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グッドアクシデント




6時間目もあと数分で終わる。

やっと部活に行ける!
てか千歳に会える!


って喜んでいた矢先。


「教材室にこれ運んどいて欲しいんやけど、今日の当番誰やったかな−」


げっ!!


「あ〜、名字か、頼りないな」
「ちょ、失礼でしょ!!!!!」


頼りないなら他の人に任せればいいじゃん!!
そっちのが都合がいいし!!


って言おうとしたら。
すかさず謙也が口を挟んでくる。


「確かに名前 一人は危なっかしーわ」
「やろ?」
「そこ!意気投合すな!」


このペアは本当に厄介だ
絡むととことん過ぎて面倒くさい


「まぁ、さすがに?この量をお前一人で運ばすんわ俺の良心が痛むからなぁ。一応女やし」


「一応ってなに?」


「なら俺も運びますよ」
「え?」


蔵?


「なんや、白石えらい男前やないか」
「二人で運んだ方が無駄がなくてええですから」


あ、無駄云々のお話なのね
でも手伝ってくれるのはかなり助かる!


「ありがと!蔵!」
「ええて、全然かまへん」
「ふーん?ふふーん?」
「…何ですか先生?」
「いや?何もあらへんでぇ?」


ニマニマと鬱陶しい顔つきでジロジロ見てくる担任に第三者の私でさえイラッときたのだから蔵はそれ以上の苛立ちを感じたに違いない


「んじゃ、お前ら二人に任せるわ。名字転ぶのは構わんけど、教材だけは壊すなよ?」

「ちょっとは生徒の心配しろ!!」



そんなこんなで無事(?)授業は終了の時刻を迎えた。




そして放課後。

教卓の上にこれでもかってくらいに積み重ねられた資料に教材。

それらを眺めながら担任の良心って一体何?と真剣に考えた今日この頃。


「さて、運ぶか」
「えっと…本当にいいの?」
「何がや?」
「だってこれ運ぶの大変だよ?」
「名前一人で運ぶ方が大変やろ」
「そうだけど…」


今更になって当番でもない蔵に手伝ってもらうことに対する罪悪感がこうジワァ〜と…


「それに俺が手伝いたいと思うとるだけやから。何も気にすることあらへんて」


そう言って笑いながら、自分が持つ量を分けていく。


ん?でも待てよ?


「何で手伝いたいって思ったの?蔵に得なことないじゃん」


細やかな疑問をぶつけたら仕訳してた手がぴたりと止まった。

あれ?何かまずいこと聞いちゃった…かな?


「そ、それはやな…」
「?」


「白石ー!!」


と、叫びながら全速力で教室に飛び込んできた謙也の声にかき消される蔵の声。


「何やねん!今ええとこ−」


そんな蔵の様子など気に止めることなく時計を確認するとヨッシャ!と言ってガッツポーズをした。


「最速記録達成したんだ!? おめでと!」
「おう!おおきにな!」


どうやら職員室からこの教室まで猛ダッシュした際にかかるタイムの記録更新を達成したらしい。
おめでとう、と拍手をしてあげる。


そんなやりとりに?マークを浮かべる蔵の姿にハッとして。


「せや白石!職員室行くで。オサムちゃんが呼んどる」
「は?」
「練習試合の予定決めるから部長のお前も顔出せやと」
「何で今やねん。ごっつタイミング悪っ」


反論の意を唱えようとする蔵の肩をぽんっと叩く。そしてグットサイン。


「私のことなら気にしないで行っておいでよ、部長!」
「せ、せやかてどないするんやこの教材ー」
「そんことなら俺に任せるばいね」
「ち、千歳!?」


教室のドアの近くで様子を見ていた千歳がこちらに歩み寄ってくる。


「俺が白石の代わりに運んどくばい」
「い、いや、でも悪いし…それに二人きりには−」
「ホントにいいの!?」


あたふたする蔵をそっちのけで、千歳に声をかける。


「ああ、これ持ってけばええだけばいね?」
「うん!!」


千歳と一緒に運べるんだ!!
すごい嬉しい!!


「なんや楽しそうやな、名前のやつ」
「…そやな」
「白石?どないした?」
「あ、いや…何でもあらへん。ほな行こか」
「?」


じゃあ後は任せたで、と謙也が言葉を付け足して蔵と共に教室を後にした。






教材室へ向かう廊下を並んで歩く私たち。


少女漫画で見て憧れてたけど
まさか実現する日がくるなんて…!
素敵なシチュエーション過ぎる!


千歳に会えたし、こうして一緒に並んで歩けるし
今日は本当にいいことばっかりだよ!


「重たくなか?」
「大丈夫!千歳こそ重たくない?」
「男やけんね、これくらい平気たい」
「ふふ、頼もしいね」


教材のほとんどを千歳が持ってくれて
とても申し訳なく思う。


「やっぱり私も少し持つよ」
「却下。重たか荷物ば女の子に持たせられんばいね」


さりげなく、女の子の扱いをしてくれる
そんな優しさにとくんと心臓が脈打った。



教材室。



「これ、ここに置いとけばええと?」
「うん」


それにしても、


「背ぇ高いって便利だね」


脚立も無しに棚の上に軽々と荷物置いてくって
どんな気分なんだろ


「便利なんやけどね〜。困るときもあっとよ?」
「へぇ、そうなんだ。大変なんだね」
「ああ…と、これはどこに置けばええと?」
「あ、それはあっち」
「了解」


てか、ほんとに千歳と二人きりなんだ
緊張するな…

今回ばかりは担任に感謝しないと!
あと謙也!

さっきみたいに
タイミングよく現れる辺りは
空気読めるんだけど

担任と絡むときはちょっとねぇ
話しを無駄に大きくするし…

それがなければ−


そんなことを考えながら教材を
もとの位置に戻していると、



「名前!!」



突然名前を呼ばれ、ハッとする。


「え?」


振り返ると同時にふわっと千歳の匂いに包まれた。
瞬間、私の体は地面に押し倒されて。
咄嗟のことに強く目をつむる。


ドサドサドサ


何かが沢山落ちてくる音がしてそっと目を開けると。


「大丈夫たい!?どこもケガしとらんと!?」


心配そうな顔つきで私の様子を窺う千歳の姿が目に入った。


「う、うん。大丈夫…」


大丈夫なんですけどね…?
これは一体全体どゆことですか?

床に押し倒されて、そして私の上に千歳君が居て−…え?ええええ!? どゆこと!?


「ならよかたい。にしても危なかね」


床に散らばった教材はどうやら棚の上から落ちてきたものらく、段ボールの口が開いて中身が露になっていた。


「そ、そうだね…まさか落ちてくるなんて…」
「危うく教材の下敷きになるとこやったけんね、ほんに間に合ってよかったばい」


ふわっと笑う千歳の表情に胸がきゅうっとなる。


落ちてきた教材から私を庇ってくれたこと、咄嗟のことだとはいえ、名前で呼んでくれたこと



すごく嬉しかった


心臓がうるさいくらいドキドキいってる−



…のは、この体勢にも問題があるよね?!



先程の体勢のまま、という現状を改めて理解すると途端に顔が火照る。


「名字?ほんに大丈夫たい?顔赤かよ?」


そう言って私の顔を覗き込んでくるもんだから、


わーわー!!
ちょ、顔近い!!


更に近くなる距離に悶えそうになる。


きゃー!!!!!
もうキスできるくらいの近さですやん!!

こ、これ以上はさすがにヤバいって!
心臓がもたんっっ


「ほ、ホントに大丈夫だから!!」


隙間から巧く抜け出し、さっと立ち上がる。


我ながら巧みな技術だったと思う
て、そうじゃなくて!!

早くこの場から立ち去らないと!!


「わ、私用事あるから先行くね!!」


そう言葉を残し今世紀最大と思われる速さで教材室を飛び出した。



「…ほんに面白か女たい」



その後ろ姿を千歳が楽しそうに眺めていたことに気づくことなく、私は全力ダッシュしていた。




廊下を全力で走っていると後ろの方から担任の怒鳴り声が聞こえた。


「誰が廊下走りよるんか!!って、お前かー!名字ー!!」

「何しとるん、アイツ」


ちょうど職員室から出てきた謙也がその様子を見て楽しそうに笑う。


「…何かあったんやろか」


その隣で蔵が心配そうに呟いた。


「気になるんかいな」
「…」
「白石?なんか今日変やで?」
「…そないなことあらへん。きっと」



「気のせいや」



それから教室に戻ると鞄を掴み、全力疾走で部室に向かった。







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あきゅろす。
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