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月明かりの下で戦う者達(九)
 今だに獣のような恐ろしい形相と真っ赤に血走った目のままで、龍鬼は狂ったような行為を繰り返し続ける。
 その姿はまるで地獄の底に住まう鬼が、地獄に落ちてきた罪人に永遠に赦されることのない罰を与えているかのようだ。

 しかし永遠に続くかと思われた龍鬼の狂気は、一人の少女によって止められた。

 龍鬼が何度も何度も男に刀を突き刺す行為に没頭していると、昼間と同じ様に誰かが服を引っ張ってきた。
 龍鬼は真っ赤に血走った目で、後ろに振り向く。
 すると、龍鬼の服の端を掴んで引っ張るありすの姿があった。
『お願い!もうやめて!!』
 勿論、龍鬼にはありすが何を言っているかが解らない。
 しかし、ありすの必死に止めようとしている姿に龍鬼は我を取り戻した。
 この場を異様に重苦しい空気が立ち込める。
「又一…」
 龍鬼は血塗られた刀から手を離し、又一郎に振り返る。
 又一郎を見つめる龍鬼の瞳は、何故かとても寂しそうであった。
「すまなかったな…。助けに来るのが遅くなっちまったぜ…」
 初めて会話した時と同じような雰囲気で龍鬼が謝ってくれたおかげで、又一郎は落ち着いて思考することが出来た。
「嫌、お前にありすを頼むと任せられたのに、私はありすを守りきる事が出来なかった。申し訳ない…」
 又一郎は龍鬼に自分の不甲斐なさを恥じ入るように、深々と頭を下げた。
「気にするな…。それよりお前、傷は大丈夫なのか?」
「あぁ…。大分楽になってきた…」
 又一郎は平気だと言うが、龍鬼は又一郎の顔に大量の汗が沸き上がっていることに気がついた。
 誰の目から見ても分かる程に、又一郎はかなりの無理をしていた。
「無理をするな、又一。立っているだけでも辛い筈…」
 龍鬼が又一郎に休めと言おうとした途端、なんの前触れもなく又一郎が床に倒れた。
「又一!!」
「マタイチ!」
 龍鬼とありすは床に倒れた又一郎に駆け寄る。
 龍鬼は又一郎の体を抱え、ありすは又一郎の顔を心配そうに覗き込んだ。
「又一!!しっかりしろ!!」
「マタイチ!!」
 しかし、二人の呼び掛けに返事を返す事が出来ずに、又一郎の意識はそこで途切れてしまった。

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あきゅろす。
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