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鳥籠の雲雀(前半)【シリアス/暴力シーン含む/第一部】




目を閉じた。
もう何も見たくなくて

心を閉ざした。
もう何も感じたくなくて

この豪華絢爛な鳥籠は地獄だと誰か言って

ーーこの檻は地獄だ。


【鳥籠の雲雀】


シャボンディ諸島
これ程まで光と闇がはっきりした場所はない。

ファッション、文化、観光。etc...
素晴らしい発展を遂げている裏側、
暴力、魚人・人魚に対する差別が根強く残り、
人身売買、奴隷制度
非人道的な事が簡単に許される街

僕はこの街が大嫌いだ。
それよりもこの人達が大嫌いだ。

「フジ、フジ
!何をしてるアマス」

そう怒鳴って僕の手を引く彼女は
世界貴族、天竜人シャルリア宮。
彼女は義理の妹という続柄になる。
あちらの方が年齢は上だが、逆らうことはできない。

「……申し訳ありません」
「心配せずともチャルロス兄様は後から来るアマス。先に入っておくアマス」

そんなこと思っているわけもない。
自分が考えていたのは眼前に建ち聳える建物
1番GR、人間オークション会場のことだ。

心臓の鼓動が早くなる
発作が出そうな衝動に襲われた

『此処で売られた方が良かったかもしれない。』

簡単に死ねた。
ぼろくずのように
ごみみたいに捨てられて
塵山で死ねただろう

「フジ、行くアマス」
「……はい」

それすらも許されない
それが『奴隷』から逃れた場所にいる自分を束縛するものだ。
自分はただ頷くしかない
偽の笑みを浮かべながら

「……これは!!ロズワード聖!!シャルリア宮!!それにこれは珍しいチャルロス聖の正室様!いらっしゃいませ!!」


周囲の人間がヒザつきをし、ヒソヒソ話をしているのが耳に入る中
オークション会場側の人間が出てきた

『天竜人の寵姫だ』
『あれが噂の…随分若いな』
『それに何という美貌』
『何でもワノクニ出身だとか』

寵姫
正室
そんな名前はない
自分にはフジという名前があるのに誰も呼びはしない
呼ぶのは憎い天竜人達だけ

「会場ではヒザつき等の作法。無礼講に願いますが」
「構わんえ。競りにならんからな」

「ありがとうございます。…ではVIP席へ!!」

オークション会場側の男はそう言うと天竜人二人を案内するように先導し始める

「チャルロス兄様、遅いアマスね……」
「グズな“人間”などに乗るからだえ。乗るなら魚人に限る。腕力が人間の10倍あるからな」

『グズな人間』に思わず目を見開いてしまった。
グズ…サクはグズじゃない
僕の幼馴染みなのに
でも彼らにとっては『グズな人間』

何も知らないくせに
…サクがどれだけ素晴らしい役者かしらないくせに

思わず手を強く握っていた
伸びた爪が手の平の肉に食い込み血が滲んだ

今頃、サクは『馬鹿男』の馬にされている
そう考えただけで苛立ちが募ると同時に心配になってくる

怪我をしているだろう
殴る蹴るは日常茶飯事のあの男の事だ
今頃、大通りの観衆の前で暴行しているのだろう

「……。」

目を瞑った
もう何も見たくない。
それが逃げと知っていても何もできない
これが自分の力の力量だと知らしめられた。













『おいあれは』
『あぁ…天竜人の寵姫、チャルロス聖正室のフジ様だ』
『なんと美しい』
『どうりで手放さない訳だ』
『寵姫様を拝見できるとはツイてる…っ』

シャルリア宮に手を引かれた奴隷とは違う存在
ハーフアップされた艶やかな腰まである黒髪の一際眩く、目を惹く人に観客席の客達は釘付けにした。

貴族達の羨望の眼差しに他の一見の客達も海賊達めざわめきたつ

前髪を上げ、よく見えるその顔は若く清廉とした端正な美しい顔立ちは頭から被ったヴェール越しにも分かる

幼さを少し残した儚げな、どこか艶やかでか細い華やかさを持ち合わしたような
そんな美しさ

決して勝ち気でも下品な訳でもない
上品で淑やかな空気を纏った姿に老若男女問わず誰もがその人に熱い溜め息を着いた。

肌は日に焼けていない乳白色で染み一つない見事なものだ。
その中で目尻、唇、爪の朱が際立って目立つ

吸い込まれそうな薄紫色の目が印象的な美女と言えるその人はすらりと細い身体をしている。

だがスレンダーという訳ではない
胸も尻も出るべき所が出ていない

全体的に細いのだ。
手足は長く、腰は服越しにも分かる細い柳腰で
美しいマーメイドラインを描いていた
だがそれを隠す、いや拒むと言った方が良いのかもしれない
首位しか露出のない足首丈まである『着物』を纏っている。

首元にあしらわれた白いレースの薄紫色の着物に黒の帯

着物には白い芍薬の花が描かれており、ハーフアップにされた位置に飾られた髪飾りの花も一緒だ。
高いヒールの黒革のブーツを履いているせいか異文化の入り交じった空気が漂う

シルバーのチョーカー
いや首輪とも言える
アメジストが均一に嵌まった豪華な首輪とも言えるだろう
鎖は繋がっていない
だがその首輪は天竜人の『所有物』という事を強く示していた。


「おい…」
「どうしたんです、船長」

「誰だあれ」

VIP席に座る天竜人の隣に控える美しい人物を真っ直ぐと見つめる北の海出身ハートの海賊団船長、トラファルガー・ローは後ろにいた部下に顎でしゃくった。

『PENGUIN』と書かれた帽子を目深被ったツナギの男は船長が気になった人物に目をやると答えた。

「あぁ、ありゃ『寵姫』でしょ。天竜人の」
「寵姫…愛人ってやつか」

「天竜人チャルロス聖の正室ですよ。寵姫ってのは通称みたいなんです。あの通りの『ご寵愛』ぶりで、そんな呼び名が付いたんでしょうよ」
「…へぇ。」

ロ-が珍しく他人に興味を示したのでキャスケット帽を被ったもう一人の揃いのツナギを着た男は『PENGUIN』帽を被った男と見合い、驚いていた

『船長が他人に興味を示した!』
『珍しすぎる!こりゃ雨降んぞ!!!』

『船長に春が来たのか!?』
『いやでも相手は天竜人の寵姫だ』

小さな感動を覚えている部下をよそにローはまだ真っ直ぐと見ていた
「せ、船長。あれは駄目ですよ!手出しちゃっ」
「……。」

「天竜人の寵姫に手なんか出したら海軍本部が総出で来ますからね」「…俺に指図するな」


駄目だあぁあ!!
もう船長を止められん!
どうにもならねぇよ!
ペンギン、シャチの苦難はまだまだ続くようだ。

そしてオークションは始まる












-------------

此処は塵の掃き溜めだ
悪いものが溜まりに溜まっている。

華やかさの裏に積もりに積もった闇がある

「何と破格!!美しい踊り子バシア!!80万スタートで720万ベリーという高額での落札となりました〜〜〜っ!!」

人が物の如く売り買いされる
『奴隷』に人間の権利など無いのだ。
美しいもの、醜いものと判別されて金で買われる

身体が震えてしまう
怖い?怖い。
本当は今この瞬間に逃げてしまいたい

何に怯えているのか
この非人道的な行為を目の当たりにして平然と笑っている人がいること?

舞台の上で絶望に暮れる若い女性の涙?

否、全てが怖い
何もかもが怖いのだ
昨日の痛みが再び身体に戻ってくる
身体中の鬱血痕に熱が戻ってくる

穢い穢い穢い穢い穢い穢い穢い
痛い熱い苦しい痛い痛い…っ

いつもの発作が出そうになるのをヴェールの裾を握りしめ、耐えた。

ばれてはいけない
悟られてはいけない
助けを求めてはいけない
他人を見てはいけない
誰も好きになってはいけない
真意を言ってはいけない


「……。」

大丈夫、もうすぐこの忌々しいショーも終わる

目を閉じ、シャルリア宮の隣の椅子に座っていると背後で聞きたくない声が聞こえた

扉が開くのと同時に。


「まだやってはいるもののもう終わりの方だえ〜。」

来た
『夫』『主人』『飼い主』
どれとも呼びたくない男がやってきた

「やっと来たアマス、チャルロス兄様…ほら、フジ。迎えに行ってくるアマス。」
「…はい」

ゆっくりと席を立ち、薄暗い階段に足をかけた

コツコツと周囲の音の中で靴音がやけに耳に響く
まるで処刑台へ向かう罪人のようだ

着物の裾を持って、階段を昇っているとふと一人の観客と目があった。

若い男だ
足を組み、堂々と座ってこちらを真っ直ぐと見つめている

間違いだろうと辺りを見渡したが男はやはり自分を見ているではないか。

ふわふわとした白の斑がかった帽子を被った男
20代位だろう
黄色と黒のパーカーにジーンズとラフな恰好だが、堅気ではないとすぐに分かった

手の甲から腕にかけての刺青、パーカーに描かれたドクロのマーク
男の周りにいる同じドクロのマークを胸にしたツナギ姿の男達…と熊。

恐らく海賊だろう
不思議な事はない
此処は海賊なんて無法者いくらでもいる場所だ
可笑しくはない

自分には関係もない

男と徐々に距離が縮まり
そしてすれ違う

「おぉ〜、フジ。会いたかったえ〜」

「…まぁ、旦那様。それは嬉しゅうございます。フジも会いとうございました」

フジは自分より小さなチャルロス聖ににこりと微笑み見下ろした。

不細工な男
自分より小さく年上
血筋と権力のせいで高慢、自己中心的な性格になってしまった哀れな男
これが僕の『夫』なんて可笑しい

男同士なのに…女の人なんて選り取りみどりなのに

「むふー、可愛い奴だえ。」

手をがしりと握り、頬を厭らしく撫でてくる男を今にも突き飛ばしてやりたかった

だが、この男の後ろで床に力なく横たわった『奴隷』を見て、そんな考えは吹っ飛んだ。

『サク…っあんなにボロボロになって…早く治療しないと』

焦りを悟られてはいけない
フジは誘導するように頬を撫でていた手の上に自分の手を重ね、にこりと微笑んだ

「…旦那様、お席へ参りましょう。シャルリア宮もロズワード聖もお待ちかねです。」
「分かったえ…その前に……」


ガッ!!

鈍いその音に思わず目を見開いてしまった。

「お前がノロマだからだえ!!コイツ本当にムカツクえ〜〜っ!!!」

ドカドカッ

「…っ!」

もうボロボロなのに!!
何で…っ!

叫ぶ前に暴行を受けるサクを庇うように前へ出た。

所々血塗れになった筋肉質な汗ばむ身体の感触を感じながら背中、腹にかけて蹴られる感触が伝わってきた

あの男が蹴ったのだ。

「〜っ!!」

サクの苦しみに比べれば
耐えられない痛みなどない

「フジ〜何してるんだえ!前に出たら危ないだえ」
「…っもう、お止め…ください」

近くにいる観客達の何人かがこちらに目を向ける。
だが、そんなことよりこの男の暴虐を止める事の方が重要だった

「サク…っ!サク、しっかり」

疲労と溜まったダメージで虫の息だ。
手当てをして
寝かせないと…っ!

「おいコレ、ついでに売って来い。もういらんえ!!」
「すぐに手続きを」

「っお待ちください!!」

執事は後ろに控えていた護衛兵に連れていけと命じると共にフジの身体を押さえた

「フジ様」
「嫌っ!!お願い…連れていかないで!いや」

「お静かに」
「はな…してっ!いや…!サク!!サクッ!」

フジとか細いサクの声が聞こえた
護衛兵に引き摺られるように連れていかれるサクは此方に力なく手を伸ばしてきた気がしたのだ。

自分も手を伸ばした
もがいて抵抗して
髪を振り乱しながら、必死に手を伸ばした

だがそれも男達に阻まれてしまう
悲痛な声にその場にいた者は目をやった。
麦藁海賊団、キッド海賊団、ハートの海賊団も例外ではなかった。
貴族達もその光景をただ眺めるしかなかった

「嫌…っ!!離せ!離してっ!!サク…っ」

必死に手を伸ばし
男の手を振り払おうとするが、無情にも扉は開き
『奴隷』は連れていかれた

細い小さな手は空を掴むだけだった

「お願い…お願い…だからっ……サクをっ…その人を連れていかないで!…売らっ…ないで…お願い…たった一人の」

幼馴染みを…
これ以上っ!!

涙が止まらなかった
足掻く程、涙が溢れ
床に伝い落ちていった。

泣き崩れるフジの声はオークション司会者や前の方に座る観客の歓声に掻き消される

「フジ、何を泣いてるだえ」
「旦那様…お願い…です。…サクはたった一人の幼馴染みなんです…どうか…どうか」

泣き崩れた自分は只、頭を下げるしか無かった

お願い
どうか彼まで奪わないでとしゃくりあげながら言うフジに近くで見たものは少なからずの同情を持っていた

だが、助けの手も声もない
大きな権力を前には皆無力なのだ

グイッ!

「フジ〜、お前わちしに逆らうのかえ。そんな悪い子に躾た覚えはないえ」

長い後ろ髪を力一杯引っ張り上げられた。

髪がギシギシと嫌な音を発て、頭皮が軋む
痛みに顔が歪む

痛い…だけど此処で言わなければ自分は本当に地に堕ちてしまう

「…つぅっ…っ!」
「天竜人に逆らう事がどういう事か忘れたかえ?…お前の一族がどうなったか」

またグイッと髪を引っ張られ
仕方なし、膝を着き、痛みを和らげようとしていると顔を覗き込まれた。

鼻水を垂らした汚ならしい顔がシャボン玉の膜越しに近づく

「城の残りの奴隷、目の前で順番に潰していくかえ?」
「…っ」

「お前に耐えられるかえ、今度は全員だえ〜。」


殺される
何の罪もない人間が目の前でまた殺される。

両親や一座の皆のように殺される…殺される…殺される殺される

「…ぁ…あ」
抵抗する手を止めたフジは掴まれていた髪を離され、そのまま床に倒れた。

「フジは静かな方が可愛いえ…おい、静かにさせるえ」
「はっ、只今」

チャルロスの後ろに控えていた執事の男は懐から小さなリモコンを取り出し、赤いボタンを押した

するとフジの首輪がピピピッと鳴ったと同時にフジは目を一瞬見開いたかと思えば気を失ってしまった

この首輪には様々な機能が備わっている
自爆機能に加えて居場所が分かったり、そして…気を失わせる程度の衝撃を与えることも出来るのだ

「…ぁっ……」

それを最後に
僕は意識を失った。

弱い
…強くなれたら
…そしたら…もう
……誰も苦しまずに
すむ…の…に


.

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