵を集め、捜索活動に移れ!!」

たった一人の人間が
世界の破滅を招くなど
考えもつかない
だが、この世界では何が起こっても可笑しくはないのだ。


赤ん坊からおしゃぶりを取り上げるとどうなる?
しかも質の悪い赤ん坊だ

気に入っている、いつも側にあるものが無くなれば泣きわめき 機嫌が悪くなり
次第に周りに当たり散らす

簡単に言えばそう言うことになる。
しかも赤ん坊よりも質が悪い大人である


「『寵姫』がいなくなれば沢山の人間が『八つ当たり』で死ぬ事になる」

手始めは手近な奴隷
それから徐々に手当たり次第
沢山の人間が死ぬだろう
暇潰しに…

絶対権力
その人物達を魅了したたった一人の人間

「『寵姫』はこの聖地マリージョアの人柱だ。天竜人達の機嫌取りの為だけに生きている、あの一家だけではない…厄介なのは他の世界貴族達とも『寵姫』は繋がっているのだ。」


寵姫は多くの財で美しく咲く花である
背負わされたものは大きい
一生を籠の中、ただ愛でられるだけ人生で終えるのだ。

まるで花園の花達のように
柵に囲われ、なに不自由なく暮らし
美しくあるのだ

そしてたくさんの人間に愛でられて枯れ果てる末路を辿るだろう

「トラファルガー・ロー…天竜人の『寵姫』に手を出した事を後悔しろ!!」

世界は揺れ動く
一羽の籠の美しい雲雀
籠から出たその鳥は魅了してしまった。
世界の頂点に立つ者達を

容姿?
声?
振舞い?
性格?
知識?
一体何が彼らを魅了したのが何だったのかは分からない
だが何かが
彼らを揺さぶった


そして世界をも揺さぶる
偽りを背負い
世界を背負い
大罪を背負い
真実を隠す
それでも雲雀は願う
本当の『自由』を。


その日シャボンディ諸島には号外が配られた

麦わら海賊団船長モンキー・D・ルフィが天竜人を殴るという前代未聞の大事件

ハートの海賊団船長、トラファルガー・ローが天竜人チャルロス聖正室、通称『寵姫』という世界貴族を誘拐したという事件

そして麦わら一味は『完全崩壊』したという事実
ハートの海賊団は行方知らず。
現在も捜索活動が行われている

寵姫には懸賞金が掛けられた
その額、異例の『十億ベリー』
見つけ次第海軍本部に連絡
無傷が条件



(さぁ、幕は降りた)
.


*アトガキ*

『鳥籠の雲雀』終了です。
どう考えても続くだろ。と思った方は多いと思いますが……ご察しの通り、続きます。
シリーズ化する予定です(笑)
長編は長くなるから書きたくないと決めていたのですが…まぁ短編で書き溜めていくならなんとかなるかなと思い
現在続編を制作中です。

また暫しお待ちください

では、次は反省。
よく分からない状態で終わらしてしまってすみませんm(__)m

疑問点が多い方もいると思いますので
主人公設定を書きたいと思います

名前はフジ
デフォルト名はフジと言います。
齢18の正真正銘男です
出身はワノクニ
芸を商いに海を旅し、各国を回る一座のワノクニ一の女形俳優でした。
所謂大衆演劇ですね
13歳の時、天竜人一家に見初められ、現在天竜人チャルロス聖正室
通称『寵姫』という身分にあります。
寵姫は普通愛人とか妾という意味ですがこの作品では『寵愛を受ける姫』という意味で使用しています
彼が男という事は天竜人一家、世界政府と海軍本部上層部という人間にしか認知されていません。

サクという男は原作51巻でチャルロス聖の馬になっていた奴隷を勝手に主人公君と同じ一座で主人公君の相方俳優をしていました。という設定にしています。

何故そうなったかはこれから書いていく予定です

イメージ画はこんな感じ



パーティー仕様はこんな感じ



作者は絵が下手なので描いて下さる方がいれば
掲示板に投稿して下さい!
切実に募集します

椿

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