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二人の鬼(四)
 鬼之介は三撃目を振り終えると、後退して再び刀を正面に構える。
 構えた刀からは、赤い血がたらたらと垂れていた。
「急所を外したか…」
 鬼之介は倒れている龍鬼を見ながら、悔いるように呟いた。

 後僅かだけ深く踏み込めば、相手の体を両断出来たであろうと。

 しかし、それは仕方の無い事だ。
 もう少し深く踏み込んでいれば自身の体制を崩し、その僅かな隙を突かれて反撃される可能性があったのだ。
 鬼之介は刀を構えたまま、倒れている龍鬼に近づこうとはしなかった。

 そうして刀を構えて待つ事数秒、龍鬼が刀を握り締めたままゆっくりと体を起こして立ち上がった。

「貴様…。何故、追い討ちを掛けなかったんだ?」
 龍鬼は起き上がると直ぐに刀を両手で構え直し、凄みのある声で鬼之介を問い詰める。
「追い討ちを掛けようとお主に近づいた瞬間に、我の足を切り落とすつもりであったろうが」
 鬼之介もまた、凄みのある声で龍鬼に問いの答えを返した。

 そう、先程の鬼之介の必殺の一撃を、龍鬼は後ろに体を倒して何とか交わしたのだ。
 その際に左腕を斬られてしまったが急所は外れていたし、龍鬼はそのまま体を地面に叩きつけて難を逃れた。

 だが龍鬼にしてみれば、腕を斬られたのは痛手でもあった。
 龍鬼は鬼之介を警戒して両手でしっかりと刀を握るのだが、斬られた左腕が痛んで仕方がない。
 そしてこの左腕の痛みが、この後の展開に大きく響く事にもなりかねないのだ。
「くそがっ…!!」
 龍鬼は悪態をつきながら、鬼之介を今まで以上に鋭く睨み付ける。
 龍鬼は鬼之介の一撃で、不利な状況に立たされてしまったのだ。
 だが鬼之介にしてみても、痛手が無いわけではなかった。

 鬼之介は龍鬼との間合いを取りつつ、龍鬼に話し掛ける。
「我の決め手の一撃を体を倒して避けれたのは、お主が無意識にとった行動であろう?お主の防衛本能の高さには敬意を評するわ。それに何より、お主が繰り出す出鱈目な一撃…」
 鬼之介の頬にはいつの間にか一筋の切れ目が入っており、其処から血が頬を伝って流れていた。
 鬼之介は片方の手を刀から放し、自身の頬の傷口に当てる。
 そして手に付着した自身の血を口元に運び、笑みを浮かべながらべろりと舐め取った。
「完全に交わした筈なのだがな。我が見た限りでは、ただ力任せに刀を振ったようにしか見えなかったのだが、よもや真空を生み出す程とは…」

 そう、先程一度だけ振るわれた龍鬼の太刀筋は真空を生み出し、鬼之介の頬を斬り裂いていたのだ。

 だが頬を斬られながらも、鬼之介は口元に笑みを浮かべたまま龍鬼を見つめる。
「しかしな。お主の力が幾ら桁外れに強かろうが、それだけでは我には通じぬわ」
 龍鬼は鬼之介の言葉に触発されて、怒りをあらわにした顔で鬼之介をぎろりと睨み付けた。
「さっきからべらべらと、能書きばかりたれやがって!まるで俺が、貴様には勝てないような言い草だな?」
 龍鬼は鬼之介との間合いを、少しずつ詰め始めた。
「その通りよ…。我とお主とでは、戦う上で決定的な差があるのだ」
 鬼之介もまた、龍鬼との間合いを詰め始める。
 そして再び両者の距離が、斬り合える間合いに到達した。
「決定的な差か…。それじゃその差は一体何なのか…、見せて貰おうじゃねぇかぁぁ!!!」
 龍鬼の凄まじき気迫と共に二人の周りの空気が再び一変し、殺し合いが再開される。

 だが緊迫した状況の最中、鬼之介の顔には何故か余裕が現れていた。
 その証拠に龍鬼の凄まじき気迫を受け止めてなお、鬼之介の表情からは笑みが絶える事は無かった。

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