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D.C.half
工藤ルート 3
「おーっす。」

「お、来たな桜木。」

工藤が手を上げて応えてくる。

すでにベースをだし、ドラムも並べてある。

「あいかわらずマメなヤツだなー。」

「そうか?ふつーだろ?このぐらいするのは。」

そういって、工藤がアンプも出そうとする。が、持ち上がらない。

「くっ・・・。」

「ったく・・・手伝うよ。」

そういって、アンプを反対側から持ち上げる。

「わ、わるい・・・。」

「いや、いいから。ほら、さっさと準備して始めようぜ。」

そういって、工藤を見る。

「・・・ああ。」

工藤は、いつものように笑った。

「おはようございまーす。」

「おせーよ宮森。もうはじめるぞー。」

一番遅く来た後輩を叱咤するのは工藤の役目だ。

「すいませーん。」

そういって、ドラムを調整する。

俺と工藤もお互いの楽器を構える。

「んじゃ、行くぞ?」

「ああ。」

俺と工藤がうなずくと、宮森がドラムスティックを打ち合わせる。

「1、2、1、2、3、4!」



「それじゃあ、お疲れ様―。」

「おつかれっす〜。」

練習が終わった後、工藤と一緒に帰る。

「結局、ヴォーカルを誰がやるとか決まんなかったな。」

工藤がため息混じりにつぶやく。

「まぁ、野郎ばっかのバンドだからな。女子がいれば、歌ってもらえるんだろうけど・・・。」

「これだけはな。」

お互いに苦笑しながら、歩く。

ふいに、工藤の携帯が鳴った。

「あ、わるい。出るな。」

「おう。」

そういうと工藤は電話に出た。

「はい。・・・・ええ。・・・あ、わかりました。・・・はい、アテはあるので。はい、おばあ様も気をつけて。」

そういって、工藤が電話を切る。

「なんだって?」

「なんか、急に出かけるからって、誰かの家に止めてもらえってさ。」

「へー。で、だれのところ行くんだ?」

工藤がにっこり微笑みながら、俺の肩をつかんだ。

「よろしく☆」

「星とかつけるなぁぁぁああ!!!!」

とりあえず、己の不幸に乾杯。



「あ、おかえりー兄さん。」

家に帰ると、玲夢が大きめのかばんを持って玄関に立っていた。

「ただいま。って、どっか行くのか?」

「うん。今日から学校に泊り込みで仕上げ作業。夜は杉並君の天下だからね。見張ってないと。」

玲夢はそういって玄関から出て行った。

「…。工藤と二人きりってことか。」

なんとなく、嵐が通り過ぎたように固まってしまう。

「って、べつにいいか。玲夢と二人っきりで生活してるほうがよっぽどアブねーっつうの。」

そういいながら、居間に入ってカレンダーを見る。

「今日は3月の13日・・・あと二日で卒業パーティか・・・。」

俺はそういってソファに身を沈める。

「正直なところ、彼女はやっぱりほしいよな・・・。」

卒業パーティを杉並や工藤と過ごすのもいいだろう。

だが、やはり隣にいるのは好きな子のほうがいい。

しかし、問題があった。

「全く目当ての子がいない。」

なんだかんだで女子ともよく話す俺だが、めぼしい女子と言うのはあまりいない。

そういう考えを持つと、対等に接せない気がしたからだ。

ふと、先日の少女が頭に浮かんだ。

「あの子・・・美人だったよな・・・。」

流れるような黒髪に、凛とした顔立ち。

いまさらながら、感心する。

「ふぁ・・・。」

軽くあくびをひとつ。ついでにそのまま伸びもする。

気が付くと眠気が襲っていた。

「ちょっと寝るか・・・。ちょっとだけなら・・・・」

そういって、ソファに寝転がる。

目を閉じると心地いい睡魔が襲ってきて、意識が途切れる。

そして、意識はぶっ飛んだ。



(うげ・・・)

よりにもよって、能力発動だ。よほど睡眠を邪魔したいらしい。

気が付くと、交差点に突っ立っていた。

(あ、ここって学校の近くの商店街の交差点だ。)

知った場所であることを悟り、周りを見渡す。

(微妙に違う・・・。過去のやつか?)

そんなことを思っていると、二人の子供が走ってきた。

両方とも着物を着ている。

片方は短い髪でもう片方は長い髪だ。

着物の柄から、短いほうが男で長いほうが女だろう。

「まてよー、アヅ!」

「お兄ちゃんは遅いんだって!ほら、はやく!信号変わっちゃうよ!」

そういって、女の子は車道に走り出す。

(ほほえましい光景だな・・・。って!信号無視の車がっ!?)

猛スピードで突っ込んでくる車に、女の子は気が付いていない。

「アヅ!」

男の子が、女の子に向かって走りだす

(間に合わない・・・)

直感で、そう感じた。

男の子は、走りながら女の子の名前を呼ぶ。

クラクション。ドンッという音。

全ての視界がブラックアウト。

無・・・・・。



いつの間にか、病室に立っていた。

「命に別状はありません。ただ、少々おかしなことになっていまして・・・」

どこかから、医者が話しているのが聞こえる。

病室の真ん中には、ベットがひとつ。

そのベットに寝ていたのは・・・



「・・・きろ・・・おーい。桜木?」

「ん・・・・。」

だれかに揺り動かされて目が覚める。

「んぁ・・・?」

「んぁ、じゃないだろ?何度呼んでも反応しないから、勝手に入ってきちまったぞ。」

俺を揺り動かしていたのは工藤だった。

工藤は家で着替えてきたらしく、私服姿だ。

「・・・なんか、お前の私服って初めて見た気がする。」

「そうか・・・変か?」

工藤はそういって自分の服装を見る。

はやりのシャツにジーンズというラフな格好だ。格好自体はそんなに驚くものではない。

むしろ、制服のときは分からなかった肩の細さのほうが気になった。

「工藤って、肩幅そんなにないんだな。学ランじゃわかんなかったけど。」

「いうなよ、気にしてるんだから。」

そういってソファに座り込む。

「で?何をご馳走してくれるんだ?」

「俺が作ること決定かよ・・・。工藤だって料理得意じゃないか。」

以前、調理の授業のときに工藤の腕前は確認済みだ。

そういうと、工藤は笑って応える。

「俺は、桜木の料理の腕を確認したいな。な?いいだろ?」

そういって、拝むように手を合わせてくる。

「ったく、しゃーねーなぁ・・・」

結局、俺は立ち上がって、キッチンへと向かう。

「さて、何を作るか・・・」

工藤はそれなりに料理が出来るからなぁ。

後でなにか言われるのもいやだから、まじめに作るとしよう。

「とりあえず米は炊いたから、チャーハンにするか。」

まず、タマゴを良く溶いてご飯に絡ませる。

この時に先にご飯に油を混ぜておくと卵が絡みやすい。

フライパンを中火で暖めながら、油を落とす。

フライパンがあったまったら、あらかじめ一口サイズに切っておいた玉葱、ソーセージ、にんじんを炒める。

玉葱がしんなりしてきたら、ご飯を加えて炒める。

味付けは、味塩コショウで大体を決めて足りない分を塩や醤油で調整する。

最後に皿に盛り付け、紅生姜をのせれば完成。

お好みでパセリなんかもどうぞ。

「はい、出来たぞ。」

「おお〜。うまそうだな・・・。」

工藤の前に皿を置き、お茶を注いだカップを置く。

「んじゃ、いただきまーす。」

「おう、召し上がれ。」

工藤は小さめにすくって口に運ぶ。

その動作がどこかかわいらしい小動物に見える。本人に言ったら怒るだろうが。

「!おいしい!」

「そ、そうか・・・。」

工藤が子供のように目を輝かせる。

「すっごくおいしい!お前って料理うまいんだな?」

「そりゃどーも。」

工藤の賛辞にテレながら心の中で自分を殴る。

(だから、工藤は男だっての。)

そういって自分を納得させ、イメージを振り切るようにチャーハンをがっついた。


「あ、桜木。先に風呂もらうぞ〜」

「おう。・・・・はぁ・・・。」

そういって工藤が風呂場に消えたとき、ため息を吐く。

「俺、どっか壊れちまったのかな・・・。」

工藤の挙動一つひとつをかわいいと思う自分がいるのだ。

親友として一緒にいて楽しいと感じることはある。が、それ以上に心臓が跳ねる。

まるで・・・・

「恋・・・か?」

そうつぶやくと、ふに落ちたように納得感が生まれる。

(いや、しかし・・・なぁ・・?)

何度も言うようだが、工藤は男である。

おとこっつったら、自分と同性で結婚できないわけで、自分もそっちはない・・・はずなわけで。

けれど、ふと気づいたことがあった。

「工藤の肩、玲夢と同じくらいの細さだったな・・・。男性の骨格って確か・・・」

カバンに入っていた生物の教科書から、人骨のページをめくりだす。

そこには、女性の肩幅と男性の肩幅は絶対に違うという文字。

体格動向ではなく、生物的に変化するものだから変化しないはずがないのだ。

「そういや、身体測定も受けてないよな。」

身体測定の日、工藤はいつも風邪を引いている気がする。

偶然・・・といえばそうだろうが、いくらなんでも不自然すぎる。

開いた教科書を放り出して、ソファーに横になる。

「まさか・・・な。」

自分が考えた答えが馬鹿馬鹿しくなる。

工藤は女だ、と思うことによって自分を正当化しようとしている。

それは、ありえなさ過ぎる可能性だった。

「どこかの漫画じゃあるまいし・・・。」

ふと、雨の日にあった少女を思い出す。

「そういえばあの子、工藤に似てなくもなかったな・・・。」

そんなことをつぶやいた自分に苦笑する。

「重症だな。」


「桜木―、フロ上がったぞー。」

工藤の声が風呂場から響いてくる。

「ああ、じゃあ風呂の蓋閉めておいてくれ。俺、後ではいるから。」

そういって、冷蔵庫から良く冷えたジュースを持ってくる。

「はぁ〜、いいゆだったぁ・・・」

「ほい、オレンジジュ・・・・えっ?」

コップに注いだジュースを渡そうとして硬直する。

「お、さんきゅ。って、どうした?桜木。」

工藤は不思議そうに俺を見た。

長い髪はシャンプーによって煌き、頬は湯気によってほんのり上気している。

工藤の服装は上はタンクトップのシャツに下はズボンという格好。

タンクトップは首元が結構開いていて、胸元の近くまで見える形だ。

それから、ありえないことだが。

工藤の胸は膨らんでいた。

「・・・・・・・・・・・は?」

「おーい、桜木さーん?」

工藤は俺の目の前に手を振り動かす。

ちら、と胸元が見えた。間違いなく本物。

「ら○ま二分の一!?」

たしかにハーフつながりだけど、って何のつながりだ。

「はぁ?なに、言ってんだ?桜木。」

工藤そっちのけで頭がフル回転する。

考えられる可能性は三つ。

1、工藤はお湯を掛けると女性化する。

2、工藤は奇病にかかって胸が大きくなっている。

3、俺の妄想による幻覚。

(・・・3?)

「桜木、おーい、戻ってこーい。」

「――――はっ!?」

工藤が俺の頭を叩いて正気を取り戻させる。

「ったく、なんか最近おかしいぞ?お前。」

「おかしいのはお前だっ―――!!」

腰に手を当てて首をかしげる工藤に全力で突っ込む。

「どこがおかしい?」

「現在の状況!」

そういうと、工藤はようやく自分の服装を見る。

「なんだ?別に変じゃないぞ?」

「・・・ソウデスカ。」

工藤の?を浮かべた表情を見て、がっくりとソファーに沈み込む。

「どうしたんだよ・・・?ホントに変だぞ?お前。」

「ああ。俺はいかれたらしい。いいか?よく聞けよ?」

そういって、笑い飛ばされるのを覚悟で話す。

「俺には、お前が女に見える。」

「・・・は?」

工藤が、何を言ってるんだと言う目で見る。

つまり、俺が幻覚を見ているというオチが・・・・

「俺は、女だぞ?」

つかなかった。



「で、なんで女なのに学ランで、サラシも巻いて、肩パッド一枚多くしてまで男装してたんだ?」

とりあえず、服を着てもらった工藤(さん?)に最初に思ったことを聞く。

正直、何ゆえ男装していたのか理解に苦しむ。

「ああ、それは家の決まりごと。なくなられたひいおばあ様の言いつけでな。」

そういって工藤は指をピンと立てた。

「『勉学にはげむべき学生時代に、色恋沙汰などもってのほか。ゆえに、女であることを捨てるべし。』これが工藤家の家訓だからな。もっとも、お母様は恋したらしいけど。」

「どこの漫画の主人公だよ・・・。まじめに実行するお前もお前だ。」

俺は頭を抱えながら工藤を見る。

「しょうがないだろ?実際、選択肢はなかったし。それに、こういう人格だから男のほうが都合よかったんだよ。」

工藤はそういいながら不満げに膨れる。

俺は、改めて工藤を見る。

工藤の体は、こうして見るとじつに女性らしかった。

肩や腰の形は男性のそれではないし、女子の中でもスタイルのいい方だろう。

「なんか、目つきがやらしいぞ。桜木。」

「ええ!?んなことないって!」

工藤からにらまれて俺はあわてて目を離す。

あははは、と笑う工藤はいつもどおりの顔だ。それなのに、どこか違った雰囲気を感じる。

「ま、今日は気を付けなくちゃな。桜木にばれちゃったし。」

「どーいう意味だよ、そりゃあ・・・」

そうつぶやいて俺は肩を下ろした。

「俺はお前にそこまで信頼されてないのか?」

「いやいや、もちろん信じてるさ。そもそも、信じてなきゃこんな笑われるような話しないって。」

工藤が微笑んだ。長髪の工藤の微笑みは、本当に綺麗だった。



次の日。

妙に重い体を不審に思いながら目を開ける。

その目に飛び込んできたのは、綺麗な女の子の顔だった。

「・・・・はい?」

思考停止時間、ざっと十秒。

「んなぁぁぁあああああああああぁあぁな!?ってはぶっ!?」

驚きすぎてベットから落ちる。

「んなっ・・・なななな?」

なんで?という疑問が頭の中を駆け巡る。

工藤は昨日、隣の客間に寝てもらったはずだ。なのに、なぜか居る。

「んみゅ・・・うるさいですぅ・・・」

工藤がそうつぶやいて寝返りを打つ。

その動作がとても女の子らしくかわいらしい。

だが、今はそんな場合ではない。

「おっ、起きろ!工藤!!」

そういって体をゆすろうとするが、ふと手が止まる。

(ものずごく・・・触れずらい・・・)

玲夢ならためらいなく触れられるが、アレは家族だからだ。

工藤は完全に女の子だ。しかも、気になっている女の子。

それでも、このままで居るわけにも行かないので。

「おいっ!!工藤!!起きろっ!!!」

とりあえず、叫ぶ。

「んー・・・なんだよ・・・もう・・・。」

不満げに工藤がようやく起き上がる。

「・・・朝食?」

「なにを寝ぼけてやがるっ!」

寝ぼけ眼の工藤の頭にゲンコを落とす。

「いって・・・。なにすんだよ桜木!・・・って、桜木・・・?」

そういって、ようやく工藤は辺りを見回す。

「へ・・・?え、あれ!?」

「ったく・・・ようやく状況を飲み込んだか・・・ん?」

工藤は俺の顔を見るとみるみるうちに赤面していく。

「き・・・」

「へ?」

おおきく息を吸い込んで、それから

「きゃぁぁあああああぁぁぁあああああ!!!!!???」



「・・・・。」

「いや、ホントスマン。桜木。」

学校に行く途中、工藤はなんども謝ってきた。

「いいよ、もう・・・。ったく・・・。」

そういって赤くはれた頬を撫でる。

あの後、状況をいろいろと勘違いした工藤によって平手打ちの雨を食らった。

工藤の腕力が女性のそれだとしても痛いものは痛かった。

「・・・やっぱ、痛むか?」

工藤がしょんぼりした顔で聞いてくる

その顔を見ていると、なんだか気にしている自分が悪いことをしているような気になってくる。

「もう、気にしなくていいって。大丈夫だから。」

「あ・・・うん。」

そういって工藤は前を向いて今までどおり歩く。

ちらり、と以前雨宿りした屋根付きベンチが見えた。

(そういえば、あの子はどうしてるんだろう・・・。)

俺の視線を追った工藤が何かに気づいたように笑った。

「あの場所、この前いっしょに雨宿りいたしましたね。」

「え・・・・?」

ふいに、工藤が口調を変えた。

その微笑を浮かべた表情と優しい目を見た瞬間、理解した。

「そうか・・・あの子は、工藤だったのか・・・」

「ええ。桜木さん。あの時は、名を明かせずすみませんでした。」

そういって、工藤は深々と頭を下げた。

「いやいや、いいっていいって。女だってばれるわけには行かなかったんだろ?」

「はい・・・。」

そういって工藤は頭を上げて微笑む。

俺は、ふと違和感を覚えた。

目の前にいる工藤と、先ほどまで一緒にいた工藤。

まるで別人のように口調も、雰囲気も変わる。

「さ、行こうぜ、桜木。」

もう一度俺を振り返ったとき、工藤はいつもの工藤だった。




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あきゅろす。
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