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始まり、




ピピピピピ……


「んー、うるさい…」


布団に潜ったまま手探りで目覚まし時計を止めると静かな空間が訪れて。再び夢の世界に引き込まれそうになる。


が、


「おーい。いつまで寝るきや、名前」


それを阻止するかの如く、素早く布団が剥ぎ取られる。太陽の光を真っ向に受け一段と目を強く瞑る。


「ん〜、もうちょい寝かしてよぅ…」
「寝ぼけとらんと早う起きて用意しぃ!俺まで遅刻になるやろ!」


頭上から聞こえる声の主−忍足謙也がこれでもかってくらい大きな声を出す。


「謙也朝からうるさい〜」
「誰かさんが起きんからしゃーないやろ?」
「へいへい、」



名字名前、中学3年2組。
テニス部マネージャー所属。

生まれは大阪、育ちは東京。親の都合で小学校まで東京にいたけど、中学生になる頃、大阪にある実家に戻り、四天宝寺中に入学。そして早3回目の夏を迎えた。

東京暮らしが長かった為、標準語がなかなか抜けないけど、元気いっぱいにスクールライフを送る普通の中学生。


「自己紹介はええから早う用意せっちゅーねん」
「わかってるよ、ケチ」



そして登校中。
決まって謙也のプチ説教が始まる。


「ええ加減一人で起きれるようになりや」
「んー、いいよー。だって謙也が毎日起こしに来てくれるもん」
「俺の苦労も少しは考えろっちゅーねん」
「いいじゃん、幼馴染みの仲でしょー?」


実家と謙也の家が隣同士ということもあって昔から付き合いがあった、いわば幼馴染み。

大阪にいた頃は謙也をよくいじめ…遊んだなぁ


「てか、謙也こぐのおそーい。このままだと遅刻になっちゃうよー」
「誰のせいやと思っとるんや!」


自転車をこぐ謙也の後ろにちょこんと座わって文句をたれる私。


「スピードスターのくせにそれでいいと思ってんの」
「何この子ごっつ辛口」


そんな他愛ない会話をして登校するのが、私たちの日常だったりする。





下駄箱到着。


「なんとか間に合うたな…」
「あと5分しかないけどね」
「いっぺん こいでみるか?あれめっちゃキツいねんで?」
「遠慮しまーす。」


上靴に履き替えながらそんなプチ会話をしていると、


「あらあら、今日も仲良く登校やなんて羨ましいわ〜。あたしもま・ぜ・てぇーん♪」
「浮気か、死なすど」


後ろから小春とユウくんがやってきた。


相変わらずハイテンションだなぁ
そしてユウ君ときたら


「朝からまた禍々しいオーラかましてるね〜」
「うっさいっちゅーねん!」
「あらら、ご立腹状態だ」


「朝っぱらから元気やな、自分ら」


そんな会話をしていると、呆れた顔をして私たちを眺める我がテニス部部長さんがお出ましで。


「あ、蔵。おはよ」
「お早うさん」


軽く手をあげて挨拶を返してくれる蔵こと白石蔵ノ介。
三年間同じクラスだったこともあって、謙也と同じくらい打ち解けられる私の大切な友達なんだ。


「楽しそうばいね」


その声にとくんと私の心臓が音をあげる。


「え!? 千歳!?」



前方から手を振りながらやってくる人物に目を丸くする。


「なんね、名字。そげん物珍しそうな顔して」


千歳だけ私のことを名字と名字で呼ぶ。
距離があるみたいで少し寂しい気もするけれど。


「だって千歳、あんまり学校に来ないから」
「今日は来たい気分やったんよ」
「ホント気分屋さんだね」
「よう言われるばい」


みんなと同じくらい私とも親しくしてくれるから
それでもいいかなって思えたんだ。


それにしても、


こうして向き合って話をしていると
今日は千歳に会えるんだなって実感がわいてくる。


それだけで自然と顔が綻んじゃう辺り
我ながらすごく単純だと思う。


だけどやっぱり好きな人には
毎日会いたいし話もしたい。


ましてや千歳みたいに気分屋さんで
普段あまり学校に来ないともなれば
この気持ちは膨らむばかりで。


出会えた日は本当に嬉しくて
一日中浮かれた気分になるんだ。


「…」
「白石?そげん怖い顔してどうしたと?」


その言葉につられて蔵の顔を見ると、ハッとした様子で笑顔を浮かべた。


「え?ああ、スマンなぁ。ちょっと考え事しとっただけや」

「?」


その様子に千歳と同じく?マークを浮かべていると、


「テニス部早う教室行かんか!!」


下駄箱前を通りかかった先生が私たちに向かって怒鳴る。


「うっわ、もうこんな時間かいな!」
「早いとこ教室行くで!」


それぞれ散らばるなか。


「そんじゃまた」


と千歳が私に呟いて、ひらひらと手を振ってくれた。


「うん、またね!」


その行為に胸が高鳴って。
全力で手を振り返すと優しく微笑んでくれた。

とくんっ、と心臓がまた音をあげる。


そうして足早に教室へ向かう千歳の後ろ姿を眺めながら、同じクラスだったらよかったのになって思ったんだ


「名前ー、ボサッとしとると置いてくでぇ」
「うん、ごめん…って、え?既に放置?ちょっ、待ってよ!」



謙也の声にハッとして、既に教室目掛けて猛ダッシュしている二人の後を慌てて追いかける。



こうしてドタバタした一日が今日も始まるんだ。







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