寵姫様と黄金帝A【テゾーロ裏夢】
『Ωの分際で何故わちきの子を孕まないえ!?』
『この役立たず……っ!』
旦那様はβ性だった。
一目惚れだとかでまだ子供の時に無理矢理嫁がされ、爆弾付きの首輪を嵌められて正妻の座に座らされた。死ぬことも許されず、毎日毎夜獣の交尾のように褥で絡み合ってきた。
時には他の天竜人達に見られながら、時には他の奴隷達に抱かれ、愛でられたが一向に妊娠の兆しはなかった。
普通の男ならないのが当たり前だがーー自分は普通ではなかった。
『寵姫様と黄金帝』
舌と舌が絡み合う。
互いの唾液を絡み合わせ、吸い付き合うだけで今の自分は腰砕けになってしまいそうだった。
いつの間に気を失った自分は見ず知らずの相手と深い口づけを交わしていた。
意識がぼやける中でもささやかながらに男を押し退けようと両手で男の肩を押すがピクリともせず、寧ろ頭上で一纏めに簡単に捕らえられてしまった。
長い口づけ、くちゅ、っちゅと厭らしい水音が耳を犯していく。
「はっ、はぁはぁ……あ、貴方は」
透明な唾液の糸が二人の唇から繋ぎ、そして切れる。意識が戻ったフジは袖で唇を拭ってやっとのことで言葉を紡いだ。
「初めまして、寵姫様。私はこのグラン・テゾーロのオーナー。ギルド・テゾーロと申します」
「貴方が……ギルド……テゾーロ」
黄金帝と呼ばれる世界随一の大富豪
そして元海賊のこの男を前にするとその威圧感、覇気に圧倒されるとともにどくりと心臓が大きく鼓動を打った。
フジは思わず上半身を起き上がらせて逃げようとするが両手をソファーに繋ぎ止められて身動きが取れない。
「貴方が……私を、買った」
「あぁ、そうだ。この好機を長い間待った甲斐はあったようでいい具合に」
ーー調教されて、雌の顔をしている。
背筋がぞくりと震え、脳髄まで浸透してくる深みがある渋い低音が甘く囁いた。
「何処の馬の骨ともしれない相手に慣らされたのは気分が悪いが、Ω性に生まれて初めてという話の方がおかしいか」
酸いも甘いも味わい尽くした男の声にフジは身体の奥がずくりと疼いた気がした。
近づくと香る高価そうな香水のスパイシーで爽やかな香りと共に香ってくる甘い香りにほぅと感嘆の吐息を無意識的に漏らすとテゾーロはにやりと笑った。
「あなたももう気づいているはずだ。俺とあなたが“魂の番 ”だと」
「っ、……ち、違う!!」
「違わない。ほぅら、また匂いが甘くなった」
「っ!」
ぐいと帯紐が引っ張られて、解かれる。
しゅるしゅると擦れる音と共に帯紐が床に落ちるが今はそんなこと考えられない。
テゾーロは帯紐に指をかけ、ついで帯の中にしまいこまれていた腰紐をほどきつつ、フジの耳を愛撫する。
薄い、柔らかな耳朶を食みながらこの耳にピアスを開けたらさぞ良いだろうと思った。
目と同じ薄紫色のアメジストも良いが、きっとこの白い肌にきっと黄金は映えることだろう。
「ひっ……や、ぁ」
耳裏からも香る甘い香りを鼻腔で楽しみながら自分が興奮していることに気づく。そして、自分の下で香りと同じくらい甘い声で鳴いている寵姫もまた興奮しているのだと分かった。
“魂の番 ”
それは、α性とΩ性の人間の間でしか確立しない血よりも濃い繋がりを持つ運命の二人。
一目惚れにも似た電流が走り、視線が合えばその人だと答えを出すように心臓が大きく鼓動を打つ。
テゾーロが初めてフジという人を見たのはこのグラン・テゾーロができる前の事である。
海賊をしていた時、ふと新聞の見出しに花を飾るその人を見つけた。
どこか儚げで優しい空気を纏ったその人は写真の中で柔らかに微笑んでいた。
あの憎たらしい顔をした醜い世界貴族の男の隣で健気にも笑う幼妻、純白の花嫁衣装に包んだあの愛らしい姿に誰もが目を奪われた。
そして、直感で理解しのだ。
ーー俺の魂の番は、こいつなのだと
「ゃ……っ、駄目……、だ、めです。お許しを……」
「何故拒む? 身体は素直だ。こんなにも」
“俺を求めている”
フジの身体がびくりと震える。
中性的な低くも高くもない落ち着いたその声は震えていた。無理矢理発情期を誘発させられて、身体も理性も限界な筈なのにまだ抵抗を見せる。
しゅるりと解けた帯が擦れ、合わせ目が緩まると潤んだ薄紫色の目が伏せられた。羞恥心からか、それとも何かに操を立てているのかそれは分からないがそんな些細なことがテゾーロの逆鱗に触れた。
「俺を見ろ」
「っは、はっ……あ」
先ほどとは空気の違う低い声に目を開いたフジはまるで初な処女のような反応を見せる。アメジストの目から涙が頬を伝ってソファーに落ちる様さえも美しい。
過去の記憶、あの人の柔らかな陽だまりの中に咲く笑顔がふと脳裏をよぎる。
そう、どこか似た雰囲気を持つこの美しい青年に年甲斐もなく惹かれている。魂の番の力かどうかはテゾーロには理解できなかった。
帯を緩ませたフジを軽々と横抱きにするとソファーからベッドへと移動するテゾーロ。余裕があるように見えて彼もΩフェロモンにあてられてヒート状態である。
「や……っ、いや」
ゆうにキングサイズ以上の大きな天蓋付きのベッドにゆっくりと下ろすとフジは襟の合わせ目を握り、残る理性で逃げ場がないと知りながら背後へと身体を動かしてヘッドボートに軽くぶつかった。
「何が嫌だ?」
「……っ、あ!」
テゾーロは乱れた裾からフジの片足を引っ張り、自分の肩にかけると距離をぐいと近づけた。
筋肉の殆どついていないほっそりと長い脚は女のようにしなやかだ。白い足袋を履いたままの姿が煽情的でこれがΩ性の為せるものなら素晴らしいと思えた。
「買われた身で文句が言える立場じゃないが一応聞こうか」
「……番に……なりたく、ない……っ」
その顔で、その声でそんなことを言うのか。
テゾーロは背筋がぞくりと震えた。
「何故だ? 番になればこの忌々しい発情期も解消できる相手がいる。それだけで、楽だろう」
「あっ、は……っ!」
抱いた脚の膝小僧に口づけてやるとそれだけでびくりと身体を震わせるフジの姿に自分の我慢も限界が近いと知った。
「寵姫様はこの悪趣味な首輪がお嫌いかな?」
細い首に装飾品にしては重苦しい銀色の首輪。目の色と同じ色合いをしたオーバルカットのアメジストが嵌め込まれたそれは天竜人達の所有物である奴隷の首輪によく似ていた。
いくら煌びやかな飾りがついていたところでこれは爆弾付きの首輪、家畜の証である。
この人も正妻や寵姫とは名ばかりの家畜なのだとテゾーロは理解した。
「俺の国でその首輪はいらない」
「あっ……」
カチリと言うその音にフジは目を大きくした。首後ろに回された腕が、手が首輪の鍵を外したのである。鍵を外し、首輪後ろ内部に隠れた爆弾解除のボタンを押すとテゾーロはそれを鍵と一緒にゴミのように床に放り投げた。
ゴトッ!と鈍い音が絨毯越しの床に落ちるとフジは首輪がなくなった自分の首を左手で触れる。
「だが、違う首飾りはつけてもらう。最もこれよりはいい趣向のものを用意しよう。それまでは、これでどうだ?」
「えっ……」
テゾーロはフジの左手をとり、自分の右手の薬指に嵌っていた金色の指輪をフジの薬指へと嵌めた。
体格の違う二人なら指に嵌めたところで指輪は緩いと思っていたが、指輪は指に通るとまるで魔法のように縮んでいく。そして丸みを帯びた細身の金色の指輪へと姿を変える。
まるでそれは結婚指輪のようだった。
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グチュッ、ヂュッ、クチュリ……
「んっ、く……ふっ」
「声を出せ」
「も……もう……っあぁ!」
色素の淡い薄紅色の乳首を口で愛撫しながらフジの陰茎を扱くテゾーロはその手にどろりと射精された白濁液に笑みをこぼした。
そして濡れたその指をそのまま蟻の門渡りを通って濡れた後孔へとまずは一本挿し入れた。
くちゅっ、ちゅ、くちゅくちゅ
ぬちゅ、ぐぢゅっ
「やっ! ……は、はっ……あ、っあ」
フジの足先がピンと伸び、指先に力が入る。既にとろりと粘着質な体液で濡れる後孔に挿し入れた指は抜き挿しを繰り返しながらいいところを探っていく。
一本から二本へと数を増やしながら次第に反応がよくなるフジの姿に気分を良くしたテゾーロ。
「ふっ……は、はぁ……っ!」
吐息交じりの艶を帯びた喘ぎ声が絶頂するたびに甘く、蕩けていく様は聞いていて心が踊る。
発情期の熱に浮かされ、侵されて、まだ肝心なものを与えられず綱渡りをしている様を眺めながら堕ちる瞬間を想像すると逸物が熱り立つ心地であった。
幾度も絶頂に達してはいるが未だ生き地獄を味わっているフジはぼやける視界でテゾーロがかちゃりかちゃりとベルトを器用に片手で緩めている姿が入った。
緩められたベルトをそのままに留め具が外されて、チャックが下される。ピンク色のパンツの隙間から見えた黒の下着、前開きのそこから現れた自分のものとは比べものにならない大きく、濃い色をした陰茎にフジの後孔がひくつく。
「ゆ……ゆる、して……くだ」
今、挿入されたらきっと戻れなくなる。
フジは発情期の恐ろしさを身をもって理解していた。この熱を解消できるそれは自分の奥底まで暴き、そして孕みの宮に種付けする。その快楽の例え用のなさと、畜生に堕ちるその絶望を。
そして、彼が魂の番なら……石女と罵られた自分も孕んでしまうかもしれない。
ピトピトッ
そそり勃った陰茎が濡れた後孔に充てがわれる。ひくつくそこを少し指で広げて手で支えた陰茎をテゾーロは浅く突き込んだ。
「ーーっ!!は……っ、あぁ!!」
「今更……もう、全てが遅い」
ズクリッと突き込まれた熱にフジは声を上げた。両腕を背中に回すように促されて回した背の逞しさ、そして近距離で感じるテゾーロの匂いにくらりとする。
これが、α性の男。
自分のフェロモンに反応して発生させるフェロモンの香りに脳髄まで蕩けててしまいそうだ。
今まで相手にしてきた相手は殆どがβであった。天竜人は表向き誰もがαだと言うが実際はβでそれは隠蔽された秘密である。
「考え事とは、随分余裕だな。これは、どうだ?」
ズンッ!
浅く突いていた陰茎が奥まで陰路を進み、前立腺を擦った。
「ひっ……!! あぁ!! あっ、あ……っんんーー!」
「ここ、か」
弱いところ、フジの感じる場所を執拗に突き、緩急をつけて腰を振るテゾーロの背に爪を立ててせめてもの抵抗をした。だが、それも今はスパイスでしかない。余計に弱いところを責められ、首筋をきつく吸われる。
「だ、……だめ……ぇ……、ひゃ……も、やっ」
グチュッ、ヂュッ、パン!パン!
厭らしい褥の音が耳まで犯していく。
広いベッドの上で着物とともにシーツをぐしゃぐしゃに皺だらけにしてはしっとりと湿らせて、ベッドを揺らす。
「はっ、や……ぁ、あぁーーっ!」
もう喘ぎ声さえコントロールできないフジは首筋に痕を残される微かな痛みですら快感で全てが気持ちがいい。射精し尽くすほど達してはやっと挿入された大きくて固い、脈打つ陰茎がドライオーガズムを与えてくる。
幾つも幾つも赤紫色の痕を細い首筋に散らすとテゾーロは責めはそのままにフジの身体を持ち上げ、そして胡座をかいた自分の上へと対面座位の形で更に深く繋がった。
「いっ……!! 深……ふか、い、はっ……はぁ、はぁ……あ」
上げていた前髪がはらはらと落ち、乱れた艶やかな姿のフジは腰に回していた両脚を無意識にテゾーロに巻きつけた。しっかりと掴んで離さないとばかりに回した足にテゾーロはフジの濡れた唇にキスをした。
「んんっ、んーー……んっ、は……ん」
従順に舌を差し出すフジの小さな舌に自分の舌を絡み合わせて互いの唾液を交換するかのような口づけをするテゾーロ。
くちゅっ、ちゅ、っちゅと粘着質な水音とともにベッドのスプリングがギシギシと揺れる。外にいる人間がいればきっと股間を熱り立たせていることだろう。そんな夜の空気を二人は作っていた。
「……っは」
「はぁ……っは、はぁ……んっ、あぁ……っ」
天竜人が五年もの間手放さなかったのも理解できる。男だということを忘れる美しいこのΩは“魔性”だ。国が傾くほどの力を持つ美しく、儚い魔物だ。
乱れた着物から覗く肌は触れればしっとりと吸いついてくる、弱い場所を責め続ければ我慢していた声も露わにする、しなやかな曲線を描いた細い柳腰がその度に反り返る姿の艶やかさは女を凌駕している。
「だめ……っ、も、もぅ……っあ」
上下に揺さぶられながらフジは切なげに顔を顰め、眉を寄せて頬を伝う涙を震わせた。
揺さぶりをかけながらもテゾーロはまだ自分が達せずにいることに気がついた。
これだけ面白いくらい自分の下で喘ぎ、快楽を罪悪感と背合わせに感じる相手とセックスをしたのは初めてだ。フジが感じる様を、乱れる様の一瞬一瞬を愉しんでいて忘れていた?
これは、初めての体験である。オーガズムのないセックスなどただの運動でしかない。
「……も……もう、これ…っ以上……っ、あ!」
達したのか狭い後孔がぎゅっと締め付け、持っていかれそうになるのを堪えてテゾーロは体勢を変えた。今度はフジを俯せにして、白い背に肩に長い真っ直ぐと黒髪が散らばっては揺さぶりと同時に揺れる様を上から眺めた。
「っーー!! んーーっ、んんっ、は……っは、ぁ」
ズッ……パンッ、パンパン!
ズチュッ、ヌチュ……ッグプ
最早自分の体重を支えることができないと両腕を折ったフジは腰を高く上げる体勢でテゾーロに揺さぶられる。
後孔を未だ固い陰茎で緩急のリズムで突かれてもう掠れてきた声で吐息交じりに喘ぐことしかできない。
シーツをぎゅっと握りしめる左手の指にきらりと指輪が輝く。この例えようのない優越感、たまらない。つい数時間前まで天竜人から寵愛を受けていたその人が今は自分の下で快楽に身を焦がしている。
ポタリポタリと垂れる互いの粘着質な体液がベッドにシミを幾つも作り、そして夜が次第に更けていく。
(そろそろ……っか)
耐えてきたがそろそろフィナーレをとテゾーロは腰の動きを変えた。深く抜き挿し貫き、繋がりをより深く奥まで突き込む。
「だ……だめ……っ!だめ、です。なか、……っ、中は……ぁっ」
「俺の子を孕むのが、そんなに……嫌か?」
腰にくる渋い低音、年を重ねた重みと深みが直腸奥にある宮を疼かせた。フジは後ろを振り向くといやいやと首を振り、拒絶の声を漏らす。
「今……っ、出され、たら……っもう……っ」
ーー離れられなくなる。
そう言葉を紡いだフジの項にかかっていた後ろ髪が振動によって落ちると無防備に曝け出されたそこにテゾーロは唇を寄せた。噛み跡が薄らと残った細い首、舌でなぞりながら反応を伺う。
ここを今噛めば、番の契約が完了するだろう。こちらが破棄するまで契約は守られ、そして意思関係なくフジは契約に縛られることになる。
「……っ、存分に味わえ」
「っ! や、やあぁあああーーっ!!」
ドクリッと直腸の中を白濁とした精液が波打って奥へと注がれる。強く突かれ、陰茎が奥の奥までこじ開けるように暴き、無残にもΩ性の男が持つ子宮口へ種付けしたのだ。
「はっ、あ……あっ、……っく……っ!」
その瞬間ガリっと嫌な音がした。
項を強く噛まれ、激しい快楽と甘い痛みを感じたフジはビュクッと自分の陰茎から色も薄くなった白濁液を弱々しく放出した。
「あっ……そ、んな……っこんな、こと」
大きく目を見開いたフジの目から涙が溢れる。絶望よりも深い、涙が頬を濡らしてはシーツを濡らしていく。
項に残る痛み、番の契約が成立した痛みがより一層
フジを叩き落とす。
ドクリドクリと波打つ陰茎から止まらない白濁液の心地に力なく腰を落とした。だが、挿入されたままの後孔からは未だ注がれ、溢れる白濁液が陵辱の光景を物語っていた。
「折角起こした発情期だ。孕むまで思う存分犯してやろう」
ここはグラン・テゾーロ。
太陽が沈んでも眩く輝く黄金の陰で今夜も誰かが泣いている。
善人が馬鹿を見る。
騙された方が負け。
狙われた方が負け。
いやよいやよも好きのうち
それが現実と天使が囁く。
『堕ちていく』
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“哀れな寵姫の話がまた幕を上げる”
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