光が闇に変わる刻
9
河川敷から鉄塔広場に着く頃には青かった空はもう茜色になりつつあった。
立向居は木にぶら下がっているタイヤに気付くと直ぐさまそれに駆け寄り振り返って円堂を見た。
「これですか?円堂さんがいつも特訓に使っているって云うのは。」
「あぁ!俺はそれで何度も何度も特訓してゴッドハンドを身につけたんだぜ!」
「…すごい…。」
興味津々にタイヤのあちこちを見る立向居に段々とこちらが気恥ずかしくなってきたのか、苦笑しながらベンチに腰掛ける。
「…よかったら使ってみるか?」
「へ?!と…とんでもない!遠慮しておきます!!」
あまりにも興味津々に見るものだからもしかしたら立向居も使いたいのかも…と思い声をかけたのだが、予想外の返事に円堂はキョトンとする。
「…そうか?」
大きく頷き、観察の終わったタイヤから離れると円堂の元に行き隣に座る。
もうすっかり茜色になった空を見上げ立向居はポツリと呟いた。
「ここが円堂さんの始まりなんですね。」
「まぁ…そんなところかな?」
首を傾げつつも肯定する円堂に空を見上げたまま薄い笑みを浮かべ言葉を続けた。
「……円堂さんって凄いですよね。」
「へ?いきなりどうしたんだよ立向居。」
「あぁ…いえフットボールフロンティアの事と云い、今回のエイリア学園、ダークエンペラーズの事と云い…何度も何度も窮地に立たされているのに諦めずその逆境を跳ね返すのが凄いなぁ、と。…きっと心が強いんですね円堂さんは。」
今までの戦いを思い出し改めて円堂の心の強さを実感した。
だが円堂は立向居の「心が強い」と云う単語に眉を顰め足元に視線を移し自嘲気味に笑った。
立向居は知らない。
風丸や栗松がイナズマキャラバンから抜けた時、ほんの一時期だがサッカーから身を引いていた事を。
仲間の事が何一つとして見えていなかった事を実感し全てを諦め投げ出した事を。
サッカーから、逃げ出した事を
しかしそんな全てから逃げ出し腑抜けた自分を立ち直らせてくれたのは他の誰でもない、彼、立向居勇気だった。
彼の絶対に諦めないと云う心に昔の、世宇子戦の時の自分を重ねたのだ。
ふと顔を上げ未だ隣で空を見ている立向居を目に映すとニカッと笑い口を開いた。
「ありがとうな、立向居!」
「へ?な、何がですか?」
いきなり「ありがとう」と言われ空から円堂に視線を戻すと先程の円堂の様にキョトンとしながら思わず聞き返した。
「内緒!でも本当にありがとうな!」
―お前の諦めないその心に俺は救われた。
「は…はぁ…。えっと…どう…致しまし…て?」
意味が分からないが取り敢えずそう言っておく。
と、それとほぼ同時に立向居の腹が鳴り、己の空腹度が既に限界に達しつつある事を立向居そして円堂に伝えた。
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