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暗躍する者共(ニ)
「はははへへ!!とりあえず標的の女は手に入れたし、さっさと戻るとするか!」
 ありすを捕らえている男はありすが苦しそうにもがいている顔を楽しそうに眺めながら、おどけた態度を一切崩さずに仲間である男達へと話し掛けた。
「この男の始末は、どうするんですか?」
 又一郎を囲んでいる男達の一人が、ありすを捕まえている兄貴分らしき男に又一郎の始末について質問する。
 兄貴分らしき男は手下のその言葉を聞くと、一切動けずにいる又一郎へゆっくりと視線を向けた。
 そして狂っているとしか思えない程に歪ませた笑顔で、又一郎を舐め回すかのようにじっと見詰めた。

 おどけた態度を取り続ける男に捕らえられているありすは、絶対に傷つけられる事は無い筈だ。
 何故なら“かまいたち”の目的はありすなのであり、此処で死なせてしまったら彼等の計画は破綻してしまうからだ。
 盗賊団である“かまいたち”が何を企んでいるかなど又一郎には解らないが、その企みにはありすが必要不可欠な事くらいは理解出来る。
 しかしそれ程に重宝されているありすとは対照的に、又一郎は“かまいたち”に必要とされてない所かむしろ邪魔な存在としか認識されていないのだ。
 ならば単純な話、これ以上自分達の周りで邪魔でしかない存在にうろつかれても迷惑なだけなので、今此処で殺してしまうのが普通であろう。
 ありすを捕らえている男の言葉次第では、次の瞬間にでも又一郎の頭と胴体は斬り離されてしまうかもしれない。

 今や又一郎の命は、狂った男の手に握られているのだ。

 兄貴分的な男は不気味な程に満面な笑みを浮かべたままに、じたばたと暴れるありすを無理矢理引きずりながら又一郎へと近づいていく。
 又一郎は苦しそうにもがいているありすを見せられるだけで、怒りに身を任せて兄貴分らしき男に全力で殴り掛かりたいのだが、理性を総動員させてどうにか堪えていた。
 兄貴分らしき男は又一郎を囲んでいる男達の間に割って入って、又一郎の目の前の位置にまで移動して立ち止まる。
 そして男は暴れるありすを捕まえたままその場にしゃがみ込み、又一郎の顔をまじまじと覗き込んだ。
 男は邪悪さを感じさせる程の笑顔で、又一郎を完全に見下した態度で又一郎の顔をまじまじと見続けた。
 又一郎は目と鼻の先に怒りの原因である男がいるのにも関わらず、殴る事さえ出来無い状況に歯噛みするしか無かった。

「‥‥‥はんっ!」
 長い間又一郎の顔を覗き込んでいた兄貴分らしき男は、不意に鼻をならしてありすを捕まえている手とは逆の手を自身の懐にいれて、そして自身の懐から何かを取り出す。
 そして男は自身の懐から取り出した物を、素早い動作で又一郎の口元に強く押し付けた。
 又一郎がそれを布だと判断すると同時に、又一郎は急激に意識が保てなくなった。
 又一郎は布に何か薬を染み込ませていると瞬時に理解するが、口元に布を押しつけられた時点で何もかもが手遅れだった。
 又一郎は一人ではありすを守れない自身の情けなさを感じながら、意識が途切れる寸前に抵抗の意味を込めて兄貴分らしき男をぎろりと睨み付ける。

 だがそこで又一郎は男の顔の一部がおかしい事に初めて気がつき、しかし又一郎の意識はそこで途切れてしまった。

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