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寵姫様と黄金帝@【テゾーロ夢】



さぁさぁ、今宵のオークションの大目玉出品商品のご紹介!
紳士淑女の皆様、世界貴族が愛してやまない絶世の傾城がこの度出品されました。

年は18歳、若く美しい盛りの寵姫であります。
アメジストのような美しいパープル・アイに魅了されたお客様も少なくないはず! 白い肌には黒髪がよく似合いますが、それもそのはず。生まれはワノクニ、高貴な血を継いだこの人なら尚更だ!

鑑賞にも、愛玩としても使い途は様々です!
舞や歌、楽器演奏などにも秀でており、どこに連れて行っても恥ずかしくない逸材。

そして、この寵姫にはまだ秘密があります。
今までこの秘密は世界貴族達とその一部にしか知らされていなかった秘密があるのです。
その秘密とは……それは買ってからのお楽しみ!
さぁさぁ、始めは一千万ベリーからスタートです。






『寵姫様と黄金帝』








スポットライトの当てられた舞台の上で自分の隣で価値を上げよう上げようと必死になる司会者を横目に自分は案外冷静だということに驚いた。
怒号のような競りが飛び交い、男や女と老若男女問わず客達が自分の札を高く高く上げるたびに値段がつり上がっていく。

(世界貴族が使い古した中古品も……案外高く、売れるものですね)
人生はどう転ぶかなんて分からない。
フジは《グラン・テゾーロ》のヒューマンショップが開催するオークションの目玉商品として今競りに出されている。

“寵姫”の呼び名でマリージョアの花と愛でられた自分はつい先ほど夫の借金で売られた。夫、チャルロス聖は自分に並々ならぬ執着心を持っていたと思っていたし、他の天竜人にしろ自分を愛人に囲いたいと申し出を出すと思っていたがーーあてが外れた。
簡単に売ってしまったのだ。手放して、さっさと自分達は聖地に帰ってしまった。とんだ話である。

(首輪が外されれば逃げられるかもしれない……でもどこへ?)

父が作ったイズモ一座はもうない。父も仲間のみんなも……皆、死んだ。
故郷と呼べる故郷はワノクニには存在していないし、国外に出た身で戻れるなんて甘い考えだ。頼る人もいない、行くあてもない。やりたいこともーーもう、ない。

『逃げるだけ……疲れるだけならいっそのこと』

“死を選ぶか”
フジは暗い観客席を見つめた。この中に自分を買う相手がいる。どんな相手だろう? 優しい人も愛してくれる人も、況してや“運命の人”もいないのなら手の上で転がせる相手がいい。

「一億! 一億だ!」
「こっちは一億二千だ!」
「一億五千!」
光の世界で笑う日が来ないのなら、もうどうでもいい。
フジは端正な顔立ちを少し曇らせて、唇のみで微笑みを浮かべて横を向いた。視線だけで客達を婀娜っぽく見つめている。その様は切なく、儚げだ。真っ直ぐとした黒髪がさらりと首筋にかかり、舞台の上でも艶やかに客達の視線を攫う。目を離せなくなるほど魅力的だ。

そしてその姿はスクリーン越しの全世界のバイヤー達の目にも止まる。
ワノクニの装束である薄紫色の着物には白い牡丹の花、その姿がよく似合う異国の美女といったその人の姿に客達はごくりと生唾を飲む。
世界貴族の寵愛を一身に受けてきた傾城、それが寵姫なのだ。表向きはチャルロス聖の正妻の座に座るその人は名前の通りである。高嶺の花、誰もが寵姫を手に入れたいと思うほどの美貌と魅力を持ったその人が、今新たな主人を待っている。そう思うだけで額を上げてでも手に入れたくなる。

『あの生きる伝説とも呼ばれた寵姫!』
『なんとしても欲しい』
『処女でなくともその利用価値はまだ若い分ある』

「天竜人は馬鹿だ。この存在をギャンブルの借金で手放すとはなんとも惜しいことをした」と誰もが思った。公の場にあまり現れる事のない寵姫が今眼前にいる。その現実すら夢かと思えるのに、金を出せば我が物にできるというのだ。こんな機会はきっともうない。今を逃せば二度と巡ってこないだろう。

「さぁさぁ、只今の金額は当店歴代初になります! 五億ベリーの値がついています! この様子は全世界のバイヤーの皆様でも購入できるように映像電伝虫で見れるようになっています。……はい、只今J様より十億ベリーの値で入札がありました!! 他ありませんか?」

十億ベリー、百年生きるかどうかもわからない人間一人によくそんな額支払うものだ。
フジは内心そう思いつつ、スポットライトの眩しさに目をそらす。十億と桁違いの入札に札を上げる客が一斉に札を下ろした光景は見ていて中々に面白い。

だが、それで終わりではなかった。
その上の額を提示する人間がいたのだ。

「百億ベリー。その美しい寵姫様に百億ベリーお支払いしますわ。どうですか、皆さん」

札を上げたのは赤毛のグラマラスな体型をした美女だった。ぴったりとした黒のホルターネックドレスを身に纏ったその美女は強気な笑みを浮かべて入札札を高々と上げていた。

「な、な、なんと……っ、百億ベリー! 百億ベリーの値が入りました!他にありませんか? 他に入札はよろしいですか? ……っ、では、百億ベリーで落札としてこの競りを終了させていただきます」

フジの視線が見事落札を果たした美女と絡み合う。サングラスをかけていても、この薄暗い会場の中でもなぜか視線が合ったと思ったのだ。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「初めまして、寵姫様。私はバカラと申します。このグラン・テゾーロでVIP専任コンシェルジュをしております。さぁ、どうぞ。行きましょう」
女は実に優しげな物腰でそう言うなり、フジの手を甲斐甲斐しく取ると、白と金の優美なオープンカー、カメ車の後部座席へとエスコートした。

「あ、ありがとうございます」
フジは驚きで頭が軽く混乱していた。
まさか自分を競り落としたのがこんな美女で、それも百億の額をポンと出せるような大金持ちだなんて。それもまるで壊れ物のように自分を丁寧に扱うものだから、自分が買われたことを一瞬忘れてしまいそうになった。

バカラはフジを後部座席に座らせると運転席へと入りこみ、エンジンをかけた。車に搭載されたマッスルカメが勢いよく動き出し、動力を車へ送るとオープンカー、タートルロイスは走り出す。

夜の闇に光る煌びやかな黄金の都、世界最大のエンターテイメントシティ《グラン・テゾーロ》の街中を走り出したタートルロイスの後部座席でフジは混乱する頭を静かに抱えていた。

「そう、緊張なさらずともいいのですよ。実は、私はあるお方に代わりオークションの代行者として参加したにすぎません」
「……そう、でしたか」

風を切りながら煌びやかな夜の街を走る。とてもこれが船の上に作り上げられた独立国家だなんて思えない。多くの人と光と音、黄金に溢れている。
フジはバカラが代行者ということに納得したとばかりに小さく頷いた。

彼女はここのVIP専任のコンシェルジュと言ったが、いくら世界最大のエンターテイメントシティのコンシェルジュとて、百億もの桁違いな額を支払えるとはとても思えなかったからである。
そんなものが支払えるのは天竜人か、一国の王でしかない筈だ。

「バカラ様、ひとつお聞きしてもよいですか」
「はい、なんなりと。あと、私のことはバカラで構いません」

「では……バカラさん、私を買ったのはどなたですか?」
「このグラン・テゾーロのオーナーであり、この国の国王でもあるギルド・テゾーロ様です」

ーーギルド・テゾーロ。
この街を一代で築き上げた世界でも五本の指に入る大富豪。“黄金帝”の異名を持つ元海賊、としか知らないがどんな人物なのか。

「何故その方が私を……」
「それは、ご本人様に聞いてみてはいかがですか? 私はテゾーロ様から連絡を受けて、指示通りに行動したまでですから」

「そうでしたか。……それは、失礼しました」
「いえ。それよりお疲れではありませんか? お飲物も各種揃えておりますのでどうぞご自由に」

「お心遣い感謝します」
フジはバカラの人の良さに安堵の息を吐いて、ずらりと並べられた飲み物のボトルに視線を移した。飲む気分ではないし、自分は酒が強いわけではない。

「ノンアルコールのカクテルもご用意していますのでよろしければどうぞ」
「……では」

ここで断るのはよくないと思ったフジは酒のボトル以外のボトルを探そうと視線を移すと、そこには一匹の指示を出すマッスルカメがなにやらごそごそと準備をしていた。そして数分も経たずにずいとフジにグラスを差し出す。
赤色が爽やかなトロピカルドリンクが注がれたカクテルグラス。
「いつの間に」とも考えたが、わざわざ作ってくれたものを無下にするのも申し訳ないとフジはグラスを受け取った。グラスを手渡すとマッスルカメはすぐさま自分のポジションへと戻る。

「まぁ、マッスルカメがそんなことするなんて。寵姫様の魅力が成せる技でしょうか」
「……そんなことは。頂戴します」
カクテルグラスに口をつけ、フジはごくりとそれを飲み干した。甘酸っぱい果実の味と共に心臓がどくりと震え、電流が身体に走る。そこでフジは気を失った。

「あらあら、噂はやっぱり本当だったようね」
サイドミラー越しににやりと微笑むバカラは、気を失ったフジが後部座席に倒れたのを確認するとスピードを上げた。目的地は最高級カジノホテル《REORO》にあるオーナー室である。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「こ、これがあの有名な寵姫様」
「なんて美しい」

「私語は慎みなさい。それはオーナーの大事な所有物、傷一つつけてごらんなさい。命はないわ」
バカラはオープンカーをホテルの前に停めると近寄ってきた部下二人に指示を出した。一人は車を駐車場へ、もう一人は気を失った寵姫を運ぶことである。

「はっ……ぁ、はっ、はぁ……っ」
部下の男は息を乱して、頬を、首筋をうすらと赤く染めて気を失ったフジの両膝へ恐る恐る手を回した。片方の手は背へと回した男の鼻腔を擽る噎せ返るような甘い香り、これには思わず顔を赤くする。

ほっそりとしたしなやかな身体は着物越しでも分かるほど熱い。苦しげに顰められた儚げな端正な顔立ちが、わななく薄紅色の唇が扇情的で情事の最中を想像させられる。

「あなた、β?」
「は、はい」

「そう。αじゃなくてよかったわね。Ω性の発情フェロモンにあてられて欲情しないように」

この世界には男女という性以外に“第三の性”というものが存在している。
α、β、Ωの三種類で男女計六種に分類される。
人口比率として多い順にβ、α、Ωとなるが簡単に言えば地位はαが一番高く、βが標準、Ωがカーストの最下層になる。

バカラはα性の女性であった。
だからこそ、平然とした態度を守っていても、今のフジには嫌でも身体が反応してしまう。理性を繋ぎ止めているのはこの美味しそうな眠り姫の主人への忠誠心だけであった。

ホテルの入り口からVIP専用のエレベーターへ。
寵姫を抱き運ぶ男はフジのフェロモンにあてられたわけではないが、顔を真っ赤にして下半身を固くしているのがすぐに分かった。

先程、フジが飲んだ飲み物に仕込まれていたのはΩ性の人間にだけ反応を見せる薬、“発情誘発剤”だった。
Ωは社会的地位としては最下層だが、種としては一番繁殖率が高く生産性に優れた体質を持っている。三ヶ月に一度、一週間の期間を目安に定期的に訪れる発情期。番いのいないαやβをも誘惑するフェロモンを無条件で発し、男女問わずΩ性であれば子を孕むことができる。

それを誘発する薬が入ったドリンクを飲ませた。
αやβであればただのドリンクであった。薬の効果があったということはフジがΩ性の人間だということをはっきりと示している。
Ω性の人間はこの世界では希少価値である。全世界の人口のほんの一握りしかいないのだから当然だ。しかも、最も数が少ないとされる男のΩ。なんて授かりものだろう。

エレベーターは上へ上へと上がり、目的の階で止まる。扉をすり抜けるように頭だけをのぞかせたのはここの警備責任者であるタナカさんであった。

「タナカさん、例の寵姫様をお連れしました」
バカラは突如現れたタナカさんに顔色変えず、そう言った。その言葉にタナカさんはバカラの後ろに控える男が抱いた存在に視線を向ける。むせ返るような雌の発情した甘い香り、これには喉がなってしまう。
「これはなんとも美味しそうな……失礼。では、お預かりしましょう。バカラ、手を」

タナカさんは男からフジを受け取り、横抱きにするとその振動ですら快楽に感じ取ったフジが甘い声を漏らす。

「んっ……!は……はぁ、はっ、ぁ」
「これはこれは失礼。早くオーナーにお渡ししなくては……するるるる」

バカラはタナカさんのフジを抱きしめる手に自分の手で器用に掴み、エレベーターの扉を三人はすり抜けた。一人、フェロモンにあてられた男はエレベーター内でズボンの中ではちきれんばかりの「自分の息子をどうにかしないと」とエレベーターのボタンを押していた。















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「テゾーロ様、寵姫様をお連れしました」
「ご苦労。顔を見せろ」
「よくお眠りです。発情誘発剤がよく効いているせいで気を失ったようです」

ギルド・テゾーロは私室に入ってきた三人を手招いた。ゆうに二人以上が座れるであろうソファーに一人足を組んで座っている彼はタナカさんが横抱きにした人物をソファーに寝かせるように指示する。

タナカさんは小さく乱れた吐息交じりの切なげな声を出すフジを静かにソファーの上に横たわらせた。

「ほぉ、やはりΩだったか」
「そのようで」
紅潮したフジの身体を上から下と眺めたテゾーロ、ハーフアップにされた長い黒髪がソファーの上に散らばる様は実に美しい。

「なので、“男”であっても商品価値は落ちないかと。寧ろその逆、男であるからこそ高い価値を持つ。お客が殺到すること間違いなしですわ」
そう言ったのはバカラであった。
バカラは顔にかかったフジの髪を指でつまんで横へとずらすと花の顔をうっとりと見つめた。そして、横たわるフジの履いていたピンヒールのショートブーツを脱がせて足袋姿にさせる。

長い睫毛が縁取られた瞼は閉じられているが、美しいアメジストを彷彿とされる薄紫色の目をしていた。切れ長の目はどこか憂いを帯び、筋の通った鼻、薄い唇が柔らかそうに薄紅色に色づく。口元にアクセントを置く黒子がまた実に色っぽい。

これが、自分と同じ男とはちゃんちゃら面白い話である。それもそのはず。寵姫は表向き女でワノクニの将軍家の血を継ぐ姫君とされていた絶世の美女、傾城の寵姫。天竜人から一身に歪んだ寵愛を受けてきたこの人はΩ性の男だ。

噎せ返るような甘い香りはΩ性の発情期フェロモン、それとは違う香の香り。白檀の匂いが混じり合いなんとも言えぬ心地になる。

「テゾーロ様、これが寵姫様の首輪の鍵です」
「ご苦労。二人とも下がれ」

「かしこまりました。またご用があればお呼びください」
「それでは」
バカラとタナカさんが踵を返したその時である。背中でくぐもった悲鳴を二人は耳にした。

「んんっ! んんーーっ、ん、っん…、ぁ」
喉の奥で発せられたような切なげなその声で察した。眠り姫を起こす口付けはお伽話のように綺麗なものではないのだと

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