光が闇に変わる刻
10
鳴り響いた己の腹の音に恥ずかしそうに顔を赤らめ腹を押さえる。
「…あぅ。」
「…立向居?さっき俺が言ったこと覚えてるか?」
「あ…はい。もう駄目だって思ったら直ぐに雷雷軒に行く…ですよね。」
「あぁ。」
「…い…行ってきます。」
腹を押さえたままスッと立ち上がり二、三歩前に出るがふと違和感を感じ後ろを見る。
そこにいるのは未だベンチに座っている円堂。
「あの…円堂さんは行かないんですか?」
「ん、あぁ、俺はもうちょっと此処にいるよ。」
「そう………ですか。」
明らかに落胆している顔。
そんな顔を見てハハッと笑いながら片手を振った。
「そんな顔するなって、俺も後でちゃんと行くからさ。」
「…分かりました。」
腑に落ちない様子ではあったが円堂さんがそう言うなら、と小さく頷き踵を返す。
円堂は円堂で無言のまま立向居の背を見ていたが、不意にある重大な事を思い出し咄嗟に大声で立向居を呼び止める。
「あ…あぁー!立向居立向居!」
「はっ、な、何ですか、円堂さん?!」
いきなり大声で名前を呼ばれビクッと肩を震わせ振り返る。
「俺…俺お前に大事な事言うの忘れてた!」
「だ…大事な事?」
「あぁ!」
ベンチから立ち上がり立向居に近付くと両手を肩に乗せる。
そして数回深呼吸をし恐る恐る重大な事を伝える。
「立向居…俺、お前に
雷雷軒の場所教えてなかったよな!」
この時、確かに立向居の中で時間が止まった。
「………………はい?」
「だーかーら、雷雷軒の場所!教えてなかったよな!」
「………………あ…はい。」
「だよな!あぁ…よかったー…思い出せて。」
「…あの、円堂さん?大事な事って…その事、なんですか?」
「あぁ!だって途中で迷って倒れたりでもしたら大変だろ?」
ニカッ、と太陽の様に眩しい笑みを浮かべる円堂。
そんな笑みにアハハと苦笑しながら立向居は顔の前で手を横に振り大丈夫ですよ、と言った。
「商店街にあるのは知ってますし、もし万が一迷ったら先に雷雷軒に行っている皆さんに電話すればいい事ですから。」
「……あ、そっか。」
「はい、だから大丈夫ですよ円堂さん。わざわざありがとうございます。」
「いや…えっと引き止めてごめんな?」
「気にしてませんよ。」
肩から両手を下ろし謝る円堂に首を横に振る立向居。
そしてお辞儀をするとニコッと笑った。
「それじゃ、俺は行きますね。円堂さんも後で必ず来てくださいね!」
「あぁ、分かったよ!じゃあ後でな!」
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